40.更に追う者
ヒルデガルド達から離れること1km弱のところに彼らは潜んでいた。
さて、向こうもこちらには気が付いているだろうし・・・、まあ、近づいてみるか。
彼らが身を潜めている10mくらい手前で止まり、話しかけてみる。
「さて、そこに2人潜んでいるのは分かっているし、先ほど我々が、貴族の馬車に入って出てきたのも見ていただろう。ああ、でも我々は大森林の状況を聞かれただけで、あの貴族とは何の関係もないぞ。あんた達には全く敵意は無いし、冷静に話せるなら、あんた達に有意義な話ができると思う。どうだ?」
しばらく待ったが、彼らは反応しない。じっと身を潜めて息をころしている。
「ええ~と、あんた達が出てきてくれないと、俺は人のいないところに話しかけている頭のおかしい人に見られてしまうんだが。」
「ぷっっ」
「おい!」
やっと、反応があった。そして、とうとう諦めたのか、男女2人の屈強な獣人--狼系か?--が立ち上がって姿を現わした。
「やっと、顔を見せてくれたか。俺達はこれから食事をするが、一緒にどうだ?そっちの興味のある話も出来ると思うが。」
なんせ、彼らは、グリフォンクイーンに仕える者と鑑定で出ている。
彼らはこちらを観察するように見ていたが、
「お前達に敵意が無いのは分かった。話とやらを聞かせてもらおう。」
「よし、じゃあ飯の準備をする。」
周囲の背の高い草を≪風刃≫で刈り、食事のできるスペースを作って、≪結界≫を張った。
肉は、まあオークでいいか。ブロック肉、金網、鉄串を取り出して渡す。
「レティ、エルザこれでよろしく。」
俺は、土魔法で簡単にテーブルと椅子を作り、テーブルのすぐ脇に金網の置けるかまどを作った。
「そこの椅子に座って待ってくれ。すぐに焼けるから。オーク肉で問題ないよな?」
「あ、ああ、オーク肉なんて滅多に食えない。感謝する。」
こちらの作業を呆然と見ていた男が答える。
肉が焼け始め、みんな椅子に座る。レティは座ったまま肉の管理を続けているが。
食べる為、フードを取りながら改めて挨拶をする。
「さて、俺達は冒険者をしている。俺はロバート、こちらがレティと、エルザだ。」
「もしかして、貴方は白狐族か?」
フードを取ったレティを驚いたように見て男が聞く。
「ええ、そうですが。」
淡々とレティが答えるも、
「いや、誇り高い白狐族を従えるとは、お前達は一体?」
何か盛大に驚いている。
「まあ、何だと言われても冒険者以外の何者でもないな。で、あんた達は?」
「ああ、すまない。俺は、チャンと言う。こちらがリンだ。見てわかると思うが、狼犬族の戦士だ。」
「よろしく。」
リンと紹介された戦士が初めて喋った。
「「「よろしく。」」」
「さて、じゃあ、肉も食べれそうだから、食べながら話すか。」
「どうぞ。」
レティが焼けた肉を配り、食べ始める。
なんだかんだ腹が減っていたのか、2人は猛烈な勢いで食べ始めた。どんどん肉を追加してやる。これは話は食い終わってからだな。
「さて、腹も膨れたところで、そちらの話を聞かせて貰っていいか?あの貴族を追ってたのは推察できるが。」
食べ終えて、お茶を飲みながら切り出す。
「ああ、そうだな。まず、俺達は、隣のバイエル帝国から来た。お前達の考えているとおり、あの貴族を追ってきた。但し、貴族自体が目的ではない。俺達は奴らが追いかけてるグリフォンクイーン様の安否を確認したいんだ。」
「ちなみに、そのグリフォンクイーンを奴らが攻撃したのか?」
「な、なんでそれを!?奴らに聞いたのか?」
少し彼らの目に警戒心が現れる。
彼らからは悪意や敵対心は感じられないし、グリフォンクイーンの味方だろうから伝えてもいいだろう。
「あの貴族からは、大森林に異変が無いか聞かれただけだ。だから今は異常は無いと伝えた。それ以外は彼らには伝えていない。実は、俺達はグリフォンクイーンに会った。」
