1日目-1
申込みをしてから1ヶ月後。
運営指定の日曜日20時にログインした。
テストプレイヤーの条件の一つに「指定日時にログインして内容の説明を受ける。」があった。
だだっ広い昼間の草原に転送された。
参加条件が無いに等しい事もあり説明開場は人で埋め尽くされている。
いつもの高身長マッチョな桜武のアバターで21時の説明開始を待っていた。
「おっ、桜武じゃん」
IO時代、サービス終了したら死ぬと言っていた猫姫さんがこちらを見つけて話しかけてきた。
IOで同じクランに所属していた昔はネカマをやっていたらしい。オッサンだ。
猫耳に尻尾、色は青で統一され、気分で語尾に「にゃ」を付ける。
課金に物をいわせた火力が凄く1個300円の範囲攻撃アイテムを0.3秒に1個使って敵プレイヤーを倒していた。通称豚姫結界。
オフで会った感じ気さくなオッサンだったが、会ってから俺に対して「お兄ちゃんと言ってごらん」だとか「フリフリの服も似合うんじゃないかにゃ」とゲーム内で言ってくるようになった。
俺は男だし、猫姫さんの弟ではない。
「猫姫さん生きていたんですか!」
「IOサービス終了で死んだのかと思ってました。」
「いやー、IOサービス終了の理由を知るまでは死ねないわ。」
「今勇姿を募ってIO運営会社を訴えているんだよね。」
「猫姫さんのIOに対する熱意はすごいですね。」
「私は1ヶ月で落ち着いてしまいましたよ。」
猫姫さんと近況を話していると21時の説明開始時間になった。
フィールドが突然夜になり、01と書かれたマスクを被った全裸マッチョが光りと共に現れた。
股間がハラスメント規制で眩い程輝いている。
「皆様お集まり頂きありがとうございます。」
「運営のゲームマスター01です。」
「気軽にイッチーと呼んでね!」
「今回のβテストに9,631名も参加頂きありがとうございます。」
「こんなに集まるとは思いませんでした。」
会場からどよめきが上がる。
テスター募集のクローズドβテストとしては異様な人数が集まっていた。
「まず、報酬についてです。」
「期間は90日ですがゲーム内では2倍の速度で時間が経過します。」
「ゲーム内時間で約半年間がテスト期間となります。」
「報酬はゲーム内滞在時間の半分でのお支払となります。」
「20日締め、翌月15日支払いで皆様に登録頂いた口座へ入金となります。」
「あー、今回の説明内容については後から確認も出来ますので大丈夫ですよー。」
申込みだけで詳細情報が一切なく、個人情報を取得目的の詐欺ではないかと掲示板が大荒れしていたがテストは実施され報酬も支払われるようだ。
「次にテストするゲームですが、他の一般的なフルダイブ型MMOより規制が緩く
痛覚に関するフィードバック軽減のみとなります。」
「プレイヤーは冒険者となり世界を旅します。」
「目的設定は特にありません。」
「現在ご利用のアバターはご利用頂けません。」
「運営作成のアバターがランダムで割り当てられます。」
「アバター名は割り当てられた見た目も考慮し再設定する事が可能です。」
(アバターがそのまま使えない!?)
周囲からも先ほどより大きいどよめきがあがる。
アバターに思い入れのあるプレイヤーは多い。
フルダイブ型MMOにおけるプレイヤーの課金額1位はアバターの見た目に関するものだ。
かく言う俺も低身長、筋肉が付きにくい体質のコンプレックスが解消されたアバターになっている。
仮想世界くらい理想の自分になりたいのだ。
「ログアウト時もアバターは残り続けるため、ログアウト状態が最も無防備となります。」
「ログアウト状態で死亡した場合もテスト終了となりますのでご注意下さい。」
「ゲーム内容が不快であればログインを止めて下さい。」
「緊急時はログアウトして下さい。」
「プレイヤーには専用インベントリーと武器1個が支給されます。」
「他に何があるかはご自身でお確かめ下さい。」
「説明は以上となります。」
(以上かよ!ほとんど何もわからないし!)
「食事と睡眠はして下さいね。」
「死にますので!」
「あっ!ゲームタイトルはノルニルオンライン(仮)です!」
「それでは転送いたします。」
運営はテストプレイヤーを置いてけぼりにし、一方的に話しただけで進行するのであった。