49.オークション
お披露目会(午前の部)が終わり、ロバート達3人は、魚市場の食堂で昼食を食べていた。
「なんか、逆の意味で場違いな出品な気がしてしまった。」
一応、防音用の≪結界≫を掛けて話している。食堂の隅の方なので、他の人が見えない壁にぶつかることは無いだろう。
「エルザの鱗よりもエリクサーの衝撃が大きかったようですね。」
レティも若干意外そうだった。
「多分、私の鱗は、珍しいけど絶対必要って訳ではないから、確実に欲しい人がいるエリクサーの方が注目されたんじゃない?」
エルザは特に気にすることも無さげに言う。彼女からすれば、自分の不要品の値段の高低などどうでもいいのだろう。
「ああ、そういうことなのかな。確かに鱗はまともに加工できる人がいるかすら分からないしね。」
「旦那様は、何か興味を引くものはありましたか?」
「高級ワインは物珍しいけど、大金払ってまで飲みたい訳じゃないしな~。剣も、かなりの業物はあったけど、使ってナンボって考えると、実用的にはオリハルコンの剣に≪付与≫してる方が断然上だし・・・。どうしても競り落としたい物は無かったかな。2人はどうなの?」
「う~ん。速度を増す脛当とか、力を増す籠手とかありましたが、今となっては効果は微々たるものですし・・・。」
「そうね、レティも十分人外だし、あの防具つけても誤差みたいな効果よね。会場にいた護衛にしたって人族では結構強いと思うけど、それでもレティの足元にも全然及ばないわよね。」
「そりゃまあ、レベルでも歴然とした差があるしね。でも、あの出品物を警備してた2人の強さからすると、冒険者ランクAの上位にいてもおかしくないくらいだと思うよ。流石大商人といったところかな。まあ、高価なオークションだし、邪な考えに対する抑止力は必要だからね。」
「やっぱり、あれは意識的に強者の威圧感を出してたんですね。」
ロバート達からすれば取るに足らない威圧感ではあったが。
3人は、その後も魚介料理を満喫し、宿に戻った。
ロバート達が夕食を食べようと、宿の食堂へ降りてくると、丁度宿に戻ってきたガリアスと出くわした。午後のお披露目会に来た知り合いの商人と会った為、少し話をしようということで、再度お披露目会に行ったらしい。
結局、ロバート達は、そのままガリアスと一緒に夕食をとることにした。
「実はちょっとした騒ぎがありまして。」
と、ガリアスが切り出した。
なんでも午後のお披露目会の途中に、紹介のない貴族が強引に入ろうとしたらしい。
「隣の帝国のお貴族様だったようでして・・・。招待状か、常連の紹介が無いものは入れない規則ですから、警備の方たちに一度は追い出されたのですが、偶々いた帝国の商人が紹介者に名乗り出たため、異例ではありますが、規則上は断る訳にもいかなくなりまして。」
ロバートは、ふ~んと聞きながらも、思い当たる人物がいたので、思わず聞いてしまった。
「ちなみにその貴族は、どんな人だったんだ?」
「ええ、遠目でしたが、金髪の若い女性でしたね。公爵家だと、一緒にいた侍女が主張していたようです。」
面倒臭いことにならなきゃいいけど、とロバート達3人は顔を見合わせた。
翌朝、朝食を食べてから、またガリアスと一緒に会場に向かう。積極的に競り落としたい物はないが、それらにいかほどの値がつくのかという野次馬的な興味はあるので、自分の出品した物が登場するまでは冷やかしみたいなものだろう。
会場に入ると、昨日と同じく目立たない席を選んで座る。照明がとどきにくい場所ではあるが、3人ともフードは被っている。
さりげなく周囲を見渡すと・・・、いた!
以前遭遇した帝国の公爵令嬢-ヒルデガルドだったか-とその侍女、あとは騎士が1人座っている。ここでは、護衛も他の客の邪魔になるので座るようだ。
ロバートは、小さな声で
「ほら、例の公爵令嬢がいる。」
「本当ですね。でも、昨日突然来られたということは、何か目的の品があるのでしょうか?」
「う~ん、どうだろうね。あっ!彼女たちはグリフォンクイーンを追いかけていた。もし、目的が尻尾の羽だったとしたら・・・、エリクサー・・・かな?」
「なるほど、旦那様は素材なんて関係なく“創造”できるから気にしてないけど、普通は稀少な素材をたくさん集めて作るんだろうし・・・。エリクサーそのものが買えるのなら・・・。」
と、3人でボソボソと話しているうちに、開会が宣言された。
基本的には、昨日のお披露目会と同じ順番で出品物の競売が行われ、中々景気よく高値で落札されている。ガリアスも数人の借金奴隷を落札しているが、紹介された能力内容よりも優れた能力を持っている奴隷を選んでおり、“鑑定”スキルを持っていないことを考えると優れた審美眼だ。
ロバートの出品した竜の素材も、転売目的(?)の商人達、素材確保を狙う(?)職人ギルドと魔術師ギルドが、どんどん競り落としていた。
そして、古龍の鱗の登場で会場が一気にどよめく。
元々の持ち主であるエルザがドン引きするほどである。
鱗は、今回1枚だけだが、大きさが1.5m×1mで傷のない美品である。
開始額は、碧金貨3枚(3億ゴルド)である。
「(碧金貨)4枚!!」
「(碧金貨)4枚!!と白5枚!!」
「(碧金貨)5枚!!」
商人と職人ギルドの一騎打ちとなり、値段が吊り上がるが・・・、
「(碧金貨)8枚!!!!」
「「「「おおおおーーー!!!」」」」
「ありませんか?・・・・・・・。では、碧金貨8枚で落札でーーーーす。」
会場が大盛り上がりをみせるなか、最終的に、職人系ギルドが落札した。
まだまだ金銭感覚が曖昧なエルザですら、呆然としている。
「・・・えぇっと、凄い金額になったね・・・。」
「「・・・・・・・・・・。」」
握ったこぶしを上に突き上げて喜びを爆発させている職人ギルドの代表の姿を見ながら、収納にたくさん保存されている鱗は、当面死蔵することにしようと3人は決めた。




