57.野営2夜目
野営をする準備をして、各パーティー毎に夕食をとる。
ロバート達は、テントの中でレティが作ってくれた料理を食べた。とはいってもあまり時間を掛けられない為、ミノタウロスのステーキとパン、拠点で収穫された野菜のサラダだった。
「なんか、私達だけ通常と変わらない食事をして、他の人達に悪いわね。」
エルザが外の粗食を想像して言う。
「いや、逆に贅沢を覚えると彼らの為にならないよ。ランクが高くなっても、現地で調理するような新鮮な食材の持ち運びに使えるほど大容量の収納はなかなか持てるもんじゃないからね。ずっと彼らと行動を共にする訳でもないし。」
嵩張らない携帯食-美味しくない-の方が、ダンジョンに持ち込む物の優先順位としては当然高い。
「そうね。でも旦那様と一緒だと、人間の常識は身に付きそうにないわね。」
それを聞いてレティがクスッと笑いながら、お替わりの肉を入れてくれる。
「まだ肉の在庫はたくさんありますが、ここにも草原のダンジョンみたいに集落があればいいですね。」
相変わらずレティの肉好きはぶれない。
「集落って?」
「草原のダンジョンには、オークの集落やミノタウロスの集落があって、殲滅しても一晩経ったら復活したから、大量の肉を入手できたんだ。」
出会う前の事で、エルザが何のことかと聞くので、ロバートが説明する。
「ここの20階層までにはなかったですよね。前回このダンジョンは速度重視で救出に駆け抜けましたから見落としたかもしれませんが。」
レティの言う通り、前回入った時は、≪探知≫には集落らしきものは引っ掛かっていなかった。
「もっと深い階層に行ったらあるかもしれないね。まあ調達したくなったら、草原のダンジョンまで行けばいいんじゃないかな。ふうーっ、ご馳走様。ああ、美味しかった。」
今すぐ肉の在庫が無くなるということではなく、レティも直ぐに調達しようと思って話題を振った訳でもないようなので、このダンジョンで急いで探す必要は無さそうだ。食べ終わってロバートはゆっくりお茶を飲み、改めて贅沢な食事に感謝した。
食事をして少し休んだ後、テントを出て様子を伺うと、昨日と同じく3人組が今日の反省をしている。
ロバートが近寄っていくと、
「今日の俺達の動きは結構良かったと思いませんか?・・・いや、思わないか?これなら何とかやっていけそうだ。」
と、グルーンが聞いてきた。思ったより順調であるため、若干慢心が出てきたか。
「ああ、今日の動きは良かったと思う。ただ、まだランクE程度の魔物にしか遭遇していない。明日6階層に進めば、もっと手強い魔物が出てくるようになるから、それに対しても今日の動きが保てなければ意味がないぞ。」
ロバートは少し緩みかけた気を引き締める為、褒めながらも現実を突きつける。
「そうだ、グルーン。強い魔物がでれば、その威圧感や見た目で体が固くなっていつもの動きができなくなるだろう。獣と一緒には出来ないかもしれないが、猟師をしていた頃にそういう経験はある。」
ロバートの話を受けて、ミュラーがグルーンに言う。
「そ、そういうものか・・・。ちょっと上手くいったぐらいで調子に乗るところだった。」
やはり根が真面目で素直なのか、指摘されれば反発せず受け入れられるようだ。
「いや、それに気付ければいいんじゃないか。それに気が付かない奴は、蛮勇を発揮して帰ってこなくなるんだろうな。」
そう言いながらもロバートは内心恥ずかしい思いもしている。自分は反則みたいな力を手にして、冒険者としては苦労してないのに、なんだか偉そうだなと・・・。ただ、他人が生まれつき持っている才能も同じようなものなので、別に自分を卑下している訳ではないが。
3人組と話した後、テントに戻ろうとすると、ヒルデガルドに呼び止められた。
「昨日は、話を聞いて頂いてありがとうございました。おかげで覚悟が出来、今日は魔物を倒すことが出来ました。まだ慣れたとは言えませんが、昨日程の忌避感は無くなりました。」
ロバートは、昨日話をし過ぎたことを若干後悔した。ダンジョン内では≪探知≫をきっちり働かせているので、彼女が自分にやや好意を持ち始めていることが分かる。そして、後ろからウルリーケが激しい敵意を向けているのは、≪探知≫しなくても分かるほどだ。その強烈な目力で、大事なお嬢様につく悪い虫を警戒しているのは想像に難くない。まだ、敵意はあっても殺意には至ってないが・・・。
ロバートは正直、自分自身がヒルデガルドとどうにかなりたいとか、どうこうしようとかは微塵も考えていない。彼女達が下手な動きをして外交問題になるようなことを仕出かさないでくれればいいのだ。なので、ガリアスの依頼期限が終れば、辺境伯家の暗部に監視を丸投げしてしまうつもりでいる。
ただ、それにしても、あの程度の会話で気を許し始めるなど、チョロ過ぎやしないだろうか?エリクサーを手に入れたことで気が抜けてしまったのかもしれないが、他の冒険者にコロッと騙されてしまうのではないかと余計な心配をしてしまう。
「ああ、それは良かった。ただ、6階層からは魔物のランクも上がってくる。今日は精神的負担も大変だっただろうから、明日に向けてゆっくり休んだ方がいい。」
ロバートとしては特に話し込む必要も無いので、あっさりと返事だけして、自分のテントの方へ戻るべく踵を返した。
「あっ・・・。」
背後からはまだ話したいというヒルデガルドの気配を感じたが、それ以上呼び止められなかったのでそのまま離れ、テントに戻った。
ヒルデガルドは、去ろうとしたロバートに声を掛けようとして、ハッと思いとどまった。呼び止めてまで何を話すのか?特に具体的に話す事は思いつかないが、何故かもっと話をしたいと思った。今までの人生で感じたことのない感情が生まれはじめていたが、それが何なのか、彼女の乏しい経験では、言葉で表すことはできなかった。
ただ、テントに戻った彼を出迎えた美しい獣人の娘に向けた彼の慈しみに満ちた笑顔を見て、胸が痛くなるのを感じたのだった。




