100.ギルド呼び出し
起床したロバートは、ややぐったりとしながらも、色香のあるレティの寝顔を眺めながら、就寝前に届いたダンからの式神の情報に対してどうしたものかと考えていた。
『貴族らしき男が、騎士らしき冒険者風の男たちを引き連れ、ロバートを探している。
冒険者ギルドに向かうと思われるので、もし明日ギルドに寄るつもりなら注意しろ。
ただ、戦闘に関しての強さは大したことないだろう。』と。
わざわざ戦闘に関しては、と送ってきたことから、権力的な面で厄介事になる可能性があると示唆しているのだろう。
ただ、ロバートには心当たりが無い。領の外で目立つような活動はしばらくしていないし、辺境伯領の傘下貴族には、ライアンがロバートであるという情報は回っている。オークションの出品者名は信用に関わる為、厳密に管理されている筈だ。
となると、名指しでロバートを探す貴族とは・・・。
「旦那様?」
レティが、目を覚まし、シーツで胸元を隠しながら体を起こす。
ロバートは、変わらない愛らしさと、年々増してくる妖艶さに目を奪われながら、
「おはよう。」
と、軽くキスをする。
「んっ。おはようございます。旦那様。」
急にキスされ、いつもの事ではあるが、頬を染めて嬉しそうに挨拶する。が、ペシッと胸の膨らみに伸ばされようとしたロバートの手をはたき落とす。
「もうっ!ダメですよ、こんな朝から。」
「ゴメンゴメン。また今夜ね。」
と、よくある朝のじゃれあいをすませて、
「先ほどの考え事は、昨日の知らせのことですか?」
レティが、考え込んでいたロバートの表情を気にしたのか、尋ねてくる。
「ああ、こっちはその貴族に心当たりが無いし、≪探知≫でも面識が無いと区別しにくいし、こうも町に人が多いと面倒だね。まあ、明確な悪意があれば分かりやすいんだけど、ギルドに行く用事も無いから気にしないことにしよう。」
その時になって考えればいいと、着替をして子供達が起きるのを待って朝食をとった。
さて、いつもの訪問時のように皆で買い出しに出かけようとすると、昨日会ったギルド職員のコレットが宿にやってきて、いきなり目の前で頭を下げ、
「ロバートさん!申し訳ありませんが、ギルマスがお呼びですので、ギルドまで同行願えませんでしょうか?」
と、お願いしてきた。
「うん。断るよ。」
うわっ、来たかぁと思いつつ、考えるより先に言葉が出たロバート。
断られるとは思って無かったコレットは、先導しようとしたのか背を向けていたが、驚いて振り向く。
「な、何故ですか?」
「今回は、ただの買い出しでこの町に来ただけで、子供連れだし、冒険者として仕事をする気は無いんだ。昨日は、ダンさん達がいるから寄っただけだしね。それに・・・、この町のギルマスと絡むと碌な目に合わないという予感がするんだ。前回の例もあるし。しかも、今のギルマスは、逆恨みで私怨がありありじゃないか。無理難題言われた挙句、ギルド証剥奪とか言われそうだし。」
「そ、そんな!確かに今のギルマスもちょっとアレですけど・・・、私はどうしたらいいんですか?」
コレットが今にも泣き出しそうな表情で言う。
「会えなかった。でいいんじゃない。もう出発してて入れ違いになりましたって説明すれば。」
ロバートは、コレットを少しだけ気の毒に思ったが、そもそも昨日ロバートを巻き込むきっかけを作ったのはコレットなので、付き合ってやる義理はない。
「で、でもぉ・・・、どうしてもダメですか?」
それでも、わざとらしく目を潤ませて、上目づかいで訴えてくる。こうなると、周囲から見るとロバートが意地悪をしているように見えてしまうので始末が悪い。
「ふうっ、仕方ない。このままじゃ、こっちが悪者みたいだ。行くからとっとと案内して。」
「あ、ありがとうございます。どうぞこちらへ。」
さっきの涙はどこへいったのやら、コレットは、人の送迎に使うには失礼と言われかねない程質素な馬車を指し示すが、それを見たレティが目を剥く。
「旦那様は優しすぎます。あのような馬車で迎えを寄こす失礼な呼び出しに応じるなんて。私も一緒に参ります。これ以上の無礼に及べば、私の手でギルド中に地獄を見せてやります。」
昨日のギルマスとのやり取りも聞いている為、レティが静かに怒りを貯め、威圧が漏れており、コレットが真っ青になっている。
ロバートはそんな様子は気にせず、
「俺達は歩いて向かうよ。あの馬車に乗ったら逆に体を痛めそうだ。サラとセラもいいかい?」
「「問題ありません。私達も鍛えておりますので。」」
身内に確認後、歩いてギルドに向かった。
しばらく真っ青で震えていたコレットは、ロバート達の姿が小さくなった頃、ようやく正気に戻り、慌てて走って後を追った。
直ぐにギルドに着いたロバート一行は、冒険者ギルドの応接室にて、ギルマスのベリンダと向かい合って座っている。
最初は、ロバートだけ部屋に通そうとしていたが、案内する職員にレティがにこやかに威圧を掛け、有無を言わさず全員で応接室に入った。その為、ベリンダが不機嫌そうな顔をしているが、レティは気にせず、子供達を抱っこしているサラとセラも当然のようにソファに座らせた。
まったく・・・、お茶すらないのですか、と、レティには珍しく聞こえよがしに呟きながら、マジックバッグから水筒とコップを取り出し、自家製果物ジュースを注ぐ。子供達もサラもセラもお気に入りのジュースだ。だが勿論、ベリンダの分は無い。
サラとセラは、子供達にジュースを飲ませた後、自分達も喉を潤し、寛ぐ。
彼女達も、散々ロバート達の非常識面を見せられている為、中々肝が据わってきている。
子供達は、周りの様子に興味津々ながら、静かに行儀良くしている。
「で、呼び出した用件はなんです?また、ギルド証剥奪をチラつかせて何か強制依頼ですか?」
自分達だけ喉を潤した後、ロバートが尋ねる。
「そ、そんなことするわけないだろう!先代の件で、統括からしつこいほど釘を刺されている。ただ、他国の貴族から指名依頼を出したいと持ち掛けられただけだ。受けるも受けないもお前の判断次第だ。強制はできん。」
すでに、領都のギルド統括から教育的指導をされているらしく、思うところのあるロバート相手でもゴリ押しする気は無いらしい。
だが、他国の貴族とは・・・、やはり・・・?