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16.王都4

引き続き第三者視点、途中から王女視点です。

 審問会終了後、宰相執務室にて、宰相と辺境伯が向かい合って座っている。


「あの2家がどう動くかお手並み拝見といったところだが、お前も思ったより手心を加えたな。」

と、エリックがお茶を飲みながら言う。

「私の裁量を超えていると思っただけだ。侯爵家に与する[歴史のある貴族]も多いからな。私が前面に立って当主を断罪するよりは国王に処置を投げた方が楽だろう。今出かけている外遊も半分は遊びなんだから、国王にも働いてもらおう。むしろ、卿の怒りの矛先がどこになるかが心配だ。審問会中は静かにしてくれていて助かった。」

 宰相も悪い笑顔で答える。昔からの付き合いで、エリックがこう見えてバランス感覚に優れていることを知っているので、矛先が自分でなければ、深刻には考えていない。


「お前がかなり早い段階で動いたから、まあ表向きの対応は、国王の裁定まで待っておこう。どうせ王女にやらかしたことへのフォローに手一杯で、うちに気を回す余裕はないだろうしな。しかしまあ、予想通りとはいえ、あいつ等は子供の教育すらできんのかね。って、みすみす襲われた息子を持つ身としては人のことは言えんか。」

と、自虐的に言う。


「それだが、あまり卿から滲み出るような怒りが感じられないのだが、平気なのか?」

 宰相が、不思議に感じていたことを問う。

 昔の苛烈な性格を知っている宰相としては、未だに攻撃的な対応に移っていないエリックの態度が解せなかった。


「息子自体が、元々貴族社会に嫌気がさしていて、本人がせいせいしているからな。だから、息子の分を俺が肩代わりして報復するつもりはない。ただ、謝罪目的であっても、今後息子を表舞台に出すつもりもない。既に貴族籍から外したしな。」

 実際、ライアンの新たな力で足は元通りであり、本人の気持ちも今言った通りなので、せいぜい今後の交渉ネタに使うぐらいだろうとエリックは考えている。足が元通りなことも、もはや王都にいないことも公表するつもりもないが。


「分かった。前にも言われたし、ライアン殿への干渉は、私の方でも極力抑えるよう努力する。」

「ああ。まあ、干渉されれば、実力で排除するがな。じゃあ、俺は屋敷に戻るか。」

と、部屋を出て行った。 

 それを見送りながら、側近を呼び、王女のもとへ伺う先触れを出した。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

---サンドラ王女視点---


 何故こんなことになってしまったのか。

 先日、宰相から話を聞かされたときから、数年来悩まされていた頭の中の違和感が消え去っていた。

 ライアンとの婚約が無理矢理だったということ。

 私のことを好きな訳ではなかったということに大きな衝撃を受けた。

 そして、違和感が無くなると、今までやってきたことを改めて思い、申し訳なさで泣き崩れた。


 10年前に出会ってから、ずっとライアンが好きだった。

 父にお願いすると、喜んで婚約を受けてくれたと教えてくれた。

 それ以来、ずっと一緒にいたし、私が我儘を言っても、少し困ったような笑顔を浮かべるものの、希望をかなえ、寄り添ってくれた。

 数年前から、ライアンにつらく当たるようになった。その時は、何故かそれが当たり前のように思っていたし、ライアンの為になるのだと思い込んでいた。

 右足を失う怪我をしたと聞いた時も、何をやっているのかと怒りを覚えたほどだ。

 そして、あんなに大勢の人がいる前で、罵倒して婚約破棄を告げてしまった。

 

 正気(?)に戻り、ライアンに直接謝りたいと出向こうとしたが、侍女と護衛騎士に妨げられた。

 宰相の命により、今は大人しくしていて欲しいと。

 ならばと思い、謝罪の手紙を出したが、辺境伯家からは突き返されたと遣いから報告があった。

 それほどまでに怒らせてしまったのだと思い知らされた。


 そして、先ほど宰相が報告に来た内容を聞いて、怒りで気を失ってしまった。


 ジョン・ランパードとジミー・ハリス、この上位貴族の子息2人が近づいてきてから私はおかしくなった。先ほどの報告では、ジョンが“暗示”スキルを使い、私の思考を誘導していたと。

 確かに、最初はライアンとの時間を邪魔する2人を疎ましく思っていたが、いつの間にか側にいるのが当たり前に感じていた。

 ジョンは度々言っていた、

「ライアンは、きつく叱責されるのが好きなのです。貴族男性にはそういう者も多いのです。」

「ライアンは、今日も、どこどこの令嬢と親しく話していました。」

「ライアンを諫めて正しい方向に導くのも婚約者たる王女の務めです。」

 今考えれば、歯牙にもかけない話だ。だが、当時の私にはすんなり入ってきた。


 そして、

「レベル0や足のけがをなじって婚約破棄すれば、泣きついてくるでしょう。」

「そうすれば、執事などで側においてやれば、感謝するでしょう。」

 こんなバカげた話を信じて行動するほど、私は洗脳状態だったのかと。


 ジョンへの怒りがぐるぐると頭の中で渦巻いているが、事は私個人だけの話ではない。

 父が帰るまで迂闊な行動をとるなと、宰相にも釘を刺された。

 ライアンには謝罪の手紙も届かない。

 しかも、既に貴族籍から外れたということは、貴族社会はおろか私とも一切関わりたくないとの意思表示と思え、焦りばかりが募る。


「一体どうすれば、いいの?まずは、一言だけでも謝りたい。」

 私は、同じような独り言を呟くしかできなかった。


結局のところ、王女は自分の“魅了(小)”スキルを自覚していません。

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