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{0}曖昧な磨りガラスの向こうに
阿倍カステラ、初の長編作品。
現時点での最高級カステラ。
お口に合えば、ミルクティーとご一緒に。
六頭の象が出走ゲートに並んでる。
競馬のように騎手は乗っていない。
その背中には力士の化粧まわしを思わせる上等なゼッケンが被せられ左右の横腹に垂れている。そこに「1」から「6」までの番号が記されている。
「騎手はどこにいるのだろうか」
僕はその競馬場にも似た「競象場」を見渡す。騎手を見つけることはできないが出走の時間は迫っているようだ。
砂埃だろうか。霧だろうか。出走ゲートに並ぶ六頭の象の前に白く仄暗く立ち込めている。磨りガラスを通して見ているように目の前の事象が曖昧になる。
僕は曖昧な磨りガラスを覗き込む。出走ゲートのバーが閉じられていないことに気づく。いや、閉じられていないのではない、開け放たれているのだ。ぼんやりとだがしっかりと見える。すでにレースは始まっているのだろうか。
「騎手は間に合うのか」僕は心が乱れてくる。騎手の不在に不安を抱いている。静かだ、ひどく静かだ。レースは始まっていないのか。出走ゲートは開け放たれているのに。