24.風竜
朝起きて、レティの寝顔を眺める至福の時間をしばし堪能する。
朝食を食べ、レティと話す。
「レティ、そろそろ1度ダンジョンから離れて、いろんな依頼を受けてみてもいいかと思ってるんだけど。いや、特にランクAに早く上がりたいとかでは無いんだけど、冒険者の幅を広げてもいいかなぁと。」
「私はロバート様のお考えに従うだけです。」
「でも、今すぐ離れると、火竜の肉は1体分だけなんだよね。」
ピクッとレティの耳と尻尾が揺れる。
「更にダンジョンの先には火竜は勿論、他の竜種もいるかもしれないんだよね。」
ピクッピクッと、更に耳と尻尾が揺れる。うん、分かりやすい。
「よし、レティの気持ちは理解したし、俺ももう少し肉を確保したい。ということで、あと2、3階層様子見して、ある程度肉が確保出来たらダンジョンから離れようか。」
「わ、私はそんな・・・。」
と否定しようとしたが、自分の尻尾がブンブン動いていることに気づき、尻尾を手で押さえて頬を染めて俯いた。
俺は、レティを抱きしめて、
「いいんだよ。もっと思ったことや希望を言ってくれて。多少我儘言われるくらいの方が嬉しいんだよ。」
「あ、ありがとうございます。嬉しいです。」
いい雰囲気になったが、宿を出る時間なので、ダンジョンへ向かう。
ダンジョンの入口から51階層へ飛んで、安全地帯から中へ進むと、これまでとは景色が変わった。
今までは草原や森林が多かったが、ここは水辺という感じだ。川、湖が多い。
とりあえず、景色を見ながら進む。
水辺が多いだけあって、ランクSの水竜がゾロゾロ出てくる。思ったより小さい体をしている。5m程か。水から出てきて敵意を持って近寄ってくる水竜だけを首を刎ねて収納していく。水に入ってまで倒すつもりもない。
それでもかなりの数を収納できている。
そのまま進んでいくと、水辺から離れたので、昼食を取る。数が多い水竜の肉をメインで食べる。
こ、これは・・・、亜竜や地竜も美味かったが、更にその上をいっている。もう言葉で表現できない。レティのがっつき方も半端なく野性味が出ている。美食のため、ここには、今後何度も狩りに来よう。
昼食後、更に進むと、ゴツゴツとした岩肌が多い場所に差し掛かった。風がやや強く吹いている。もうなんとなく次の展開が・・・。
遠くの空にあった点のようなものが徐々に近づき、≪探知≫範囲に入ってきた。やはりランクSの風竜だな。最初から敵意がある。近くまで来ると、体長10m程あった。
「レティ、来るよ。」
レティにも見えているが、一応声を掛ける。
飛んでいたことと、風魔法が効きにくいことが厄介だったが、≪水槍≫で頭を貫いて落とした。
次々と飛んできたが、落ち着いて順次落とし、計18頭収納した。
落ち着いたと思ったら、≪探知≫範囲に入り一気に飛んでくるのが1頭いる。今までのスピードとは桁が違うし、魔力の大きさが違う。ただ、
「レティ待って!敵意が無い!」
迎撃態勢に入るレティをとりあえず抑える。
「おお、ここまで来た人間は初めてだ。僥倖だ。」
なんだ、目の前に来たデカい風竜が喋っているのか?
