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第十二話 肝冷やし


肝試しにはまた来ればいい。


「仕方ない、帰ろう」


「おいおいおい、待ってくれよ!」


自転車に(またが)ろうとする僕を隣が止める。



「どうしたんだよこの自転車は二人乗りじゃないぞ」


「そうじゃなくて、折角来たんだから寄るだけ寄ってこうぜ」


「嫌だね」


「少しだけ少しだけで良いからさ。今度アイス奢るから、ね?」


「お前は何でそんな行きたがるんだよ。さっきまで怖いとかなんとか言っていたじゃあないか」


「下見だよ下見、もしかしたらまた花宮さんと来るかもしれないだろ?いざという時のために下準備をする。武士の心得さ」


「スケベの嗜みだな」


「なんとでも言えい!」


隣の頼みをアイスで引き受けるとは僕も安くなったものだ。しかし、ホテル藤川、噂には聞くがそれはあくまでも噂だけだ。実際に行ったことはない。どれ程のものなのだろうか。


夏の夕方はまだ明るく周りはまだ見える。



「よし、ここからは歩いて行こう」


隣がそう言った時はもう既に草木生い茂る山道だった。


僕らは獣道のようなギリギリ道と呼べる中を進む。藪に囲まれて歩いていく。今は夏だというのに虫が全く現れないのが不気味だった。


隣にもう帰ろうと言い出そうとした頃、小さなコテージが見えてきた。


「着いた。ここがホテル藤川だ」


僕は驚いた。ホテルと言うのだからもっとコンクリートで造られた建築物を想像していたが、実際には小さなコテージがちらほらと群をなしているものだった。


だが壁には不良が書いたと思われる落書きあったり瓦礫が散乱してたりしており、廃虚であることは予備知識なくとも理解できる。


そして気の所為かもしれない、だが、不思議なくらい此処は涼しかった。そう感じた時、腕を見ると鳥肌が立っていた。理論では説明し難い本能による注意勧告。そう感じた。



「隣もう十分だ、帰ろう」


何かあっては手遅れだ。いくら心霊という非科学的なものであれ、この勘を無視する気にはならなかった。


「そうだね、帰ろうか」


そう言って僕らは来た道を再び歩きだした。帰りには蚊もいてそこに不気味さは無くなっていた。復路でありスムーズに自転車を置いた所まで戻ることができた。


意外に何もなかったな。

まだ薄ら恐怖がある僕らは口には出さなくとも二人で共通の感想を抱いていたと思う。ナガシマスパーランドのスチールドラゴンに一緒に乗った時もそうだった。終わってみれば大したことはない。


「帰るまでが遠足って言うだろ?気を付けて帰ろうぜ」


隣の言う通りだ。最後まで油断は大敵である。


「分かってる。ここで交通事故でもしたら花宮さんに顔向けできないからな」


「言えてる」


僕らは笑いながら安心安全、細心の注意を払い帰路についた。


遠足とは違い肝試しは帰ってからが本番なのだと知る由もなく。


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