3.家族会議
5分ほど待つと、ロイの姿が映し出され、応答があった。
「父上、母上、兄さん、久しぶり、どうしたのこんな夜更けに?」
「久しぶり、ロイ。最近の私の状況の変化を含めて、家族みんな揃ったところで説明しようと思ってね。時間は大丈夫かい?」
「大丈夫だよ、兄さん。今日はもう寝るだけだったから。」
両親は黙って聞いている。ポールには退室してもらい、家族4人のみの会話だ。
「よし、それじゃあ、まずは私の足が見えるか?」
と言ってライアンは自分の右足を示す。
「なっ!右足が・・・。」
と、ロイの息を呑む様子が見える。
「5日前、卒業間際だというのに学園から要請があって、北の森に小物の魔物を狩りに行ったんだが、一緒に行った同級生とはぐれたタイミングで盗賊に襲われた。まあ、レベル0だし、5人相手では抵抗もあまり意味がなかった。結果として、はぐれた同級生が駆け付けて賊が逃げた時には、右足が切られていたと。」
「なんで、兄さんはそんなに淡々と語ってるの?辺境伯の息子が王都近郊で賊に襲われたってだけでも大事件なのに、しかも右足まで失って・・・。調査は?騎士団は動いてるの!?」
「まあ、落ち着けロイ。一応調査には動いているみたいだ。どこまで真剣かはわからないけどね。」
「それは、どういうこと?」
ロイが、ちょくちょく合いの手を入れてくるのを、快く感じながらライアンは話す。この兄弟は昔から実に仲がいいのだ。
「実は、先ほどまで行っていた学院の卒業パーティーでサンドラ王女から婚約破棄を通告された。」
「「「はあっ!!」」」
3人の声が重なる。
「理由としては、レベルが0から上がらないことをあげつらっていたが、この右足のことも言ってたな。だが、実際のところは、結構前から計画していたのかも。数年前からサンドラの側に、ランパード侯爵家のジョンとハリス伯爵家のジミーが取り巻きとして従うようになって、色々とサンドラに吹き込んでいるようだったし、私を除いて自分たちのどちらかがサンドラとくっつく思惑で動いていたんじゃないかな。」
「なるほど、あの2家は、我が家とは関係が深くないし、むしろ辺境の田舎者と蔑んでいるだろう。騎士団上層部は歴史のある侯爵家の息のかかっているものも多いしな。賊が2家のバカ息子の仕業と考えると、騎士団の動きが悪いのも辻褄が合う。だが、それはさておき、お前はここまでコケにされて平気なのか?」
とエリックが怒りをにじませながら問いかける。
「いや、無理やり婚約に持ち込んでおいて勝手に破棄だから、流石にブチ切れそうにはなったけどね。その瞬間、頭の中で「レベル上昇の封印が解かれました」って声が響いて、突如レベルアップしたんだよ。で、膨大なレベルアップとスキルを取得してしまったというわけで。母上は先ほど“鑑定”で見ましたよね?」
「ええ、でもほとんど情報が見えなかったの。体力と魔力が桁違いに増えているのは分かったけど、それ以外はほとんど見えなかった。これは相当レベル差があるってことになるけど、私よりレベルが上って、貴方レベルは一体いくつなの?」
「ここだけの話にして下さい。下手に漏らすとかなり面倒くさいことになりそうだから。レベルは522ですね。」
「「「!!!!!」」」
もはや3人とも声にならない。
「で、話を元に戻すと、コケにされた云々ってのは、婚約破棄されて自由になれた方が何倍も嬉しくて気にならないというか、どうでもいいというか。」
「ちょっとレベルの衝撃が大きすぎてちょっと落ち着くわね。」
と、クリスティーナはお茶に口をつけ落ち着きを取り戻し、
「でも、王女のことは好きになっていたのではないの? 最初は乗り気じゃなかったけど、本人が好きになったのならと思って、酷い扱いと聞いていても口を出さなかったのだけど。」
「それが、レベルが上がった時に、頭の中の靄が一気に晴れた気がして、取得した“詳細鑑定(極)”で見てみると、サンドラはスキルで“魅了(小)”を持ってたんだ。即効果を発揮するようなスキルではないけれど、特定の一人に対しては長い時間接していれば、徐々に効果が発揮されるもので。それでレベルの低かった私の感情を取り込んでいたんだろうね。今は何とも思ってないし、長い時間無駄にしたなーって感じ。」
「分かった。お前がそういう気持ちなら、婚約破棄に関しては、むしろ我々としても望むところだ。あの国王がわざわざ人前で頭を下げて、断れないように仕向けたから渋々承諾してしまったが、お前には本当に悪いことした。すまん。だが、賊に関しては、徹底的に糾弾するぞ。我が家が喧嘩を売られたってことだからな。」
「ああ、それに関しても、私の怪我自体は気にしないで。すぐ治せるようになったから。」
≪再生≫
と、魔法を使うと、右足が白く光り元通りに再生した。
「「「蘇生魔法!?」」」