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106.処罰

「ところで、彼らの処遇はどうなりそうですか?」

 捕縛した者達の処遇は、身分が身分だけに、一代官の手に余るだろう。

「勿論、御領主様の判断を仰ぎます。昨日のうちに使いを出しているので、指示が来るまでは、拘置しておきます。」

「ニクラウスは?」

「彼は、ギルドへの遣いを命じられて、彼らから離れている間の出来事だったようです。」

 それは、ロバートが見ていた事実と合致する。


「『監視付きでの保釈か、せめて貴族に準じた部屋での軟禁を』と申し入れてきましたが、容疑者ではなく現行犯であるので、この領の法では出来ないとキッパリ拒否しました。」 

 当たり前だろう。いきなり平民に魔法をぶっ放す奴等を解放するわけがない。

「ニクラウス本人は、現行犯でもなく、関与の証明もできませんでしたので、事情聴取後、解放しております。」

 確かにロバートへの害意は無いことから、本当に知らなかったのだろう。


 その後は、近況など、当たり障りのない話をして食事を終え、代官屋敷を後にした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 エリックは、ヨークシャー子爵からの知らせを受けて、どうしたものかと溜息をついた。

 ロバートから予め連絡があったので、概要は伝わっていたが、隣国の貴族をどう扱うかお伺いを立てられれば、対策を考えなければならない。

「お前ならどうする?」

 対面に座るロイに子爵からの手紙を渡して尋ねる。


 ロイは、一通り目を通した後、

「1案としては、町に入った段階で申請などをしていないから貴族として扱う必要がない、若しくは貴族を騙る慮外者として法に従って処分する。勿論、その公爵家にも連絡なんかしない。

 2案目は、公爵家向けの抗議文を持たせて、国外追放という名目で、とっとと出て行ってもらう。但し、相手がそれに付け込んで、謝罪の名目でまた人を送り込んでくるかも。

 いや、結局1案目でも、帰ってこなければ追加で派遣するかぁ。うう~ん、悩ましいね。

 貴族家間、若しくは国同士の交渉にしたくなければ、知らんふりして1案目の方がいいかな。」


「ふむ。ただ、10人以上で一斉魔法攻撃だからなぁ、悪質な殺人未遂となれば、20〜30年の強制労働で使い潰すといったところだから、それだけの期間領内に留めると考えると正直面倒だな。」

「それなら、2案の抗議文に、『公爵家の関係者は、今後一切我が領内への立入りを禁ずる』と、通告するっていうのは?『来たら問答無用で処分する』と添えて。」


「今回はこれで済ませてやるが次は無い、と警告するということか・・・、よしっ、それでいくか。厳密に法に拠って処罰すべきだが、抱え込む方が害が大きそうだ。幸い目撃者もいないということだし例外として扱うことにして、早速抗議文を作らせよう。」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 留置された騎士達は、焦燥感を漂わせている。いくら待っても貴族への扱いにならず、平民の罪人と同じ扱いを受けているからだ


 副団長ニクラウスの次に席次の高い騎士は、どうしてこうなった、と頭を抱えた。

 確かにニクラウスは、伯爵にこれ以上あの冒険者に手を出さない様に言っていた。しかし、その他の騎士達は、あの冒険者に何の脅威も感じていなかった。確かに、あの獣人の剣捌きは、近接戦闘では脅威かもしれない。だが、獣人ごときは、魔法を当てればそれで終わるだろうと楽観した。

 何より伯爵が怒り心頭であり、後ろに控えていた騎士達も同様に、あの冒険者の公爵家に何の敬意も示さない態度に怒りを覚えていた。


 結局、伯爵がニクラウスを誘導して冒険者ギルドに向かわせた後、見張らせていた者が機会が訪れたと駆け込んできた為、ニクラウスを除く全員であの冒険者の元へ向かった。

 当初は、脅して土下座謝罪でもさせてやろうという考えであったが、奇襲をかけやすい林を見た伯爵が、このまま魔法で焼き払ってしまえばいいと、言い出した。

 流石にそれはと、宥めようとしたが、

「汚らわしい獣人ごときが、我輩に剣を向けたのだ!死んで償わせてやるのだ!!」

と、ギルドでのやり取りを思い出し、怒りを再燃させてしまった。

 ハゲを作られたことに相当ご立腹のようだ。


 伯爵にそう命じられればやるしかないと、寧ろ命令だから仕方なかったという建前を用意してもらって、元々少なからず怒りを感じていた騎士達もその気になった。

 様子を伺うと、これから攻撃されることを予想すらしていないのか、楽し気に食事の準備をしている。風向きのせいか、香ばしい肉の焼けた匂いが漂ってくる。何故、他国まで来てこんな家族団欒を見せつけられているんだ、クソッ!


 そんなことを考えていると、伯爵から、攻撃の合図があり、一斉に≪火球≫を放つ。

 訓練以外で、人に向けてこれだけの魔法を一斉に放つ事は無い。あまりに過剰な攻撃だと思っていた。その瞬間までは。


 魔法が奴らに届く直前、砂浜から壁が一気にそそり立ち、魔法を全て防いでしまった。

 魔法か?だが、詠唱をする時間は無かったはずだ。何が起こったか皆理解できない顔をしていたが、更に怒りを滾らせた伯爵が、攻撃を指示した。


 だが、2回目も同様に砂の壁に防がれてしまった。その直後、

「ギャー!!!!!う、うでーーーーーーーーー!」

という叫びが聞こえたと同時に、全身に激しい痛みを感じ、騎士は意識を手放した。



 意識を取り戻した時、伯爵以外全員が、罪人を収監するような牢に入れられていた。

 周りの騎士達も少しずつ意識を取り戻す者が増えてきた。だが、皆全く状況が分かっていないようだ。


 しばらくすると、縄に繋がれた伯爵が向かいの牢に1人入れられた。よく見ると、両腕の肘から先が無くなっており、治療はされてはいるが、伯爵の顔は真っ青で呆然として言われるがままに牢に入った。

 そして、伯爵を連れてきた兵士が、こちらに向かい、

「お前達は、白昼堂々、領民に向かって致死性のある魔法で一斉攻撃を加えた。これは、我々領兵が、しかとこの目で見届けた現行犯であり、もはや個々に取り調べる必要は無い。裁きが確定するまでここで悔い改めているがいい。」

 

「な、なんだと!?我々は帝国公爵家の騎士だぞ!!こんな扱いをして後悔するぞ!」

 騎士の1人が抗議の声を上げるが、兵士は軽蔑したような目で、

「そうして地位と権力を振りかざして立場の弱いものを虐げてきた姿が目に浮かぶな。だから傲慢にも他国で人を殺そうとすることに羞恥心も無いのだろ。」

 その言葉を聞き、数人の騎士が息を呑む音が聞こえた。

 自分達の傲慢さを突きつけられたからだろう。

 公爵閣下はこんなことは命じておられない。自分達の行いが詳らかにされれば、罰を受けるのは間違いなく我々だ。

 そんな事にも気が付かなかった、ということにようやく思い至ったが、既に遅かった。

辺境伯が独断で国外追放できるのか?との疑問があるかと思いますが、国境を守る辺境伯が領外から他国の人間を追放して国内側の他の領地に追い出すことはあり得ないので、実質国外追放となるとご理解頂ければ。

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