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29.事故

 城から出て、とりあえず冒険者ギルドに向かう。大通りは、屋台も立ち並び、活気があり賑わっている。

 領の町の人の顔が明るいと、俺も嬉しくなる。

 

 ギルドに着いた。建物は王都のギルドに匹敵する。

 掲示板を適当に見てみると、港町フォードへの荷物輸送の依頼があった。

 フォードには子供のころ何回か行って、美味しい海の幸を食べた記憶がある。

「ねえ、新鮮な海の魚介類を食べたくない?」

と依頼票を指差しながらレティとエルザに聞いてみた。

「私は、海を見たこともないですし、もちろん魚介類と言われても分からないのですが、興味はあります。」

「食べたいわ。海は近かったけど、獲物を捕まえるのが面倒くさかったの。」


「じゃあ、港町に向かうことにして、この依頼受けようか。」

 港町までは、だいたい普通に歩いて5日くらいだ。

 受付で依頼を受け、依頼主から荷物を預かる為、ギルドを出た。

 

「あーーー!!!」

 声がした方を向くと、3、4歳位の女の子が馬車の前にいるのが見え、

「ドカッ!」

という音がして、女の子が弾き飛ばされた。

「レティ!頼む!」

「はい!」

 一瞬で動き、女の子が地面に叩きつけられる前に足から滑り込んで受け止めた。


 すかさず近寄り、状態を見る。骨が折れ内臓に損傷がある為、上級ポーションを取りだし飲ませた。

 もう一度状態を確認して、へたり込んでいる母親らしき女性に近づく。

「これで大丈夫ですよ。」

「マーマーー、アァーーーン」

「ありがとうございます、ありがとうございます。このお礼は必ず・・・。」

「いえ、気にしなくていいですよ。大丈夫そうでよかった。」

と、抱き合って泣く2人に言っていると、


「貴様ら!伯爵家の馬車の前を塞ぎおって、無礼者が!」

 先程の馬車に従っていた騎士が近寄って来て怒鳴る。相当のスピードを出していた馬車は、少し進んだ場所で停止していた。

 騎士の言いように、子供の無事を知って安堵していた周りの空気が途端に悪化していく。


 辺境伯家では、伝統的に貴族、官吏、騎士、衛兵等権力を有する者が、必要以上に尊大に振る舞うことはない。公式の場で無ければ、礼儀作法にもうるさくないし、領民もそれを知っている。よって、子供を撥ね飛ばした挙句、上から文句を言う騎士の態度は受け入れられる筈もなかった。ただ、身分差というものは明確にあり、騎士にすぐに反論する者もいなかった。


 仕方ない。

「それは、馬車がスピードを出し過ぎていただけでしょう。こんな人通りの多いところでは、徐行が当たり前です。それよりも子供の心配が先でしょう。」

と俺が答えると

「「そうだ、そうだ。」」

と回りからも声があがる。


「黙れ、平民風情が!伯爵家の馬車を止めてただで済むと思うな!」

「ただで済まないって、子供を撥ねておいて、金まで請求するんですか?ま、貴方みたいな騎士が配下にいる時点で、よい人材を雇う金がないのは分かりますが。」

「「「ブッ!」」」

「そりゃあ、言えてる。」

 周囲で吹き出す声が聞こえる。


「き、貴様!!伯爵家を愚弄するか!」

「いえ、俺が愚弄しているのではなく、貴方の振る舞いが主を貶めているのですよ。」

「ふ、ふざけたことを!」


「どうしました?何か問題でも?」

と、辺境伯家の騎士が騒ぎを聞きつけてやって来たようだ。

「いえ、そちらの馬車がこの子を撥ね飛ばして大怪我させた上、馬車を止めたことでお金を請求されているところです。」

 簡潔に伝えてあげた。

「はっ?ちょっと意味が分かりませんが。」

と伯爵家の騎士の方を向く。


「平民が伯爵家の馬車の前に飛び出して、通行の邪魔をしたんだ。普通なら切り捨てるところだろうが!!」

と、騎士が怒鳴る。

「いいえ、普通ではありません。辺境伯領、特に領都では、歩行者が優先です。領主様であろうと、貴族であろうと、歩行者の善意によって、馬車の通る道を開けて頂いているのです。飛び出した程度の歩行者を避けられないスピードで馬車を走らすこと自体が非難されるべきです。」

 理路整然と辺境伯家の騎士が答える。


「それで、その子は大丈夫ですか?」

と母親に向けて尋ねるが、俺が代わりに答える。

「かなりの重症だったから、すぐに上級ポーションを飲ませて回復させた。」

「それは良かった。ところで貴方は?」

「ああ、ただの通りすがりの冒険者だ。」

「はい、そちらの女性に撥ね飛ばされたこの子を受け止めて頂き、こちらの男性にポーションを飲ませて頂きました。」

と少し冷静さを取り戻した母親が言う。


「ふむ。よし、お前達2人で、ここで聞き込みをして今の話の裏付けを取れ。その親子の家も確認しろ。ああ、お母さんと娘さんは被害者ですから心配いりませんよ。」

 辺境伯騎士が部下に聞き込みを指示した後、母親をフォローする。


「貴方は助けただけのようですから、事情聴取はとりあえず必要ないと思いますが、身分証だけ確認させて下さい。」

「はい、どうぞ。ちなみに、先ほど依頼を受けたので、この後港町に向かいますが。」

「分かりました。何かありましたら、ギルドから連絡してもらいます。」

 ギルド証を確認後、馬車に向かって歩いていく。


「申し訳ありませんが、詰め所で事情を聞きたいので、同行願いたいのですが。」

と、馬車の中の人物に語り掛ける。

 馬車の扉が開き、侍女らしき女性が出てきて抗議する。

「無礼ではありませんか!こちらは、アークライ伯爵家ご令嬢ネリーネ様ですよ。それを平民の犯罪者のように連行しようなど!」

「連行などとは人聞きの悪い。一応貴族様と認識しているので、丁重にご同行願っているのですが。」

 結構人を食ったような対応だな。貴族相手に遠慮しないのは好感持てるが。


「ふう、分かりました。その騎士殿に従ってください。」

「しかし、お嬢様。」

「いいのよ。ただ、後で抗議はさせてもらいますわ。」

 中から伯爵家令嬢らしき声が聞こえる。

「ご理解頂けたようで光栄です。ではご同行ください。」


 辺境伯騎士は、貴族様一行を連れて、詰め所へ向かっていった。


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