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20.伯爵

「ダンさん、4日ぶりくらいですか。なんか変なのに絡まれましたね。」

 ダン達がいる部屋に入って挨拶する。レティとギルド職員も後に続いて入ってくる。

「全くだ。‘なすりつけ’を反省もせず、こっちが横取りだと。」

 ダンが呆れたように言う。

「倒す寸前どころか、彼らが付けた傷なんかあった?って感じでしたしね。」

「[早く助けろ]って偉そうに言ってたしな。」

「やはり、≪結界≫の中から傍観してればよかったですね。」

 みんな苦笑いしている。


「ただ、ランクBの魔法石6個引き渡せって、そのくらいだったら抗議している時間があるなら、ダンジョン行った方が早いでしょうに。まあ、たかが6個といっても、冤罪吹っ掛けられて引き渡すのは気に入らないですが。」

 俺達なら、探す時間を合わせても30分もいらないからな。

「何がしたいんだろうな?面子の問題か?ただ、伯爵家の印象はむしろ悪化したな。」

 ダンも相手の考えが理解できないようだ。


「このまま無視して、ダンジョン攻略続けるってのはどうでしょう?」

と、ギルド職員に目を向けて聞いた。

「いえ、出来れば当人同士で話していただきたいのですが。」

 縋るような目で見てくる。

「‘なすりつけ’なんだから、彼らのギルド証は剥奪では?」

「客観的な証拠があるかと言われると、大抵当事者だけなので、実質剥奪までは難しいんですよ。」

 ギルド職員が首を横に振る。

「ギルドマスターが伯爵様に話をつけるというのは?」

 ダンが、名案だろうという感じで言う。

「今王都に行かれて留守です。」

 

 は~。多分、相手と対峙しても、向こうの主張を止めないなら堂々巡りだしな。

 正面突破するか。

「じゃあ、伯爵様に直接聞きますか?サブギルドマスターに紹介状書いてもらえば会えるんじゃないですか。」

「いいんですか?下手をするとただでは済まないかもしれませんよ。」

と、一応ギルド職員も心配してくれる。


「高名な元冒険者の伯爵様の方が話が分かるかもな。」

 ダンもその気になっている。

 ギルドとしても穏便におさめたいだろうから、ギルド職員をつついて、紹介状を用意してもらった。


 まだ夕方までには時間があるので、ダンと俺の2人で向かおうとすると、サブギルドマスターも一緒に行くと言う。有能な文官といった感じで荒事は苦手そうに見える40過ぎくらいの男だ。

 ダンの仲間とレティには、ここで留守番してもらう。



 結論から言うと、面会できることになった。

 流石に実家の領都の城ほどではないが、広大な敷地に建つ屋敷内へ案内された。

 目の前の40歳手前くらいの渋い男性がアンドレイ・ダンドリー伯爵だ。


「さて、冒険者と聞いているが、今日はどんな用件かね?」

「はい、貴重なお時間を頂きましてありがとうございます。隣がランクB冒険者のダン、私がランクCの冒険者ロバートと申します。本日は、こちらの騎士様からギルドに寄せられた抗議の件で、ご説明に参りました。」

「ん、抗議だと?」

 伯爵が不思議そうに首を捻るが構わず、抗議の内容、実際にダンジョンで起こった事を順序だてて正確に説明していった。流石に失禁の件は伝えないが。だんだんと伯爵の顔色が赤くなっていくのは見えなかったことにした。


「誰かっ。カレンをここに。」

 伯爵がお嬢様を呼ぶ。


「お呼びでしょうか、お父様。」

 今日は、いかにも貴族のお嬢様といった出で立ちで現れた。

「あ、貴方たちは・・・。」

 こちらに気が付き微笑む。あれ、何か嬉しそうだ。ダンにハゲとか言ってたキツイ感じは無い。

 こちらは敢えて声は出さず、頭を下げて挨拶をした。こちらの面会相手はあくまで伯爵であり、紹介を受けてない貴族にこちらから話すべきではない。


「既に知っていると思うが、娘のカレンだ。」

「改めまして、カレンです。」

「ダンです。」

「ロバートです。」

 簡単に挨拶を交わす。


「カレン、確認するが、彼らはダンジョンで、お前達の獲物を横取りしたのか?」

「いいえ、とんでもありません。恥ずかしながら、殺人熊相手に全くダメージを与えることができず、逃げたところを助けて頂きました。後々冷静になって考えれば、意図しなかったとしても結果として‘なすりつけ’をしてしまったと後悔しておりました。」

「そうか、それならお前は関与していないのだな。実は、フランクがな、・・・。」

と、経緯を説明する。そうか、抗議してきた騎士はフランクというのか。


「申し訳ございません。命の恩人である貴方たちに、一緒にダンジョンに行った当家の騎士が大変申し訳ないことを致しました。」

 カレンが、経緯を理解すると、俺たちに謝罪してきた。


「いえ、騎士様が何故そのような行動に出たのかは存じませんが、閣下とお嬢様の意図されることではなかったと知り安心しました。ご領主家とギルドの中立性との板挟みになるギルド職員が気の毒でしたから。」

「おお、そうだな。ギルドにも迷惑をかけた。謝罪しよう。」

「お心遣い感謝いたします。」

 伯爵の発言に、サブギルドマスターがお礼を言う。


「さて、フランクを呼んでくれ。」

 伯爵が声をかけると、予め確認していたのか執事が答える。

「今、屋敷にはいないようです。」

「む、そうか。すまんが今フランクは屋敷にいないようだ。直接謝罪させようと思ったのだが。」


 ダンに聞いてみる。

「要ります?」

「要らないなぁ。」

 即答か。


「閣下、我々には騎士様の謝罪は不要です。面と向かって言われた訳ではないので。」

「・・・そうか。それなら奴にはこちらできっちり言い含めておく。手間を取らせてすまなかったな」

と頭を下げる。


「い、いえ、こちらこそお時間頂きましてありがとうございました。」

 よし終わった。


「カレン、下がっていいぞ。」

「えっ、・・・。」

「ん、どうした?」

「い、いえ、それでは失礼いたします。ダン様はこの町にしばらくご逗留されるのですか?」

「もうしばらくこのダンジョンを攻略する予定だ、、です。」

「それでしたら、またダンジョンでお会いするかも知れませんね。それでは。」

と言って出ていった。

 

 マジか!あんなに罵倒してたのに、明らかにダンに好意を持ってる目だ。伯爵も察したのか目線が剣呑だ。


「さて、本来なら俺を倒してからと、言いたいところだが、お前達は相当強いな。殺人熊も瞬殺したそうだしな。攻略実績次第では考えても・・・。」

「????」

 ダンはよく分かってないな。俺がターゲットじゃなくてよかった。


 すると、ふと伯爵が思いついたように顔を上げて、俺を見た。 

「しかし、ロバートにはどこかで会ったことがあるような気がするんだが・・・。」

と、視線が右足に向く。なんか素性バレかけてる?

 父上と同じパーティーだったなら親しい付き合いがあってもおかしくないし、情報伝達も速いかもな。以前会ったことあるかな?とか考えていると、


「まあ、気のせいか。いずれにしろ、今日はご苦労だった。早めに来てくれて助かった。」

「いえいえ、それではこれで失礼致します。」

 やれやれ、これで一件落着となったな。


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