に げ ら れ な い
やまの上に立つ、私の実家。
つい先日、たて壊しになった。
とうとう、なくなっちゃうのか。
みんな、いなくなっちゃったなあ。
ついこのまえ、立て替えたはずなのに。
けっきょく、誰もいなくなった。
たしか、あのあたりは、人気のない土地。
いずれは、駐車場になるんだろうな。
まあ、時の流れは仕方がないから。
かなしいけれど、受け入れるしかない。
らい年はもう誰も訪れない、あの場所。
あの人も、もう、追ってこないはず。
いつもわたしを追って来ていた文通相手。
にげることができなかった、私。
いまでも私、逃げ続けていたのに。
くやしいよ、逃げ切れなかった。
やまの上に立つ、貴方の家。
つい先日、取り壊しになった。
とうとう、手がかりがなくなった。
みんな、消してやったのに。
ついこのまえ、証拠隠滅したのに。
けっきょく、貴方だけが手に入らずに。
たしかに、人気のない土地だから助かったよ。
いずれは、見つかるかもしれない。
まあ、時の流れに身を任せよう。
かなしいな、貴方がいない事実。
らい年こそは、ぼくが抱きしめたい。
あなたがただ、愛おしい。
いつでも貴方を追って行くよ。
にげるなんて、許さない。
いまでも僕は、君のそばにいる。
くやしいかい? 僕の勝ちだ。
僕の、勝ち、なんだよ。