2.帰宅
この世界における一般的なレベルとは、目安として
レベル 主な該当クラス
1~10 ・・・一般人
10~ ・・・下級兵士、下級冒険者
20~ ・・・中級冒険者
25~ ・・・騎士、上級冒険者
35~ ・・・各国の騎士団長クラス
40~ ・・・S級冒険者
70~ ・・・大昔の伝説の勇者パーティー
と認識されている。(ただし、1対1でレベルの高い方が絶対勝つとまでは言えない)
(レベル522って、もう人を辞めているって感じだなぁ)
ライアンは、頭を整理している。
(これは、頭に流れ込んできた記憶の中にあった“チート”ってやつかな。)
封印解除時に流れ込んできた記憶は、夢物語か、はたまた前世といわれるものかはっきりしていないが、日本という国で労働者をしていた男のもののようだ。
清潔感があり、物が豊かに溢れているにもかかわらず、皆がひたすらせわしなく働いているという世界だった。魔法はないが、科学技術が発達しており、また、実現できていない空想の技術や魔法のようなものが登場する創作物がたくさんあった。
(まあ、この日本とやらの記憶があったところで特に不利益はないし、むしろ魔法をイメージするのにものすごく役立ちそうだ。)
ライアンは、レベルアップし過ぎたことで、魔法スキルが統合され、“全魔法(極)”となっていた。これは頭の中でイメージさえできれば、その通りの魔法が無詠唱で使える破格のスキルである。
(取得した数々のスキルについても、すんなり全て理解できているようだし、制御もできそうだ。日本の物語では、急激なレベルアップをすると制御が効かないというパターンもあったが、大丈夫そうだな。)
と、あれこれ考えている内に屋敷に到着したのだった。
「ポール。父上は帰られているかい?」
40歳を越えたばかりの執事のポールは、最近になく吹っ切れた感のある明るいライアンの様子に驚きつつも、馬車から降りるライアンに手を貸しながら答える。
「1時間ほど前にお帰りになられました。今は奥様と居間でお茶を飲まれていらっしゃいます。若様の怪我の件で、大層気を揉まれているご様子ですが。」
(時間や年月日、季節の概念が日本も同じということにはかなり驚いたけど)
「ああ、それはこれから自分で説明するよ。すぐに居間に行っても大丈夫かな?」
「問題ございません。私が先触れいたします。」
と言って、ポールが先に居間に向かうのを追いかけてライアンもゆっくり居間へ向かう。
扉を開けて居間に入ると、母のクリスティーナが抱きついてくる。
「ああ、ライアン、なんて・・・。」
と、涙声で言うが、それ以上言葉にならないようだ。
「教会に寄付して、蘇生魔法の使い手を呼ぼう。安心しろ、金に糸目はつけないから」
と父のエリックが言う。
蘇生魔法とは、欠損部位を再生したり、死亡後すぐであれば蘇生が可能な魔法であるが、その使い手が希少なことから教会に囲い込まれており、依頼するにもかなり高額な寄付が必要とされる。また、成功率そのものが低く、使い手の力量によって成功率がさらに下がるため、高額の寄付をためらうものが多い。(失敗しても寄付なので、お金は返ってこない!!)よって、過去蘇生魔法を使用されたケースは、王族か最上位の貴族くらいである。
「まあまあ、父上、母上、とりあえず落ち着きましょう。色々説明し、今後についても話したいこともありますので。ポール、お茶と、通信魔導具の準備をしてくれるかい?ロイにも一緒に話を聞いてもらったほうがいいと思うから。」
「何故そんなに落ち着いているんだ・・・。まあ、分かった。私達も落ち着こう。ポール、準備を頼む。」
「承知いたしました。」
通信魔導具とは、エドワーズ辺境伯領の領主直轄研究所で開発されたばかりの魔導具で、まだ領都の城と王都の屋敷間のやり取りにしか使用していない。それなりの魔力(高価な魔法石、もしく通信者の魔力)を使うのでまだ普及は出来ないと考え、通信に使いながらも省魔力化テストを重ねている状況である。
「クリスティーナも疲れているだろうし、魔法石はあるか?」
とのエリックの問いに対し、ライアンが応える。
「私が魔力を流しますよ。これも後でお話ししますが、魔力量が膨大なものになりましたので。」
「どういうこと?って・・・、何!この魔力っ!!」
クリスティーナが絶句している。
「ああ、“鑑定”で見られましたか。ロイを呼び出せたら順を追って説明しますよ。」
と言って、ライアンは魔導具に触れ、領都の城にいる弟のロイを呼び出した。