43.拠点構築
部屋に1人入った俺は、まずサンドラからの手紙を読んだ。
内容は、まあ予想通り、いや予想以上の謝罪の嵐だった。
とはいっても、こっちからすると「そうですか」という程度の感想しかないのだ。
正直、当時は辛いめにもあったが、婚約破棄で解放してもらったので、今では感謝の方が圧倒的に強い。尤も、最初から婚約を強要されていなければより良かったのだが、今更言っても仕方ない。なので、直接会って謝罪したいと言われても、かえって迷惑とか厄介としか思わないんだよな。それに治った足を見せると更に面倒くさいことになりそうだしな。
まあ、全く角が立たないように断るのは無理だから、なるべく穏便に、且つきっぱりと返事を書くか。
そして、謝罪はもう十分、もう既に貴族籍から外れたことだし会う気は無い、謝意があるならむしろ俺に干渉しないでくれ、という主旨を無礼にならないよう気を付けて手紙に書いた。
マークを呼んで手紙を送ってもらうように頼んだ後、ベッドに横になり、体を思いっきり伸ばすと瞼が下がり・・・。
「旦那様、夕食の準備が整ったそうです。」
ああ、眠っていたらしい。レティが声を掛けて起こしてくれたので一緒に食堂に行く。ロイは、俺達3人の席を領主家族が使う食堂に用意して、歓迎してくれた。
持ってきた魚介の料理を中心に、一緒に渡した肉類も並ぶ。ロイといえどもそんなに頻繁に食べられない新鮮な食材に、満足そうに舌鼓を打っている。
「使用人にも貰った食材を使って作った料理を食べるように言っておいたから。」
ロイが、ちゃんと手配してくれたようだ。是非、この城にいる皆に食べてもらいたい。
「そうか、喜んでくれるといいけど。」
レティとエルザは、珍しく行儀よく食べているが、その速度は異常に早い。いい食材を辺境伯家の料理人が調理したからか、港町で食べたものよりも更に美味しい気がする。
デザートまで食べて、ゆっくりお茶を飲んで、
「それじゃあ、今日はここに泊めて貰って、明日から拠点の構築に入るよ。形になったら連絡するよ。あっ、そうだ!もう来ないと思うけど、王族や貴族から俺になんか言ってくることがあったら、行先は不明で、領都に戻ったら伝えるって返事でよろしく。」
「・・・ふう、分かったよ。確かに貴族籍を外れているんだから、束縛される理由は無いしね。」
ロイも納得してくれたようで何よりだ。
夜は、まあ弟もいる城の中なので、3人同じベッドだけど大人しく寝た。
朝食を食べた後、早速拠点候補地へ向け出発した。例によってエルザに乗ってひとっ飛びだ。
ある程度目星をつけていた場所に一度降りると、≪探知≫を地下に向けて水脈を探す。後々、使用人などをどうするか分からないが、水を魔法以外でも常時確保できるようにしておいた方がいいだろう。
そして、近くに運よく豊富な地下水脈を見つけることができた。
周囲を観察すると、この辺り一帯は台地が幾つもあり、木々が豊富な台地もあることから、あまり視界が開けていない。目立たないという意味では絶好の場所だ。
そして、水脈の上にある台地を1つ選んで拠点と定める。この台地の上は、1km四方の平坦な土地が広がっており、十分な広さがある。
「よし、じゃあまずは土塀を作って、境界をハッキリさせよう。その前に小屋を出しておくから、2人で食事の準備よろしく。」
「承知しました。」
「わかったわ。」
まず、境界線として1辺約150mの正方形を≪風刃≫を飛ばして地面に書く。
次に、線の外側を≪整地≫で掘り下げて空堀を作ると同時に、掘り出した土を、防御用の土魔法≪土壁≫で線の上に土塀化していく。空堀の深さ2.5m、土塀の高さ3.5mを魔力ゴリ押しで、どんどん作っていく。
1周600mの土塀化が終わったら、土魔法≪硬化≫で、土塀を硬質化していく。硬質化することで、仮に魔物が突進してきてもビクともしない強度を得た。流石に巨体の竜種が突っ込んできたら破壊されるが。
「旦那様は、どこの軍と戦うおつもりなのですか?」
小屋から出てきたレティが、土塀を見ながら呆れた様に言う。
「いや、ちょっと境界を明確にしようとしただけなんだ。」
「・・・ふぅ、まあいいです。お食事の準備が出来ましたので、昼食にしましょう。」
昼食の後、土魔法で井戸を掘る。十分な深さまで掘った後、以前盗賊から押収したものから加工しておいた鉄のインゴットを取り出し、日本の記憶にある手押しポンプを“創造”した。
実は、ミスリルやオリハルコンのインゴットは、一度現物を見たので、魔力ゴリ押しで無から容易に“創造”できた為、暇な夜に作り貯めていた。但し、鉄は用途が少ないと“創造”していなかったので、残っていた押収物の鉄を使ったのだ。
井戸の内壁を≪硬化≫して崩れない様にした後、上部の形状を整えてポンプを設置し、しっかり固定した。
呼び水の為に、水魔法で水を出して入れた後、操作ハンドルを数回押すと水が勢いよく出てきた。




