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60.ボス部屋へ

 その日は、10階層入口の安全地帯で野営することにした。

 オークの集団とレティの戦いを見た直後は衝撃を受けて固まっていたものの、3人組は気を取り直して、その後も基本に立ち戻った地味で堅実な戦闘を繰り返して先に進んできた。

 ヒルデガルド達は、なまじ実力があるからか衝撃が抜けきらないようで、とても戦闘に集中できないとみてロバートは彼女達を戦わせないことにしていたのだった。


 野営を始めると、ヒルデガルド達は早々に食事を終えて休息にはいったようだ。

 3人組は、食事をしながら相変わらず反省会をしている。

 ロバート達は、テントの中でゆっくり夕食と食後の果物を食べた。

「エルザ、あんまり彼女達を煽らないようにね。特に侍女の方は追いつめられると何をしでかすか分からないタイプだと思うよ。」

「はぁい。ただね、ちょっと彼女にはイラついていたから・・・。」

 エルザも冷静になって若干反省しているようだ。


「まあ、気持ちは分かるよ。でも、あの手の人間は、あまり相手にせず距離を取っておくのが一番だよ。こっちが何もしなくても、勝手に嫉妬して攻撃的になるよ。実際、レティの戦闘を見た後は、嫉妬からかレティへの敵意がすごいしね。」

「はぁ~。困りましたね。でも、私も肉に目を奪われて冷静さが足りなかったかもしれません。結果として見せつける様な形になっちゃいましたし。」

「まあ、現実的には彼女が俺達を害することは物理的に不可能だけど・・・、ダンジョン内で手を出されると冒険者としてはね~。」

「ギルドに突き出す?」

「場合によってはね。最初に締めとかないと、後々問題を起こしそうだから。」

「私達と別れた後なら関係ないんじゃない?」

「まあ、それは暗部に押し付けるか。」

 テントに結界が無ければ、聞いた暗部の者が顔を顰めるであろう結論に落ち着いた。


  

 ロバートはテントを出ると、3人組に近寄る。

「ここまで来た感想は?」

「中々戦えてると思い始めたところで、あの数のオークと遭遇して、まだまだいつ死んでもおかしくない程度の実力しかないなと思いま・・・、思った。」

「そうだな。だが、自分の実力を把握して大事な引き際をわきまえられるなら、十分だと思う。戦い方も確立してきたし、もう俺達の付き添いは必要ないだろうな。今後鍛えていくのであれば、しばらくランクDの魔物相手に着実にレベル上げをしていくのがいいと思う。ただまあ、明日はボス部屋に入ってみよう。まだお前達では敵わないが、情報はあればあるほどいいし、見ておけば無理しようとは思わないだろうしな。」

「分かりま・・・、分かった。」


 話を終え、ロバートがヒルデガルド達に目をやると、疲労からか、2人して寝落ちしていた。

「まあ、今は俺達が見張っているからいいけどな。2人で見張りを回しているから負担も大きかったし。ただこのままだと、危機感が無さ過ぎて魔物よりも冒険者にヤられてしまいそうだ。は~。」

 しかし、敢えて関わることも無いと思い、特に声を掛けることなくテントに戻った。



 翌日、朝食を食べて出発し、昨日のような群れに遭遇することは無く、魔物を順調に排除しながら進んだ。ヒルデガルド達も少しは持ち直したようで、問題なく魔物を狩っていた。

 そして、昼過ぎ頃にボス部屋前に到着した。

「さて、これからボス部屋に入るが、部屋にいるのはオーガ5体にトロール1体の筈だ。3人にはまだ荷が重いだろうから離れて見てるといい。あんた達はどうする?」

 昨晩話したように、3人組には無理しない様に伝え、ヒルデガルド達にどうするか問う。


「私達は・・・」

「お嬢様と2人なら大丈夫です!」

 その根拠のない自信はどこから来るのかとロバート達は思ったが、最悪助けに入ればいいと考えたので、余計な口は挟まないことにした。


「じゃあ、あんた達2人が戦うということで、彼らにも見せたいから一緒に入るぞ。」

 そう言って、ロバートが先頭に立って、ボス部屋へ入って行った。



 ボス部屋に入ると、以前と同じくオーガ5体にトロール1体が確認できた。こちらに気づき敵意を向けてきているが、まだ向かってこない。

 するといきなりウルリーケが前触れなく詠唱を始める。

「えっ!?ウルリーケ?」

 連携も何もない行動に、ヒルデガルドが慌てて声を掛けるが、耳に入っていないようだ。

「いけー!≪豪炎≫」

「まずいな。≪水壁≫」

 ウルリーケが発した魔法の炎が無差別に降り注いでくるのを、ロバートが全員を包み込むように半球形の魔法を展開した。炎が水の壁に遮られ消滅していく。ちなみに魔物には全く当たっていない。


「ウルリーケ!!」

 魔法を放った後、そのまま倒れたウルリーケにヒルデガルドが取り付く。

「今の詠唱は・・・、意図的に省いたのでしょうか?」

 何かに気が付いたようにレティが呟く。

「ああ、魔力を規定する文節を省いてたから、意図的に込める魔力を増やそうとしたんじゃないかな。」

「でも制御し切れず暴走して、無差別攻撃になったということですか・・・。」

「多分昨日のレティの魔法を見て、対抗心で自分一人で一気に殲滅したかったんじゃないかな。暴走した結果、魔力が枯渇してぶっ倒れた訳だけど。」

 

「きゃ~!!」

 ヒルデガルド達を攻撃しようとオーガが振り下ろした棍棒をエルザがガシッと、片手で受け止めた。

 ヒルデガルドは、恐怖で尻餅をついたまま動けないようだ。

「しょうがないわね。」

 エルザが右腕を一振りすると、空いた左拳でエルザを殴ろうとしていたオーガの頭がグシャッと吹っ飛ぶ。それを見た他の4体のオーガが突進してくる。

「お願いしていい?」

 エルザがロバートに頼むと返事も聞かず、トロールへ向かって行った。


「≪風刃≫」

 ロバートは、エルザという目標を失って一瞬戸惑ったオーガ4体の首を魔法でサクッと刎ねる。オーガの肉は食用にはならない為、どうしようかと思ったが、とりあえず収納しておいた。

 エルザの方を見ると、トロールもぶん殴って倒して、ポーチに収納したところだった。


「「「凄い・・・。」」」

 3人組の口から、感嘆の声が聞こえてきた。

 ランクCの魔物とは言え、明らかに自分達ではどうしようもない魔物が圧倒されたのだから当然の事か。

 ロバートは、やれやれと思いながら、ヒルデガルド達に近づいた。


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