ここまで来ても敵意は無いみたいだし、
「ええと、貴方が喋っているのか?」
「いかにも、我は、風竜王である。」
20m近い巨体の割には、澄んだ声で答えた。
「先ほどの風竜達は、貴方の部下か?敵意があって襲ってきたから倒してしまったが。」
「まあ、部下というか眷属だな。だが、我のように高い知性はない。だから力の差も分からず突っ込んでいくのだ。戦いを挑み敗れたのだから、我に含むところはない。そして我は貴殿と争うつもりはない。優劣がはっきりしないなら意味があるが、明らかに貴殿に勝てないだろう。」
「まあ、敵意のないものを殲滅していく趣味は無いから、貴方がそう言うなら別にこちらも何もしない。ただ、さっき言ってた僥倖とは?」
「それなのだが、少し長い話になるが、よいか?」
と言って、話した内容は、
・今から2000年ほど前、魔王と竜の争いがあった。
・最終的には竜達が勝利したが、滅びる寸前に魔王が最後の力で呪いを発した。
・風竜王は、このダンジョンに転移させられ、自力では出られなくなった。
・その他の竜王達も、各地に散り、半ば封印状態である。
・竜を束ねていた古龍は、周囲から魔力を強制的に吸収させられるようになった。
・その魔力のせいで、周期的に我を失い、大暴れして魔力を発散する。
・古龍が暴れれば広範囲で壊滅的な被害がでる。
・古龍の様子は、遠く離れていても、竜王ならなんとなく感じ取れる。
・古龍が前回暴れたのはだいたい700年前で、その時が近い、というかもう爆発寸前。
・古龍は暴れた後、我に返って酷く後悔に苛まれ、その感情が伝わってくる。
・俺の魔力から高位の魔術師と感じ、呪いを解くよう打診したかった。
ということであった。
「貴方は自分ではダンジョンから出られないと言ってたけど、例えば、ダンジョンの外から≪召喚≫魔法で呼び出したら出られるの?」
「それは、貴殿と我が召喚契約をするということか?それなら可能かもしれんな。」
「古龍様の呪いを解きに行くにしても、事情も知ってて顔なじみの貴方と一緒の方がいいと思うんだが。」
風竜王は、少し考えた後、
「確かに、呪いを解くお願いをしているのだし、貴殿ほどの者となら否やは無いな。では、召喚契約をするに為に、我に名前をつけてくれ。」
「大変失礼とは思うが、雌雄はどちらだろうか?人から見ると見分けがつかないんだ。」
「フッ、ハハハハハ。男か女かと言われれば、女だな。」
特に気分を害した様子は無い。
「ああ、そうなんだな。では、シルフィーでどうだ?」
「うん。シルフィーか、気に入った。では、『我、シルフィーの名をもって、汝の召喚を受け入れることを誓約する。』」
フワッと頭の中に誓約が刻まれた感覚が押し寄せた。
「これでいつでも呼べるはずだ。ダンジョンの外に出たら試してみてくれ。」
「分かった。事情が事情だし、早く動いた方がいいよな。下手すると滅ぶ都市が出てくるかもしれないし。早速ダンジョンをでることにする。」
「ああ、では呼び出されるのを待つことにする。」
戻るよりは進む方が近いので、52階層まで行って、到達登録して外に出た。
急いで町から離れ、街道から外れたところでシルフィーを呼び出す。
「≪召喚≫、シルフィー!」
魔法陣が出現し、そこからシルフィーが顕現した。
「上手くいったな。我が主殿。」
「えっ!?主?」
「そうだ、召喚主だからな。いや~、久方ぶりの外だな。感謝するぞ主殿。」
「あー、まあいいや。さて、古龍様に会うには、どっちに行けばいいんだ?急ぐんだろ。」
「案内する。2人とも我の背に乗るがいい。」
「ロバート様はともかく、私まで乗っていいのでしょうか?」
「そなたも主殿に仕える者。しかも我とて勝てるかどうか分からぬ強者だ。遠慮はいらぬ。」
2人で背中に乗ったところで、シルフィーが飛び立つ。
一気に加速した為、小さな≪結界≫で2人を包み風圧を避けた。
「なかなか器用だな。主殿は。」
何か楽しそうにシルフィーが呟く。
「で、どこに向かっているんだ?」
太陽の方向から、どうやら南の方角を目指しているらしい。
「南の海沿いにある霊峰に古龍様はおられる。」
「そ、そうか!」
これはマズいな。このまま南に向かって海沿いの山って、多分うちの領内にある霊山のことだな。
あそこに古龍がいたのか。確かに、大森林含めて魔境とも呼ばれているが。急いで≪解呪≫しないと領内に被害が出る。
約4時間飛び続け、霊山が見えてきたと思ったら、あっという間に霊山の領域に入る。
若干飛ぶ速度を落としながら、まとわりついてきた火竜や風竜、亜竜に向け、
「我は風竜王、古龍様に謁見の為、急ぎ通る。」
と、威嚇を含め叫ぶと、一気に通り道を作るように避けた。
少し前から≪探知≫していたが、近づくとバカでかい魔力の圧力を感じてきた。
「降りるぞ。」
シルフィーが減速し、下降する。
下に、全長50m程の巨大な龍の姿が見えた。




