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46.奴隷商

 ロバートが店に入って、見覚えのある男の方を見ていると、男が顔を上げて目が合った。

「あ、あなたは・・・、その節は大変お世話になりました。」

 その男は、以前ロバートが賊から助けた奴隷商人のガリアスであった。そして結果だけ見れば、レティを保護して救い出し、ロバートと引き合わせてくれた人物でもある。

「ああ、久しぶりだな・・・、ってどうした?」

 ロバートは、ガリアスが呆然とレティとエルザを見ているのに気が付いて尋ねる。

「す、すみません、不躾な視線を向けてしまいました。あまりにもお美しい方々だったもので・・・。」

 ロバートはここで気が付いた。今までは外を出歩くときは、2人の美貌が目立たぬようフードを目深に被っていることが多かったが、今日は全く気を遣わず、ローブも着用せずに歩き回っていた。道理で数多くの視線を感じ、軽い敵意の反応-おそらく嫉妬だろう-があちこちから現れては消えていたわけだと。

 それはともかく、ガリアスはレティに全く気が付いていないようだ。


「ご一緒に如何ですか?勿論、支払いは私が全て持たせて頂きます。返しきれない御恩がありますから。」

「一緒に食事をするのは構わないが、もうそんなに気にしないでくれ。俺からすれば、寧ろここにいるレティと巡り会わせて貰った恩があるんだから。」

「え!?」

 ロバートがガリアスの誘いにそう返すと、ガリアスの顔が信じられないものを見たという驚愕に染まり、レティの頭から足元まで何度か視線を往復させた。

「ま、まさかあの時の・・・。えっ、でもその、その姿は!!?」

「まあ、落ち着いてくれ。座っていいか?」

「は、はい、どうぞ。」

 3人は、ガリアスに向かい合う様に並んで座った。


 食事を一通り注文してから、ガリアスに向かってロバートが言う。

「レティの怪我は全て治した。方法は言えないが、後ろ暗いことは何一つないのでこれ以上は聞かないでくれ。」

「あれほどの欠損を・・・。ああ、もちろん既に私がどうこう言える立場ではありませんので詮索は致しません。しかし・・・、これほどの美貌といい美しい髪といい、私の見る目などまだまだと思い知らされました。私では治すことが出来なかったので、素晴らしい巡り合わせだったのでしょう。」

 そう答えたガリアスには、大きな魚を逃してしまったといった後悔するような感情は微塵も感じられなかった。

 ロバートはその様子を見て、以前感じた人の好さを再認識しながら、声を小さくして

「ところで、丁度いい機会だからレティを奴隷紋から解放したいんだが、手続きは出来るか?」

と、聞くと、ガリアスも声を落とし、

「解放ですか?主が望むのであれば可能です。ただ、人前でやることではないので、食事の後、私の宿まで皆さんで来て頂ければ。」

と、答える。ロバートは安堵したような表情をした。自分でも魔法でなんとか出来そうと思ってはいたが、万が一にもレティに何か悪影響が出るのが恐く踏み切れなかった。

「それでは、後で頼む。ところで、あなたはここへどういう用件で来たんだ?」



 その後は、主にガリアスの事情を聞きながら食事を堪能し、皆でガリアスの宿へ移動した。

 雰囲気の良い宿だったので、ロバート達も宿泊することに決め、1部屋確保して、そこにガリアスを招いた。奴隷紋からの解放は、呆気なく終了し、レティから奴隷紋が綺麗さっぱり無くなったのをしっかり観察していて、ロバートは自分でも可能だと確信した。

 ロバートが、遠慮するガリアスに手数料を無理矢理受け取らせると、ガリアスは礼を言って自分の部屋へ戻っていった。


 ロバートは、常々、レティをずっと奴隷という存在としておくことに罪悪感を感じていた為、やっと解放出来て胸のつかえが取れた気がしていたが、一方のレティは何故か沈んだ表情をしていた。

 エルザが心配して声を掛けると、

「折角の旦那様との繋がりが消えてしまって・・・。」

と、レティが残念そうに呟く。どうやら奴隷紋さえもロバートとの大切な繋がりと考えていたらしい。

 ロバートが声を掛けるより先に、

「じゃあ、私みたいに主従契約してみれば?」

と、エルザが気軽に提案する。

 ロバートは、えっ!?そんなお手軽でいいの?と思ったが、レティがあまりにも悲しそうなので、エルザの時と同様にして主従契約をした。

「ありがとうございます!でも・・・わがまま言って申し訳ありませんでした。」

 打って変わって嬉しそうな表情でレティが言う。

「いや、俺こそ良かれと思ったとはいえ、勝手に話を進めてゴメン。相談するべきだったね。」

「いえ、私の事をちゃんと考えて下さったからだということは分かっていますので。」

 

 その夜は、いつもより更に仲良くなった気がしたロバートだった。



 翌朝、3人は、昨日ガリアスが話していたこの町への来訪目的について思い出していた。

 なんでも、3日後に、この町でオークションが開催されるらしい。誰でも知ってるというものではなく、参加経験のある顧客や収集が趣味の貴族、商人等に通知が来るらしい。

 ダンジョン産の宝物や、珍しい武器、芸術品、奴隷等、多種多様なものを買う機会でもあり、売主は一切明かされないというルールが存在する為に、扱いに困る物を売り捌くことができる場にもなっているとのことだった。一見さんお断りとのことだが、ガリアスの紹介があれば、売り買いどちらでも参加できるだろうと言われていた。


 ロバートは、珍しいものが見られるかもしれないと、参加する気満々で提案する。

「面白そうだし、ガリアスに頼んで参加できるか打診してみたいんだけど。」

「ええ、面白そうだし、いいんじゃない。」

「旦那様が楽しそうですので、もちろんご一緒します。」

 奴隷の出品もあるそうなので、レティが忌避感を持つかと思ったが、2人とも特に異論は無いようなので、

「じゃあ、朝食に食堂へ行って、ガリアスがいれば頼んでみよう。」



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