28.領都
主人公視点に戻ります。
オールドの町で、エルザ用のローブなどの買い物を済ませ、1時間ほどエルザの背中に乗って領都の近くに降り立った。もちろん、騒ぎにならないよう≪認識阻害≫を掛けた。
ギルド証で、特に問題なく入場した俺達は、城を目指して歩く。
「さて、このままだと城に簡単には入れないが、どうするかな。門番が顔見知りならいいんだが、10年間ほとんど王都にいたから顔を知られていないだろうな、きっと。」
「普通に面会申請は出来ないのでしょうか?」
「う~ん。時間が結構かかるけど、まあ急ぎじゃないからそうするか。」
守衛の詰所に行き、面会申請の受付を教えてもらう。偉ぶってないし、対応が丁寧だ。何だか誇らしい。
「え~と、面会申請をしたいんだけど。」
「はい、ではどなたに面会をご希望でしょうか?一般の方ですと、面会相手によってはかなりお待ち頂くことがございます。」
「はい。勿論知ってます。面会相手は、ご領主代行様でお願いします。」
「代行様?ご領主様ではなく、代行様ですか?」
受付の女性が何かに反応したように聞き直す。
「ええ、ご領主様はいらっしゃらないでしょうから、代行様で。」
「お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「冒険者のロバートと言います。」
「!!、申し訳ございません。こちらのお部屋でお掛けになって少々お待ち願います。」
隣の小部屋に案内された。かなり上質な家具が置かれた部屋だ。
確か、ロバートの名前はあの時ロイも聞いてたな。ってことは、
「ライアン様!」
ああ、やっぱり。城で執事を務めるマークが入ってきた。
若いころから父上を支える苦労人で、そろそろ50歳になるんだったか、白髪が増えている。
「久しぶりだね、マーク。でも何故すぐに俺だって察したんだろう。」
「それは、一般の方は、代行という呼び方を知りません。そして、ロイ様よりロバートと名乗る冒険者が来た場合、必ず上司に連絡を上げることを周知されておりました。」
「ああ、やっはりそうか。ロイらしい気遣いだね。では、入っても構わない?あと、大事な連れが2人いるんだけど。」
「勿論でございます。既にロイ様にも知らせを出しました。どうぞこちらから。」
城の一番格の高い応接室に案内され、3人で座って待っていると、ロイが入ってきた。
「久しぶり、兄さん。」
実際に会うのは本当に久しぶりだ。2人でしばし抱き合う。ロイも大きくなった。顔は年齢に比べ童顔で可愛いと言われる感じだが、体は引き締まっており、鍛えているのが伝わってくる。
「ロイも大きくなって、力強くなったなぁ。」
ソファに向かい合って座る。
「その前に、両隣の美人を紹介してもらえるかな。」
ああ、そう言えば、まだ紹介していなかった。
「左が、レティシア、右がエルザ。2人とも俺の妻だ。」
「「「妻!!」」」
ロイはともかく、なんで、2人もハモるんだ?
「え、違うのか?」
と、両隣に聞く。
「いえ、嬉しいんですが、私なんかが・・・。」
「嬉しいわ。早速子づく・・・。」
ていっ。エルザをはたく。
「と言う訳だ。」
「いや、何が[と言う訳]だかよく分からないけど、大切な女性ってことだね。」
「それで間違いない。」
「はあ、私は、兄さんと呼んでる通り弟のロイです。兄さんが嫌がったので辺境伯家の跡取りになります。」
「よろしくお願いします(する)。」
と2人も答える。
「さて、紹介はここまでにして、1つ報告があって、どうせならまた王都と繋いで、父上達にも一緒に聞いてもらった方がいいと思うことがある。魔力は俺が受け持つよ。」
「分かった。準備するよ。」
通信魔導具を準備して、王都を呼び出してしばし待つ。
「おう、ライアン到着したか。思ったより早かったな。」
「道中、危険なことは無かった?」
父上と母上から応答があった。
「ああ、色々とあったけど、特に命の危険はなかった・・・と思う。」
いや、普通なら命を落としてるか。レティも横からジト目をしている。
ちなみに、調整して、レティとエルザはまだ映していないので、向こうは認識していない。
「こちらからも報告があるけど、まずは王都の様子を教えてもらおうかな。」
と、王都の話を聞いた。
襲撃の犯人特定、審問会、“暗示”スキルの件、国王の沙汰、国王&王女謝罪訪問と順番に説明された。
「ではとりあえず、俺の件はそれで幕引きってことでいいよね?」
「ああ、一応片付いたな。」
「でも、王女からそっちに手紙が届くかも。」
と余計な一言が聞こえた。
「母上が唆したのでしょうに。別に謝罪なんかいらないんだけどな。」
「では、その素直な気持ちを返事で送ればいいのでは。このままでは王女も踏ん切りがつかないのでしょう。」
「分かった。最後にそれくらいはするか。」
「最後って、本当に何の気持ちも無いのね。何だかむしろ王女が気の毒になってきたわ。」
「それは仕方ないでしょう。大事な人もできましたし。それも含めて、これまでのことを報告しますよ。」
俺は、王都を出てから、レティとの出会い、ダンジョン行き、50階層ボス攻略、風竜との契約、古龍の解呪、エルザとの契約と、改めて振り返ると1ヶ月程度の出来事とは思えない密度の出来事を順に話した。
「もう、何から突っ込んでいいいのか分からないぞ。」
「で、で、その娘たちはどこにいるの?」
母上のテンションが高い。
「ああ、ずっと隣にいましたよ。映してないだけで。」
と、調整し直して2人とも映るようにする。
「「・・・・・・」」
ふっ、美しさで声が出ないようだな。
「改めて、レティとエルザ、俺の妻だ。」
「「・・・・・・」」
「初めまして、レティシアと申します。」
「エルザです。」
「・・・ああ、よろしく。」
「な、なんて可愛いの!フフフフ、この2人が私の娘に・・・。」
なんか、母上が壊れた。
「こちらに戻られたら引き合わせますよ。」
「ええ、今から帰るのが楽しみね。」
「じゃあ、報告はこんなところで。」
「色々あり過ぎだが、即座に対応が必要なことはなさそうだな。近いうちに領地に帰るから、そちらのお嬢さんも含め、皆で食事でもしよう。ロイ、もうしばらくそっちは任せたぞ。じゃあな。」
「またね。」
通信が切れたので、ロイと向かい合う。
「まあ、しばらくは領地内をフラフラしていると思う。」
「急に連絡を取りたいときはどうしたらいいの?」
「そうだな、とりあえず、冒険者ギルドに連絡するよう伝えてもらえばいいんじゃないか。」
「分かった。そうするよ。」
伝えることは伝えたので、そのまま城を出た。




