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61.お断り

 ボス部屋の魔物を片付けたロバートがヒルデガルド達に近づいて声を掛ける。

「大丈夫か?」

 座り込んで、呆然としていたヒルデガルドがようやく反応する。

「あ、あ、は、はい、大丈夫です。でもウルリーケが!」

 そして、気を取り直して、ウルリーケの顔を覗き込む。


「ああ、魔力が枯渇状態になったんだな。制御出来てなかったから根こそぎ消費してすっからかんだ。長ければ2、3日はそのまま目を覚まさないかもな。まあ、命に別状はない。」

「そ、そうですか・・・。」

 とりあえず命の危険は無いと知ってホッとしたようだ。


「よし、じゃあ気を失ってる者もいるし、11階層入口に抜けて一度地上に戻るか。」

 ロバートは仕方ないのでウルリーケを担いで先に進んで、11階層入口からダンジョン入口へ帰還した。

「このダンジョン入口前にもある程度休む場所はあるが、しばらく目を覚まさないだろうから港町まで戻るぞ。」

 ロバートはそう言って、客待ちの馬車を捕まえる。6人乗りのようで都合がいい。

「よし、そこに寝かせて、お前達も乗り込め。俺達は徒歩でついていく。」

「で、でも・・・。」

 ヒルデガルドが何か言おうとするが、

「俺達が外の方が早い。それに俺達にとっては、走り続けても大した距離じゃない。」

 口を挟む暇を与えず、ウルリーケを座席に寝かせ、他の4人を席に着かせる。御者に代金を渡して出発だ。



 港町に到着し、馬車には他の客がいなかったので、御者に追加で金を渡して、ヒルデガルド達が以前宿泊していた宿まで運んでもらった。3人組も元々この宿だ。

 ロバートは、ヒルデガルド達に宿の部屋を取らせ、ウルリーケをベッドまで運んでやった。

「直ぐには目を覚まさないだろうからゆっくり休むといい。あんたも初めて魔物を狩って精神的に疲れているだろう。」

 そう言って、ロバートは部屋を出て行こうとする。


「ロバート殿!お待ちください。貴方達はこの後どうされるのですか?」

「依頼は2週間程度だったから継続するが、折角戻ってきたから、一度ガリアスに経過報告をしに行って、明日再出発になるだろうな。」 

 ロバートの返事を聞いて、ヒルデガルドは意を決した様に言った。

「ロバート殿。ガリアス殿の依頼が終了した後、私達とパーティを組んで頂けないでしょうか?」

 ロバートは一瞬呆気にとられたが、即答する。

「それは、断る。」

「えっ!?」

と、断りの返事を聞いたヒルデガルドが目を見開いて驚く。

 ロバートは、何故驚いているのか理解に苦しむ。喜んで了承する理由が微塵もないんだが、と。


「り、理由をお聞きしても?」

 動揺しながらヒルデガルドが理由を尋ねる。

「いや、断って驚かれること自体が不思議なんだが。金を払って俺達を雇うって意味ではないんだよな?そうであればパーティを組むことでこちらの利益が全く見出せないっていうことが理由だな。」

「利益?」

「そう。俺達にとってどういう利益が考えられる?あんた達と組んでも俺達のパーティの実力が底上げされる訳でもない。寧ろ庇わなければならない場面が増えそうだ。ただただ利益の分配先が増えて実入りが減るだけなんだが。」

「い、いえ、我が公爵家と繋がりが出来ますし、私達が国に帰る際には公爵家での雇用も検討します!」

 ロバートは、全く価値観が噛み合わないことに辟易しながら、

「ああ、そういうの要らないんだ。貴族と関わって余計なしがらみを増やしたくないんだ。雇われるとかまっぴらごめんだよ。」

「し、しかし、公爵家ですよ!」

 ロバートの拒絶にヒルデガルドがしつこく食い下がる。よっぽど公爵家と縁づくことに価値を感じているのだろうか。


「う~ん、ハッキリ言わないとダメかな。そもそも人族至上主義の帝国に行く気なんかサラサラないんだよ。そこに寝ている侍女の獣人蔑視の態度が帝国貴族の典型的なものだろう?そこに俺の大事な家族を連れていけない。」

「家族ですか?」

「ああ、言ってなかったか?レティとエルザは俺の妻だ。自分の妻を蔑視されるような国に連れていきたい訳がない。」

「つ、つ、妻!?」

 ロバートの言葉に、ヒルデガルドは大きな衝撃を受けた様だ。ロバートは、夜もずっと同じテントにいたのに今更そんなに驚くことかと思いながら続ける。

「そういう意味でも、あんた達とパーティを組むと、レティは勿論俺達全員が不愉快な思いすることになることは目に見えている。何もそこまでハッキリ言わなくてもいいと思ったから、最初に利益が無いってことだけで話を済ませたかったのに。」


 ヒルデガルドは、次の言うべき言葉が浮かばないようだった。彼女が提示した手札は、寧ろロバートが忌避している物であり、全くの逆効果にしかならないのだから。

「まあ、そういうことで、パーティを組むのは無理だと理解してもらえたか?」

「は、・・・はい。」

 ロバートは、途方に暮れたような表情で意気消沈するヒルデガルドを残して、そのまま部屋を出た。



 その後、ロバート達は、3人組をつれてガリアスが滞在している宿に行き、ガリアスの帰りを待った。

 ほどなくして宿に戻ってきたガリアスは、予定外に早く戻ってきたのに驚きながらも、

「お早いお帰りでしたね。特に怪我をしている様には見えませんが何かありましたか?」

「ああ、実は・・・。」

 ロバートは、これまでの経緯をガリアスに説明する。


「はぁ、なるほど。ロバート様には私のお願いで大変ご迷惑をおかけして申し訳ございません。彼女達に良かれと思ったのですが・・・。やはり、帝国の価値観は直ぐには抜けないのでしょう。ご令嬢本人よりも本来それを諫める侍女の方の理解が足りないというのが困ったものです。」

「だから、これ以上彼女達と一緒に行くのは遠慮したいんだが。」

「ええ、これ以上無理をお願いしてご迷惑をおかけするわけには参りません。彼女達には私の方から説明させて頂きます。」

 ガリアスは申し訳なさそうに承諾する。彼自身に直接の原因がある訳ではないので、気の毒ではある。

「あと、彼ら3人については、思ったより優秀で、これ以上つきっきりで教えることもほぼ無い状態だと思う。今はまだ決して強いとは言えないが、自分達の力量を理解して慎重に戦うことが出来るので、10階層のボス部屋を避けて、ランクDの魔物相手に経験を積めば、順当に力を伸ばせそうだ。十分に力をつけてからボス部屋に挑むといい。」

「おお、そうですか。であれば、今回ご迷惑をおかけたしたこともありますし、これで依頼を終了とさせて頂きましょうか。勿論依頼料は全額払いますが。」

「いや、日割りで減額してもらっていい。そこまでお金に困ってないし、やってない分まで貰う訳にはいかない。」

 ロバートは、その後も全額払うというガリアスを説き伏せて、実働日数分を貰うことで決着させて、依頼は終了となった。


1,000,000 PV 突破。誠にありがとうございます。

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[一言] やっと地雷女どもとお別れですか、良かったです
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