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59.オークの群れ

 翌朝、テントの中、3人で朝食をとっていた。

「さすがの私も昨夜のあの娘の態度にはイラっとしたわ。」

 朝からオーク肉のステーキを頬張りながらエルザが言う。

「あんなに分かりやすい敵意をバンバン出していたので、目が覚めてしまいました。」

 ジュウジュウと肉を焼きながらレティも少し怒った様に言う。


「本当に面倒くさい・・・。」

 ロバートは、肉と野菜を炙ったパンに挟みながら呟く。

「あ、それも美味しそう。私も次はそれを作るわ。・・・でもまあ、あと10日ほどやり過ごすしかないんじゃない。旦那様はこれ以上は関わりたくないんでしょう?」

「旦那様がそのつもりでも、あのお嬢様の好意がどんどん増してる気がするのですが・・・。」

 レティが、エルザに炙ったパンを渡しながら心配そうに言う。


「いや、俺はその好意に応えるつもりは無いよ。原点に戻ろう。元々俺達への依頼は、ガリアスの奴隷3人への同行だ。本来彼女達はおまけであって、そっちに手を掛ける必要はないんだよ。既に辺境伯家の暗部の者が到着していて、今後は彼らが張り付くから猶更気にかける必要もなくなるし。」

「ま、気を揉んでもしかたないわね。」

「そうですね・・・。」



 皆が朝食を食べ終わり、出発する。

 何度か戦闘を行ったが、3人組もレベルが上昇してきており、危うい場面が少なくなってきている。


「止まって!嫌な気配を感じる。」

 ミュラーが声を潜めて言い、手で止まるように合図をして、陰から向こうの様子を伺う。

「オークが、11、12頭いる。」

 敵を確認して、ロバートの顔を見ながら報告する。

「それで?」

 ロバートが次を促す。

「・・・今の俺達ではまだ無理だ。気づかれないうちに撤退しよう。」

 グルーンが一度唾を飲み込んだ後、意見を言う。

「賛成だ。」

 フランツも同意する。

「じゃあ、撤退だ。」

 ミュラーも同意し、3人の意見は一致した。


「私達もあの数では厳しいです。撤退ですね。」

 ヒルデガルドも数的に無理と判断したようだ。

「流石お嬢様、ご英断です。」

と、ウルリーケが言って、一歩下がると、パキッっと木の枝を踏んだ。

「「「「えっ!?」」」」

 4人が思わずウルリーケの方を見る。

 オーク達も音が聞こえたのか、警戒するように立ち止まって周囲を伺っている。


「ブッ。」

 エルザが思わず吹き出した。

「『流石お嬢様、ご英断です。(キリッ)』からの『パキッ』って、クックックッ。ねぇ、これってお約束ってやつ?だいたい、その木の枝ってどこにあったの?クックックッ。」

 一応笑うのを我慢しようとしているが、ツボにはまったのか、エルザの肩が震えている。普段ならこんな煽るようなことは言わないのだが、今までの態度が相当腹に据えかねているようだ。

 一方、ウルリーケは、自分のやらかしに真っ青になっていた顔色が、エルザの発言で羞恥と怒りで真っ赤になっている。


「まあ、お約束って言えばお約束だけど、こんな風に現実で目の当たりにしたのは初めてだな。それよりほらっ、エルザが吹き出すからオークがこっちに気づいちゃったよ。まあいいか、レティ、肉が・・・。」

「肉が向こうからやってきました。狩りましょう!肉は総取りです!」

 ロバートが全て言い終わる前に、レティが宣言して、何の気負いもなくゆっくりオークへ向かって歩いていく。

「「「え、え、え、え?」」」

 3人組は、事の成り行きについていけない。なんでこの場面で笑っていられるのか、そんなに落ち着いているのか、ましてや1人でオークに向かっているのか。


 オーク達は近づいてくるレティを認識し、好色そうな笑みを浮かべた。

 どうやってこの雌をいたぶってやろうかという顔だ。

「そんな目を私に向けていいのは旦那様だけですよ。≪水槍≫8連!」

 レティの魔法が8本の筋となって正確にオーク8頭の眉間を貫いた。本人達は何も分からないうちにあの世に旅立っただろう。8体がズドンと地面に倒れる姿に残りの4頭が動揺して気を取られているうちに、オリハルコンの剣を取り出したレティは、目にもとまらぬ速さでオークの後ろに回り、あっという間に四閃して、4つの首を落とした。

 

 倒したオークを、全てポーチに収納してから、レティがニコニコと笑顔で戻ってくる。シュンッと一振りして、剣から血を落とす。体の方には一切返り血を浴びていない。

 レティはただ単に肉を確保出来たから上機嫌なのだが、そうだと知らない人間が見れば、戦闘狂とか快楽殺人鬼に見えたかもしれない。

 しかし、ロバート達以外の5人は、そんな感想を持つ余裕もなく、今見た光景に呆気に取られていた。

 無詠唱で正確な魔法に、目でとらえきれない身のこなしに、高速の剣技に、業物と思しき見事な剣に。


「お疲れ様。後で≪解体≫するよ。」

 ロバートがレティの頭を撫でながら労をねぎらうと、レティも気持ちよさそうに身を任している。

「久しぶりの狩りでしたが、前よりも更に体が動くようになった気がします。訓練のおかげでしょうか。」

 拠点でのんびり過ごしつつも訓練はしており、その成果を感じているようだ。


「さて、少し手違いはあったが、先に進もう。」

 ロバートは、まだボーとしている3人に声を掛けた。

 撤退してオークから距離を離すいい練習の機会だったが、気づかれたので仕方がなかった。




 ヒルデガルドは、レティの動きを見て--正確に言えばその動きを捕捉しきれていなかったが--、自分との大きすぎる実力差を突きつけられた思いだった。自惚れているつもりは無かったが、帝国でも上位の使い手という自負はあった。だが、容易には到達できそうにない遥か遠くにある力を見てしまった。ランクBと聞いていたが、これ程の実力がある冒険者が王国にはまだまだたくさんいるのかと戦慄せざるを得なかった--無論、レティの実力=平均的なランクB冒険者の実力という認識は、大きな誤解ではあるが--。

 一方、ウルリーケは、現実を受け止めきれないでいた。

「獣人なんかが魔法を使うなんて・・・。しかも無詠唱で複数の魔物に対してあの精度・・・。いえ、認めない、認められるものですか!」


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