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1話「教室」

長らくお待たせ致しました。本日より投稿を再開いたします。

また、文章にて雑音(ノイズ)の表現のために文字を記号で代用して記している部分があります。基本的には平仮名、カタカナ、漢字、ローマ字の部分だけ読めば意味が分かるようにしています。

私は遂に、雑音飛び交う箱の片隅にある自分の席に着いた。入学式という私にとっての最初の試練を乗り越え、束の間の休息といったところだろうか。1時間程度ではあるが、新入生全員が同じ(広いとはいえ)体育館という閉鎖空間に集い、校長だの教務だのの嫌気がさすほど長ったらしい話を聞かされるのだから、私でなくても苦痛だろう。あれを真面目に聞いていられるのが、所謂意識高い系と呼ばれる人種なのだろうなと思う。当然私にとっては等しく「ノイズ」なので仮に真面目に話を聞いていても内容の3割も頭に入ってこないだろうが。


さて、そんなわけで入学式という忌々しいイベントが終わり、教室というこれまた閉鎖空間に来たわけだけど、これから私はノイズを「声」として認識していくための努力をしなければならない。いつまでもノイズとしか取れないのならば会話もままならないし、授業を受けるにおいても支障を来すことは明らかだ。ではどうするか、だが、やる事は至ってシンプル。ノイズに慣れる、それだけだ。要するにノイズを声と認識出来るまで聞き続ける。どのくらい聞き続ける必要があるかは私にも分からない。私もこの方法は一度しか実践していないのだ。というのもここ霞里高校は入学前に一度担任になるであろう教師と面談があるのだ。その時に教師にノイズの件を相談し、共に解決法を考えてもらい、結果この方法に行き着いたというわけだ。つまり教師とは既に会話を重ね、声として認識が出来るまでには至っている。教師はとても優しい人だった。1年生が受ける教科の担当教師全員に私のことを事前に伝えておくと約束してくれている。これは精神面でとても楽になるのでありがたい。何故かというと、この方法はある程度精神面に干渉する部分があることも分かっているからだ。自分のことを理解してくれる人の声はノイズから声と認識出来るまでが短くて済むのだ。当然逆も然り。なので私のことを予め知っていてくれているのは凄くありがたいことなのである。


よって授業を受ける上での問題点は実はそこまで難点ではない。問題は生徒間だ。同じクラスにしろ、上級生にしろ私のことなんて知ったこっちゃないといった人間ばかりだ。なので私のことを理解し、接してくれる関係を早急に作っておきたい。

まずは同じクラスの人間からだ。幸い私の席は教室の後ろの隅だ。クラスの人と良い関係を築きたいのなら目立つ席の方が良いかと思うかもしれないが、一度に多人数を相手にノイズを慣らすのは辛い、というか不可能だろう。一人ずつ、徐々に慣らしていきたい。そして一人ずつにするもう一つの理由がある。それは誰か一人と親密な関係を築けてしまえば、その一人を伝って私のことを予め理解してもらった上で新たな関係を築くことができる。逆に言えば、最初の一人との関係がうまくいかなければ、私の学校生活に一気に暗雲が立ち込めることとなる。「頼むから私の前の席の人、フレンドリーな人でいて!」と心の中で手を合わせていた時、ちょうど前の席の女子が私に話しかけて来た。

「こ#れか*らよろ$しくネ!藤※サん!」

必要以上に明るく元気なノイズで挨拶をされた。耳が痛いが、辛うじて聞き取れたため、私は「よ、よろしく…」と若干引き気味ながら挨拶を返した。

「おっト、私ノ名※だヨね。わたジは雛瀬穂波!」

こちらから名前を聞く前に彼女は笑顔で名乗ってくれた。しかも名前もはっきりと聞き取れた。恐らく私に本気で興味を持って話しかけてくれている証拠だろう。しかし雛瀬さんは何故私の名前を知っているのだろうか。その疑問はすぐに解けた。

「私ネ、クlaス全員と友ダヂにな#りたく/てネ、さっキ前か_らク()スを見渡シテ座席表と€全°員の顔#を照らシ合わセ'テ"、もウ覚えちゃ&&ったんダ!」

「全員…!?」

思わず立ち上がって声を荒げてしまった。クラス中の視線が私に向く。恥ずかしながらコホンと咳込み席に着く。「あはハ、面白いネ!」と雛瀬さんが微笑みながら言った言葉が胸に刺さる。うぅ、しくじった。

それはさておき、クラス全員が席についてまだ10分も経っていないというのに、彼女、雛瀬穂波さんはもう全員の顔と名前を覚えたという。恐ろしいほどの記憶力だ。だが、クラスメイト全員とそれなりにコミュニケーションを取るつもりであろう彼女なら、私の思惑通りに事を進めてくれるだろう、そう確信できた。その為にはまず、雛瀬さんに私のことを知ってもらう必要がある。よし、今のうちに話しておこーーー

…待った。彼女はクラスメイト全員と友達になりたいと言っていた。つまり彼女に対しての私のイメージはクラスメイト全員に共有される可能性が非常に高い。それは私の計画を進める上で非常に有利なことなのだが、同時に多大なる危険性も秘めている。私の第一印象が悪ければ、その駄目なイメージをクラス中に広めてしまうことになる。そうなれば私の高校生活はお先真っ暗だ。どうすべきかと頭を抱えていると、雛瀬さんの方から声をかけてきてくれた。

「ダ%い/丈##ブ?ず##&ツ^|ウ?」

うっ、ノイズが酷くなっている。どうやら頭を抱えていたのを頭痛だと勘違いされたらしい。辛うじて聞き取れたので、「大丈夫です」とか細い返事を返した。

そうだ、ここで怯んでどうする。私は誓ったんだ、どんな困難にも立ち向かうと。だったらここで意地を見せなければ。前を向いてしまった雛瀬さんに私は勇気を振り絞り「あ、あの。雛瀬さん、一つ聞いて欲しい話が…」と声をかけたその時、教室前方の扉がガラガラと開いた。

「はーい、入学式お疲レ様。今から最初のホームルームを始めルぞー」

担任の教師、私が初めてノイズを克服した人が教室に入ってきたのだ、なんというバッドタイミング。そのせいか軽くノイズ混じりに声が聞こえた。

「マた後で聞くね」

雛瀬さんは軽く笑顔を見せ、前に立つ担任の方を向いてしまった。しかしその声は今までで一番ノイズが少なく、鮮明に聞こえた。

私はいつのまにか力んでいた全身から力が抜け、はぁ、と一つため息を吐いた。


これから隔週月曜日更新をしていきますので引き続きよろしくお願い致します。

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