37.女王
朝食をすませてから出発する。
しばらく歩いて進むと、ランクCの魔物と遭遇し始めた。稀にランクBもいるが。
明確に敵対してくるので倒しては収納して先に進むが、思ったより食肉系が少ない。
出会う魔物をどんどん倒しながら南に進み続けると、そのうち周囲に全く魔物がいなくなった。
しかし、
「旦那様、≪探知≫の範囲外ですが、物凄い存在感を持つ何かを感じます。」
「そうだね。これだと低ランクの魔物が近寄れなくて北側に移動してきてた理由が分かるね。≪探知≫を広げれば分かるけど、まあまだ遠そうだし、このまま進もう。」
「竜種ではないけど・・・、並みの竜種以上の力を感じるわね。」
エルザもその存在の大きさを認識しているようだ。
その後は、全く魔物に遭遇せず進んだ。
最後の魔物を倒してから20km程度進んだところで昼食の為、休憩する。
「ほんとに魔物がいないね。小動物は見かけるけど、大型の獣もいないし。」
「やはり、あの存在から距離をとりたいのでしょうね。」
「かなり圧力が強くなってるわね。もうすぐかしら。もう普通の人は近づけないレベルだと思うのだけど。平然と食事してる旦那様とレティは人としてはやはり規格外ね。」
まあ、レティに対しては、もう人では太刀打ちできないだろうしね。
食事を終え、更に進むと、とうとう≪探知≫に引っ掛かった。あと1kmで出会いそうだ。
「今のところ中立だけど、どう思う?」
「こちらは≪認識阻害≫もしていませんので、これだけの存在ですから、こちらにも既に気づいているのではないでしょうか?」
「うん、間違いなく気付いているわね。」
「ってことは、いきなり戦闘にはならないかな。」
意思疎通が可能か期待しながら進む。
ようやくターゲットの姿が見えてきた。結構デカい。
体長5m程のグリフォンクイーンだ。但し、羽根を大きく負傷している。
「大きな力が近づいてくると思ったら、人の子であったか。」
おお、普通に話しかけてきた。
「いきなりで失礼しました。別に敵対したい訳ではないので、話ができるのは幸いです。ところで怪我をしているようですが?」
「ふむ、実は怪我をしていたので余計なものが近づかぬよう威圧していたのだが。其方たちは平気なようだな。」
「まあ、慣れているとはいいませんが、これ以上の圧を経験したことはあるので。良かったら怪我を治しましょうか?ただ、あなたほどの存在にこんな怪我をさせるなんて・・・。」
「ああ、気が付かぬうちに古龍様の領域の上を飛んでいたみたいでな。怒りを買ったのか下からいきなりブレスに襲われてこの始末だ。まあ、うっかり上を飛んでしまった我が悪いのだが。」
それを聞いて、俺とレティがエルザを見る。
「母のせいで怪我を負わせてごめんなさい。おそらくあなたを狙った訳ではなく、呪いで乱射したものが当たったのではないかと思うの。」
エルザが、謝るとグリフォンクイーンが首をかしげながら
「母?」
「私はあの古龍の娘なの。ついこの前、母は呪いのせいで我を忘れて暴れていて、その時のブレスだと思うわ。」
「なんと・・・、では、我が古龍様の怒りを買ったわけではないのか?」
「多分・・・。母は上を飛んだくらい気にしない質だから。」
「それは安心した。・・・もし、治せるのならその言葉に甘えたいとおもうが。」
「分かりました。念のために確認ですが、あなたは無差別に人を襲ったりしないですよね?」
一応聞いておく。
「もちろんだ。そもそも我がこちらに来たのは、人が我を捕えようと魔導具を使って襲ってきたからだ。殲滅してもよかったのだが、遥か昔、ある人族と友誼を結んだ時に、なるべく人を殺さないでくれと頼まれてるからな。」
いや、襲われたなら反撃してもいいと思うが。
「失礼な質問を致しました。治す前に、体に魔導具が刺さっているようですので、抜いておきましょう。」
抜いた矢の形をした魔導具を“鑑定”すると、追跡型の魔導具で、対となる魔導具で位置を探ることができるようだ。知る限り、わが国では開発していないタイプの魔導具だ。それを説明し、純粋な知的好奇心から貰っていいかどうか聞くと、
「ああ、構わん。しかし、そこまでして我を捕まえたかったのか・・・。」
俺達も、肉や素材の為に魔物を狩ってるから、何と言っていいものか・・・。
「では、そろそろ怪我を治しましょうか。≪浄化≫≪治癒≫≪回復≫」
魔法で、体の汚れも綺麗になり、羽根の怪我もすっかり治った。
「おお、凄まじい効き目だな。感謝する。何か礼をせねばな。」
そうだ、依頼の件もあるので、我々がここに調査に来た旨を説明し、何か証拠となるものを貰えないかと聞くと、
「では、尻尾の羽ではどうだ?この大きさでは?」
「それで十分だと思います。それを頂ければありがたいですね。」
グリフォンクイーンの尻尾の羽を5枚貰ったので、収納しておく。
「それで、怪我も治って、これからどうするの?」
エルザが尋ねる。
「特に目的地があるわけではないから、人が来ない落ち着いた土地があれば住みつくのも悪くないが。」
「母のいる霊山はどう?」
「古龍様のところ?それは、恐れ多いな。」
「大丈夫よ。それなら一度、私と一緒に行けばいいわ。」
「・・・分かった、それでは一度行ってみようか。」
「じゃあ、旦那様。ひとっ飛びしてくるわね。」
「分かった。適当に散策してるよ。」
エルザとグリフォンクイーンは、霊山に向けて飛びたって行った。




