第十六話 藁
「勝手に入るぞー!」
電話の後少し横になっていると隣の声が聞こえた。
「おい、大丈夫かよ」
手にはビニール袋をぶら下げている。相変わらずの人気ぶりだ。
「ああ、ありがとう。それにしても隣はモテるなあ。またおばさんに何か貰ったのか?」
「違う!お前のために買ってきたんだ!」
そう言って隣が袋からスポーツドリンクと風邪薬を取り出した。
五秒前に隣の人気さを妬んだ僕を殴りたい。
「ありがとう、嬉しいよ。最後の晩餐にしても良いぐらいだ」
「何言ってんだよ。それより調子はどうなんだ?」
「良くないね。自分でもおかしいのは分かるけど呪いだと思う」
「そうか」
思ったより反感がない。
「嘘だと思わないのか?」
「嘘だとは思いたいけどな、噂に聞いた呪いの症状ってやつが今のお前とすげえ似てるんだ」
「なんだって!?」
「帰ってからも俺はなんともなかったからやっぱり噂は噂なんだとばかり思ってたよ」
「何か対処法は無いの?噂でも良いから」
「まさか本当に呪いがあるなんて思わなかったからな。対処法なんて聞いたこともない」
「そうか」
だからこそ隣は風邪薬を持って来てくれたのだろう。
「ただ…」
「ん?」
「ただ一つ当てがある」
「あるのか!」
「中学生の頃に大久保って奴がいたの覚えてるか?」
中学生の頃は隣ともあまり話さなかったから分からない。
「そいつの家が菖蒲寺っていう寺なんだよ。もしかしたらそいつの父ちゃんが解けるかもしれないなって」
なんてことだ。やはり隣は頼りになる。人脈の広さにおいて隣の右に出る者は他にいない。
「持つべきものは隣だよ。今は藁にもすがりたい。よろしく頼むよ」
「ああ、分かった。任せとけ!」