第十七話 独り言
プルルルルーーー
ピッーー
「もしもし、答真、今から大久保さん連れてお前ん家行くわ!」
「今から!?え?今から来んの!?」
インフルエンザ並みの高熱のなか、しかも誰も見ていないこの部屋だというのに僕は悪夢から目覚めたかの如き状態起こしをしてみせた。
「大久保さんが出来る限り急ぎたいって言ってるし、お前も早く治したいだろ?」
「そりゃそうだけど」
「だろ、じゃあすぐ行くから大人しく寝て待ってろよ!お客様だから、とか考えて掃除とかすんなよ!」
一瞬僕もそう思い立ち上がろうしたが思いの外、体が言うことを聞かない。とんだツンデレ膝だ。
「分かってr…」
隣は僕のRの発音も聞かずに電話を切った。
僕はRの発音に自信があるのに。ネイティブなのに。それはあいつも同じか。
隣は相当急いでるようだった。僕よりも僕の心配をしているらしい。隣は人のために懸命になれる。僕が出会った時もそうだった。僕らが二次元の住人であったなら隣は間違いなく主人公だろう。馬鹿で明るくて正直で、人のために動く。有名少年漫画誌なら間違いなく愛されることに違いない。
ともすれば僕はどうだ。突然呪いを受け、病に悩むところを主人公に救われる。
…これじゃまるでヒロインじゃないか。
隣、ごめんな。僕はヒロイン属性を持っていても、肝心な女の子属性を持ち合わせてはいないんだ。男の娘属性を手に入れる気にもならない。
そう心の中で謝ってみても隣から返事は来ない。来たら来たで怖いけど。
いやこのままでは駄目だぞ相間答真!風邪の時の特有のセンチメンタル現象が起きている。何が悲しくてあいつのヒロインに抜擢されなきゃならないんだ。ヒロインだってヒーローを選ぶ権利があるはずだ!僕は此処に選択権の自由を宣言する!
まぁそんな宣言をしたって仕方がないことは重々承知である。この偉大な宣言も僕のイマジナリーフレンドぐらいにしか届かないのだから。もっとも、今の僕にはそんな友達を妄想する気力すらない。
何を考えたって変わらないのだ。隣の言う通り大人しく寝ていようではないか。
今日も一日惰眠を謳歌する。それで結構惰眠万歳。