27.王都5
第三者視点です。
審問会から2週間後、国王ロジャー・チェスターが王都に戻ってきた。
宰相は、国王の執務室を訪れ、留守中の報告をする。
「最後に、第三王女殿下が、ご自身が主催する学院の卒業パーティーで、ライアン殿に婚約破棄を言い渡されまして、ライアン殿はそれを受け入れました。辺境伯家も了承しております。尚、辺境伯によって、ライアン殿は既に貴族籍から除籍されております。」
「な、な、な、なんだと!? 何故その話が最後にくる? 一番最初に言え! で、どうしてそうなった?」
宰相は、ライアンの怪我から婚約破棄と辺境伯家の対応、審問会の内容について、順を追って詳しく説明した。
「なんということだ。すぐにエリックとライアンを呼び出してくれ。謝罪して婚約破棄の撤回を・・・。」
「落ち着いてくだされ。まず、ライアン殿は貴族籍から外れた為、辺境伯は貴族としての対応をさせないと言っております。次に、婚約破棄を言い渡された時にライアン殿が、陛下の了承済みかどうかの確認を求め、殿下は了承済みと認められました。これを多数の貴族子弟が聞いており、撤回すれば王家の発言に多大な不信感を与えるでしょう。」
国王は、頭を抱えた。
「俺がいないところで何でここまで事態が急展開しているのだ?」
「いえ、真っ当な公務のみなら、パーティーまでにお戻りになれたかと。」
「多少息抜きして、何が悪いんだ!?」
物見遊山で帰りが遅くなったことを指摘され、思わず逆ギレする。
「悪いとは一言も申し上げておりませんが、あの餓鬼どもが殿下にすり寄ったのは、なにも陛下が留守の間だけ、というわけではございませんので。」
「ああ、確かに他の王女と違って、ライアンと婚約させた後はあまり目をかけなかったが・・・。今はそう言っても始まらん。まず何をすべきかだ。」
「先ずは、あの餓鬼どもへの沙汰をどうするかでしょう。殿下が、半ば洗脳されていたことを公表するかどうかで、重さが変わりますな。」
「で、サンドラの様子は?」
今更気がついたように、娘の様子を尋ねることに呆れながら宰相が答える。
「少しは落ち着かれましたが、正気に戻られてから自責の念で塞ぎ込んでいらっしゃるようです。」
国王は、頭を悩ます。洗脳を公表すれば、もう条件のいい婚姻は難しいだろう。
「公表せず、辺境伯の子息襲撃の罪のみで、犯罪奴隷として鉱山送りか・・・。エリックはどう思うかな?」
「特に何も言わないでしょう。婚約破棄については、元々渋々婚約を受け入れていたので、問題ないでしょう。面子の部分では、今回は黙って王家への大きな貸しとするでしょう。」
宰相は、辺境伯と話した中でそう予想していた。長年の付き合いであり、ほぼ正解である。
「そもそも、その者達の動機は?王族と辺境伯に喧嘩を売るなど正気ではないぞ。」
と、国王が当たり前の疑問を呈する。
「自分達は、上位貴族といえども将来は跡継ぎの予備として部屋住か、独立してその他大勢の領地無しの下位貴族。対してライアン殿は見初められただけで、レベル0なのに王女殿下の婿。比べるまでもなく自分達の方がふさわしい、という思い込みによるものとのことです。」
「馬鹿馬鹿しい。それ以上罰せられんが、親どもには当面大人しくしていろと伝えておけ。」
「さて、エリックの方だが・・・、お忍びで謝罪にいくか。」
と、国王が言うと、
「まあ、だらだらと先延ばしにするよりはいいでしょう。公式に謝罪するかどうかは、向こうの意向次第としましょう。」
と宰相が答えると、バタンと扉が開け放たれ、
「お父様、私もお連れ下さいっ!」
と、第三王女が駆け込んできた。
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国王と第三王女、おまけで宰相の3人はわずかな供回りを連れて地味な馬車で辺境伯邸までやってきた。
執事のポールは内心慌てたものの、お忍びであることを察し馬車をすぐに邸内に招き入れ、主へ知らせを走らせた。
応接室で、片側に国王ロジャー、第三王女サンドラ、向かいに辺境伯エリック、辺境伯夫人クリスティーナ、側面に宰相ジョージが座った。
「今日は、お忍びであり、国王ではなくサンドラの父親として謝罪に来たので、畏まった礼は無しとしよう。
今回の件、サンドラが半ば洗脳状態だったとしても、結局その状態に陥ることを許してしまったこと自体が落ち度であるし、みすみす思惑に乗って婚約破棄してしまったことも確かだ。大変申し訳なかった。」
とまずロジャーが頭を下げ謝罪する。
「今回の件、及びそれまでの態度も含めて、結局は私の不徳の致すところです。誠に申し訳ありませんでした。」
と続けてサンドラも頭を下げ謝罪する。
「まあ、事情が事情ってことで、今となっては王女に怒っているわけでもないしなぁ。だいたい本人がもういいって言ってる以上、俺たちがどうこう言う気も無いんだが、気が済まないということであれば、謝罪は受け入れよう。」
とエリックが答える。礼は無しといっても態度が砕けすぎだが、若いころからの気の置けない付き合いによるものだ。
「ありがとうございます。ところでライアンは今どうしていますか?」
とサンドラが一番気になっていること聞く。
「ああ、婚約破棄を言われた翌日には意気揚々と王都を出たな。」
とエリックが馬鹿正直に答える。
「い、意気揚々と・・・。」
サンドラが目に見えて落ち込む。
「エリック!」
クリスティーナがもうちょっと気を遣えと肘でエリックを小突く。
「んっ、足を失ったと聞いていたが、それでどこに行ったんだ?」
ジョージも初耳だった為、確認する。
「ああ、うちの領都目指して、ゆっくり旅するって言ってたな。婚約破棄を言われたあたりで、何故か急にレベルが上がって、魔法が使えるようになったから、足のこともどうとでもなるってな。」
魔法で欠損を治したことを言う訳にもいかず、言い回しで誤魔化した。
「そ、そんなことがあるのか・・・。」
ロジャー含め、3人とも困惑気味だ。
「まあ、本人は謝罪を求めていないから、もう気にしなくていいと思うぞ。10年の枷が外れてせいせいしてたしな。」
「枷・・・、せいせいしてた・・・。」
サンドラが更に落ち込む。
「エリック!」
クリスティーナが強めに肘でエリックを小突く。
「ああ、あいつは貴族社会で生きることが嫌だったみたいだな。貴族籍から外れて自由に生きたいんだと。」
エリックがフォロー(?)した。
「そう・・・ですか。もう王都には戻ってこないんでしょうか?」
サンドラが、泣きそうな顔で尋ねる。
「それは俺も分からんが、基本は領地で過ごすつもりだろうな。特に王都に来る理由も無いしな。」
エリックの答えを聞いて、両手で顔を覆う。
「こんなこと言う資格はないのですが、一言謝りたかった・・・。」
「では、手紙を書いては如何でしょうか?領都の城宛であれば、いずれライアンの手元に届くでしょう。貴族籍を外れても、我々の家族をやめたわけではないので。ただ、返事があるかどうかは分かりませんが。」
クリスティーナが慰めるように言う。その言葉にサンドラが顔を上げ、
「返事が欲しいなどと贅沢は言いません。まずは謝罪の手紙を送ることにします。そして、もし会ってもいいと言われれば、直接謝罪をしに会いに行きます!」
「そ、そうですか。」
辺境伯夫妻は、物凄い勢いで提案に飛びついた王女に引き気味となった。




