31.厄介事
港町に着いた。大森林に挟まれる立地の為、魔物の氾濫に備えて町を囲む高い外壁と外堀がある。堀を渡るための吊り橋を通り、ギルド証を提示して門をくぐった。
順番としては、届け先に荷物を届けて、依頼達成のサインを受け取り、ギルドに依頼達成を示して割増含めてギルドに預けられている依頼料を受け取ることになる。
ただし、届け先が襲撃計画を知っているグルだと、さて、どうなることか。
「じゃあ、まず荷物を届けに行こう。」
届け先の店に向かう。
「すみませ~ん。領都から荷物をお届けに来ました。」
「はい、少々お待ちください。」
特に敵対や悪意は無い。
「お疲れ様です。荷物をお届けて頂いたそうで。」
「ええ、領都のトスター商会から、荷箱100個になります。どこに出しましょうか?」
「100個ですか。では、倉庫にお願いします。」
と、倉庫に案内される。未だ敵対や悪意は無い。こっちは襲撃とは無関係か?
バッグから出すようにして、荷物を取り出した。
「封印と個数を確認して、問題なければ依頼完了のサインをお願いします。」
「はい。今確認させますので。」
従業員に確認の指示を出している。
「道中は何か問題はありませんでしたか?」
定型句か、探りかどっちだろうか、まあ正直に話しても問題ないが。
「ああ、盗賊、追い剥ぎというべきかな。俺たちが荷物を運搬してるのは外見では分からないからな。まあ、追い剥ぎが出たが、一応ランクBだから特に対処するのに問題は無かったな。」
「そうですか、ご無事でなによりです。」
と、ニコニコ対応しており、敵対や悪意は無い。疑い過ぎか。こっちは無関係かな。
「確認完了しました。問題ございません。完了のサインをしましたのでどうぞ。どうもありがとうございました。これほどの運搬が可能であれば、今度、指名依頼でお願いしたいものです。」
「いや、今回は港町に来るのが主目的で、依頼はついでだったから、そうそう運搬依頼を受けるわけではないよ。」
「そうですよね。ランクBであれば、魔物を狩った方がよっぽどいい稼ぎになりますしね。」
「まあ、そういうこと。それでは。」
最後まで変わらなかったので、彼らは襲撃には関係なかったようだ。
「依頼を完了したので、確認と支払いを頼む。」
ギルドに来て、受付に来た。
ここのギルドもダンジョン、大森林で稼ぐための冒険者であふれる為か、相当大きい。
「確認しました。割増を含め、報酬100万ゴルドです。」
5日で100万ゴルド稼いだというのに、大した額でないと思う金銭感覚が・・・。
「景気いいじゃねえか。少しおすそ分けしてくれてもいいんじゃないか?」
うん、俺たちに言ってるのか?
30歳手前くらいの冒険者が3人、ランクDねぇ。最初から悪意満々だな。
「いや、人にたからなくても、これ位ちょっと魔物を狩ってくれば、すぐに稼げるだろう。頑張れ(棒読み)。」
「てめぇみたいな若造が、女2人もつれて生意気なんだよ。今の報酬もなんかイカサマしやがったんだろう?」
馬鹿を相手にするのは疲れるので、受付嬢に
「これ、ギルドは不干渉ですか?やっちゃっていいですよね?」
「いえ、ギルド内での揉め事は困ります。そちらの方も絡むのはやめてくださいよ!」
「俺達は、ここいらじゃ見掛けない若造に、仲良くなってここの流儀を教えてやろうっていう親切心で言ってんだよ。」
ニヤニヤしながら受付嬢に向かって言う。ああ、面倒くさいな。レティとエルザがどんどん不機嫌になっていくのが伝わってくるし。
「俺たちはこれから新鮮な海の幸を堪能しに行くんだ。腹減ってイライラしてるんで邪魔するなよ。そもそも相手の力量も分からない奴から何を教わるんだよ。」
「なんだとこの野郎!!」
3人が激高し、剣を抜く。おいおい、抜いたよ。しゃあない。
「剣を抜いたな。」
指向性を与えて、3人だけに向け、“威圧”した。
「「「ひぃ!!」」」
3人とも白目を剥いて失禁しながら膝から崩れ落ちた。
「うわ、汚い。剣を抜いたと思ったらいきなり漏らしましたよ。これ、どうするんですか?俺たち関係ないですよね?それじゃあ、腹減ってるんで。」
と、知らんふりして受付嬢に言って、出ていこうとした。
「ちょっと待て!」
「ギルマス!?」
後ろから男が声を掛けてきた。受付嬢が何故か驚いている。
くそっ、“威圧”した後、ギルマスが部屋から出てこようとしたからとっとと出ようと思ったのに。
いや、聞こえないふりで。
「待て待て!お前達だ、そこのローブの3人だ。」
ちっ、誤魔化せないか。
「なんでしょうか?お腹が減って早く食べに行きたいんですよ。」
「お前、そこの馬鹿どもを“威圧”しただろ?気配を感じたぞ?」
「仮にそうだとしても、何の問題が?一方的に絡まれた挙句、いきなり剣を抜く連中ですよ。俺の大事なこの娘たちに危害を加えられたらどうするんですか?他に被害もなく平和的に鎮静化させたんですから、褒美でもくれます?」
「よくそこまで口が回るな。確かに罰する理由は無い。ただ、その力量を見込んで頼みがあるだけだ。」
「いや、遠慮します。ギルマスの頼みなんて厄介事の予感しかないんで。聞いたら断れないパターンですよね、これ。じゃあそういうことで。」
ギルマスの部屋に、この港町の代官の娘がいるんだ。どう考えても厄介事だろ。
「待て!じゃあ緊急依頼だ。ランクB以上は断れない。ギルド証剥奪されたくなかったらとっとと来い。」
「じゃあってなんですか。それは横暴です。緊急依頼は、私的な依頼は出来ないはずでしょう。公的にどんな大規模危機が迫ってるんですか?緊急依頼なら、ここにいる冒険者全員が対象ですよね?」
「まだ調査中だから、全員は必要ない。私的でもない。剥奪されたくなかったらとりあえず来い。」
俺たちは、無理矢理ギルマスの部屋に来させられた。
全く、逃げ損ねた。




