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58.ランクD

 夜が明けた。今日から6階層に入り、魔物のランクも上がってくる。

 ここでどれだけ戦えるかが、今後の彼らの主戦場を判断する目安となるだろう。


 朝食を食べ終えて出発し、ゴブリン、森狼に何回か遭遇したが、昨日までの戦いで慣れてきたので、3人組とヒルデガルド達は難なく対応していた。

 そして、初めてランクDの魔物に遭遇した。


「あ、あれは?」

「猪みたいな姿だな。」

 グルーンが初見の魔物をみて呟くと、ミュラーが見たままの感想を言う。

「あれは、角猪だな。確かに猪と一緒で突進力が厄介だな。本来なら予想される魔物の特徴は、ギルドで予習してくるべきなんだが・・・、まあ、今回は特別だ。盾で突進を受け止める気なら、補助魔法で防御力を上げてやった方がいい。今は、1頭だけだからいいが、群れの場合は各個撃破出来るような状況を作らないと辛い魔物だな。」

 ロバート達であれば、その突進など片手で十分止められるし、そもそも即座に斬ってしまえば止める必要もない。だが彼らの力量では、ロバート達の経験を参考にすることは出来ない。


「分かりま・・・、分かった。フランツ頼む。」

「おお。」

 ミュラーが補助魔法を依頼すると、フランツが短く詠唱しミュラーの防御力を上げた。

 効果はそれほど高いわけではないが、詠唱が短く済み、魔力の消費も少ない魔法だ。

 その時、こちらに気が付いた角猪が突進してきた。

 すかさずミュラーが盾で受けるべく前に出る。

 ガツンという衝撃と共にミュラーが盾で受け、1m程後ろに押し込まれて止めた。

 そのタイミングでグルーンが飛び出し、槍を角猪の頭部へ突き刺す。まだ針の穴を通すような精度は身に付けていないが、今回はたまたま目に命中し、そのまま脳を破壊することで、一撃で仕留められた。


「ナイス連携だ。受け止めることに問題が無いなら、動きを止められることが大きなメリットだな。それを常に冷静に出来れば、そうそう窮地には陥らないだろう。だが、冷静でいられる為には、やはり魔物に対する知識を増やさないとな。」

 ロバートは、彼らの連携が思ったよりも向上していることに驚きながら素直に褒める。だが、調子に乗って初見の魔物にやられるリスクを避ける為、戒めることも忘れない。

 3人はロバートに褒められて満更でもない笑顔を浮かべた。


「ロバート殿。その、私達のように盾がいない場合はどうするべきでしょう?」

 3人の戦い方を見ていたヒルデガルドが、そう質問する。

「それは、魔物の知識を増やして、自分達に合った戦い方を考えて欲しいところだが・・・。まあ、魔法が使えるのなら、攻撃魔法で出鼻をくじいて止める、目くらまし系の魔法で相手の視界を奪うとか、隙を作る方法はいくらでもあると思うぞ。その辺は対人戦でも一緒だろう?」

「ありがとうございます。」

 ヒルデガルドが満面の笑みで礼を言う後ろで、ウルリーケの人を射殺さんばかりの視線がウザい。

 ロバートの後ろにいるレティとエルザからは、それに対する不快感がダダ洩れである。



 その後、3人組はゴブリンロード、オーク等のランクDの魔物を相手に地道に連携を取って戦っていた。複数の魔物を相手にするときは、脇道等に誘い込み、敵が同時に攻撃してこれない様にして各個撃破する戦法をとっていた。だが、流石にランクD相手に無傷とはいかず、オークの強烈な打撃を受け止めたミュラーが、腕の骨を折った。これに対しては、これまで温存してきたフランツの≪治癒≫をケチらず使用した。

 一方、ヒルデガルド達は、元々の実力もあってか、まだ苦戦することなくウルリーケの魔法で先制してヒルデガルドが仕留めるのを基本戦術としていた。

 ただ、いずれも多数の群れと遭遇していないという幸運に恵まれたとも言える。

 そして、8階層入口まで歩を進め、野営となった。


 野営にも慣れてきたのか、皆速やかに食事を終えて、今日の反省をしていた。フランツが≪治癒≫を使ったのは初めてだが、盾が機能しなければ連携が全く取れなくなるので、当然の判断だろう。ロバート程の魔力回復力は無くとも、普通は寝れば魔力も全回復するので問題ない。

 ヒルデガルドも昼間と同様にアドバイスを求めてくる。どんどん気安くなってきているのをロバートは面倒臭く思いながらも、一応真面目に答えてやった。



 そして、就寝時の見張りの時、ロバートはウルリーケとタイミングが重なった。彼女は、しばらくロバートを睨みつけていたが、おもむろに立ち上がり、ロバートに近づいてきた。そして立ったままロバートを見下ろす体勢で、

「お嬢様に馴れ馴れしくするのもいい加減にしろ。本来ならお前のような下賤の者が口をきける方ではないのだ。妙な勘違いをするなよ。」

と、警告してきた。同じく当番のフランツは、関わり合いにならないようあからさまに視線を外している。まあ、積極的に貴族に関わりたくないだろう。


 ロバートは、やれやれと思いながらも、

「別に俺から話しかけているわけじゃない。そんなに文句があるなら、そのお嬢様に直接言えばいいことじゃないか。もし主の行動に問題があるなら、それを諫めるのが臣下の務めってものだろ。自分の非力の責任転嫁をするなよ。しかも今はただの冒険者扱いだ。貴族として扱って欲しければ、社交の場に行けばいい。そこで貴族らしい金の無心に励め。」

「き、き、き、貴様ぁぁぁーーー!!!」


 ロバートもこれまでのウルリーケの態度に対しては、最初にレティを貶されたことを筆頭にかなり思うところがあった。よって、一度言い出すと、スラスラと口が滑る。実は、今日の夕方に辺境伯家の暗部のものが到着して、陰ながらヒルデガルドを護衛する体制に入っている。これなら自分達と離れても問題ないと考えていたので、もう遠慮はしなくてもよかった。


 ウルリーケが怒りに任せて剣に手をかけたところで、大声で起きたヒルデガルドが声をかけてくる。

「なっ、何事ですか?ウルリーケ!」

「はっ!い、いえ、何でもありません。」

 全く意識していないところから声を掛けられ、動揺しながら主に答える。だが、ヒルデガルドもそれまでのやりとりは聞いていなかったようで、戸惑っている。

「ほら、ご主人様が呼んでいるぞ。とっとと戻れ。」

とロバートは、犬を追い払う様に手を振る。

 ヒルデガルドの手前、下手なことも言えず、ウルリーケはギリギリと歯を食いしばりながら射殺さんばかりにロバートを睨みつけながらヒルデガルドの方へ戻って行った。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 流石にこれを公爵家の選りすぐりの使用人と称すのは無理があるような 弟君の側近達もさっぱり状況読めない連中だったし…
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