15.王都3
第三者視点となります。
ロバート達が〈草原のダンジョン〉に入っている頃、王都では、宰相ジョージ・テイラー侯爵が、暗部の調査結果を見ていた。
「はぁ、くだらん!」
(結局のところ、ガキのおふざけが過ぎただけか。エリックのほぼ予想通りだが、結果が大ごとになり過ぎてる。ある程度形式を整えて断罪せねばなるまい。今後のためにも、王女に非難を集めておくわけにもいかんしな。)
「誰かいるか?」
呼びかけに対し、側近が入ってくる。
「審問会の準備をせよ。早急にな。」
「は、承知いたしました。」
2日後、審問会が緊急開催された。審問会とは、上位貴族及びその家族に何らかの嫌疑がかけられた場合に、衛兵や騎士団での取り調べに代わって行われるもので、開催者は、王もしくは宰相となる。
今回召集されたのは、
・ランパード侯爵、及びその次男ジョン
・ハリス伯爵、及びその三男ジミー
・エドワーズ辺境伯
・王宮魔術師長
・王宮一級審問官
・宰相補 デニス・バーン伯爵
・王宮書記官3名
であった。
一級審問官とは、審問会での発言が嘘か本当かを正確に判断できるスキルを持ち、本人も嘘をつくことが出来ない為、その判定は絶対とされる。
「それでは、審問会を開催する。」
と、宰相の開催宣言が部屋に響く。上位貴族と言えども、審問会では勝手な発言は許されない為、誰も発言はしない。
「今回の審問会の目的は、エドワーズ辺境伯子息ライアン氏襲撃事件について、賊に指示を出したものの特定である。加えて王女殿下に不名誉な噂が貴族社会で広がっているため、その払拭も含まれる。」
ランパード侯爵が手を挙げて発言許可を求める。
「審問会の主旨は理解いたしましたが、当家がここに呼ばれた理由がわかりませぬな。酔狂では済まされませんぞ。」
表面上は丁寧だが、怒りを滲ませている。横で、ハリス伯爵も賛同するように頷いている。
「それをこれから説明するのですがね。襲撃の実行犯を捕縛し、厳しい取り調べを行ったところ、そちらのジョン殿とジミー殿に金で襲撃を依頼されたと白状したのですよ。その件をまずは糺したい。」
名指しされたジョンとジミーは、真っ青な顔をして震えている。彼らは、ここ数日、依頼した賊を始末すべく探したが、全く足取りが掴めていなかった。そこに審問会への召喚があり、自分たちの行く末を想像し、恐怖していた。
一方、父親であるランパード侯爵とハリス伯爵は、まさかと絶句して息子の様子を見つめていた。
「では、ジョン殿、貴方が、エドワーズ辺境伯子息ライアン氏への襲撃を依頼したのですね?はい、か、いいえでお答えください。」
「い、いいえっ。」
「嘘です。」
すかさず審問官に判定される。
「父上は襲撃することをご存じでしたか?」
ランパード侯爵が目を見開く。
「いいえ。」
「本当です。」
と、審問官の判定。
「第三王女殿下は襲撃に関与されてますか?」
「いいえ。」
「本当です。」
「では、ジミー殿、貴方もその共犯ですね?はい、か、いいえで。」
「いいえ。」
「嘘です。」
こちらも、審問官に嘘と判定された。
「父上はご存じでしたか?」
「いいえ。」
「本当です。」
と、審問官の判定。
「第三王女殿下は襲撃に関与されてますか?」
「いいえ。」
「本当です。」
「ここまでの質問で、ライアン氏への襲撃は、ジョン殿とジミー殿の依頼によるもの。しかし、侯爵、伯爵、第三王女殿下の関与は無いとの結論を得ました。王女殿下に関して確認したのは、殿下が黒幕ではないかとの看過できない噂があったからです。」
と、宰相が説明する。
ランパード侯爵とハリス伯爵は、がっくりと俯いているが、まだ辺境伯家と話をつけれさえすれば何とか軽症で済ませられると頭の中で計算を巡らせている。
「続きまして、もう一つ確認すべきことがあります。ジョン殿、貴方は他人の精神を操作する系統のスキルを持っていますね?はい、か、いいえで。」
「いいえ。」
「嘘です。」
「では、ジミー殿、貴方も他人の精神を操作する系統のスキルを持っていますね?」
「いいえ。」
「本当です。」
「では、ジョン殿がそのようなスキルを持っていることは知っていましたか?」
「いいえ。」
「嘘です。」
「さて、それでは魔術師長殿、スキルを明確にするため、ジョン殿への“詳細鑑定”をお願いする。」
ランパード侯爵が焦って止めようとする。
「それは、流石に許可できないぞ!!」
「審問会での許可は不要です。」
と、横から宰相補が答える。
「ぐっ!」
王宮魔術師長が“詳細鑑定”をした。
「該当するスキルは、“暗示”ですね。他者の精神に働きかけて、自分の都合のいい方向に誘導するものです。」
「本当です。」
鑑定結果を審問官が肯定する。
「さて、ジョン殿。第三王女殿下に、“暗示”スキルを使いましたね?」
「いいえ。」
「嘘です。」
それを聞いて、ランパード侯爵が絶望したような顔をした。王族に精神汚染を仕掛けたことは、貴族の子供を襲撃したこととは訳が違う。
「ジョン殿、“暗示”によって、ライアン氏に婚約破棄を告げさせましたか?」
「いいえ。」
「嘘です。」
「ジミー殿、ジョン殿が“暗示”を第三王女殿下に使ったことを知っていましたね?」
「いいえ。」
「嘘です。」
「では、結論を申し上げる。
ライアン氏への賊の襲撃は、ジョン殿とジミー殿が共謀した依頼によるもの。
ライアン氏への婚約破棄は、ジョン殿が王女殿下に“暗示”スキルを使用したことによるもの。
ジミー殿はそれを承知していたということ。
が明らかとなりました。
陛下がお戻りになられるまで、両氏は自宅にて軟禁し、当主の責任において監視されるものとします。最終的な裁定は、陛下のご沙汰を待つこととします。両家より異議がございますかな?」
「「ありません。」」
ランパード侯爵とハリス伯爵は、ここまで明確にされてしまえば、この場での反論などできなかった。息子はもはや貴族社会では死んだも同然。家に累が及ぶことを回避すべく、むしろ、国王への働きかけをどう行うかが重要と考えていた。
あまりにも稚拙な子供達のやらかしが判明し、審問会は終了した。
だが、宰相には、王女への報告という気の乗らない仕事がある。
「馬鹿なガキどものせいで、頭の痛いことだ。」