「な、なんだと!?」
「本当に!?」
彼らが早速食いつく。
「まあ、落ち着いて聞け。」
「ああ、すまない。続けてくれ。」
2人ともお茶を飲み、落ち着こうとする。
「俺達は冒険者ギルドの依頼で動いているから、ここだけの話として他言無用で頼む。あんた達がグリフォンクイーンの関係者だろうから話すんだ。」
「分かった。約束しよう。」
「俺達は、大森林の中を捜索して、怪我を負ったグリフォンクイーンに会った。普通に意思疎通できたし、攻撃の意思も感じられなかったから、その怪我を治して、少し事情を聞いた。魔導具を使って人間が襲ってきたと。グリフォンクイーンは、人を害する意思が無く、殲滅しようと思えばできたけど、自ら撤退したらしい。」
「それは、目撃していた我が一族の話と一致するな。それで、グリフォンクイーン様はどちらに?」
「今は、大森林の西にある霊山にいる。しばらくそこで暮らすんじゃないかと思う。あんた達は、グリフォンクイーンを連れ戻したいのか、無事が確認できればそれでいいのか、どっちなんだ?」
今のままだと、帰ってもまた襲う者が出てくるだろうしな・・・。
「本音では、帰ってきて頂きたい。しかし、心安らかに暮らして頂くのが最優先だ。その霊山とやらはどういうところだ?」
「いいところよ。人間はいないし、主に竜種が暮らしているわ。ちょっと飛べば大森林で食料は沢山あるしね。あそこは、あの貴族達のレベルでは、どう間違っても入り込めない場所ね。」
エルザが代わって答える。
「確かに、あの貴族の一団を追って行ってもグリフォンクイーンに会えることは無いだろうな。奴らではとてもたどり着けないと思う。」
ヒルデガルドのレベルは普通の人間で考えればそれなりに高いが、全く足りないと思う。
「そうか、本当のことを話してくれてはいるようだな、、、。ただ、お前達はその竜種がいるという霊山とやらに行ったことがあるような口ぶりだな。かなりの実力が無いと行けない所のようだが。なかなか信じがたいのだが・・・。」
確かに、普通の感覚からしたら、そんな秘境に行けるってのは信じられないよな。
「エルザ。周りからは見えない様に≪認識阻害≫を掛けるから、本来の姿になってくれるか?」
「そうね、その方が話すより早いわね。」
といって、龍の姿になった。
「な、な!?」
2人とも突如現れた龍の姿に言葉が出ないようだ。
「実は、エルザは、霊山の主である古龍の姫なんだ。グリフォンクイーンもエルザが案内して連れて行ったんだ。これで納得できるか?」
少しの間呆然としていたが、
「・・・、ああ、その姿を見せられたら納得するしかない。それなら、あの貴族達に見つかることが無いだろうしひと安心だ。あとは、何か一族のものを納得させられるものがあればいいのだが。一族の者も、グリフォンクイーン様が余計なことに煩わされず、無事に暮らせるならそれでいいと納得すると思う・・・。」
「それなら、グリフォンクイーンの尻尾の羽を貰ったんだが、持っていくか?」
と、1枚取り出して見せる。
「おお、それはまさしく・・・、でもいいのか?」
「ああ、あと数枚あるからな。ギルドへの説明に見せないといけないから、さすがに全部渡すわけにはいかないけど。」
「ありがとう。これで一族のものを安心させられる。もうグリフォンクイーン様にお会いできないのは残念だが、健やかに過ごされるのが一番だ。そもそも俺達が行けるような場所でもなさそうだしな。」
「ありがとう。」
2人とも安堵したような顔をしている。ただ、リンは本当に口数が少ないな。
ヒルデガルドへ説明したときの建前を無視して、依頼に関する情報をチャン達にはかなり出してしまったが、まあいいだろう。彼らには話してもいいと思ったしな。
彼らは、何度もお礼を言って、故郷へ帰る為、港町方向へ駆けて行った。




