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「お姉ちゃん!人がたくさんいる!」

 ステアも驚いて外を見つめると、大きな光に照らされた、何人もの人がこちらを見ているのが伺えた。

「っ、姉様、メルガ!逃げましょう。とにかく捕まるのだけは避けないと!」

 ティーフィーとメルガが頷くと、ステアは2人の手を取って元来た方向と逆の方向に向かって走りだした。

「ねぇステア、これじゃあ出られないんじゃない?」

「仕方ありません。もう裏口は使えないでしょうから!」

 ステアは一瞬振り返って、武器庫から飛び出して来たカミルに向かって叫んだ。

「カ…か、鍛冶屋さん!早く来てください!」

 先を走っていたティーフィーは不思議そうに目を見開き、メルガは可笑しそうに目を細めて笑った。

 部屋に入る前は持っていなかった鞄を抱えたカミルは、何かを思い出した様にステアをじっと見つめたあと、ほんの少し笑みを浮かべた。

「早く!」

 ステアがもう一度そう叫ぶと、カミルも扉を勢いよく閉めて同じ方向へ走りだした。


 その頃、城の外では。

「誰でしょう?なびく髪が見えたので女性もいたかと思いますが。」

 道の先を照らしていた光源を持ち上げて先程ティーフィー達が走り去っていった廊下を照らすと、その従者は背後に語りかけた。

「気にするな。未だに値の付くものもそう無いだろう。」

 最後に走りだした人影を見送りながら、現ムライソン皇帝エルセオは、何を気にする様子もなくそう言った。

「そうですか…。」

 従者は再び道を照らすと、他の付きの者と一緒に正門へと進みだした。


「……カミルか。」

 エルセオは一瞬だけ振り返るとそう呟いた。

「どうかしましたか?」

「いや…何もない」


 ……

「ここは?」

 同じ光景が続く長い廊下を抜けると、ほんの少し広い空間が広がっていた。

 抜けて来た廊下から続いて、ほとんど全部の壁にステンドグラスが使われているが、影になっているのか光は全く入ってきていない。そして先程通った廊下以外に抜ける道は見当たらなかった。

「行き止まりですか?これは…」

 ステアが辺りを見回しながら不思議そうに呟くと、メルガも出口を探す様にきょろきょろと首を動かした。

「これで終わりなわけないだろ?抜け道は…こっちにあるんだよ。」

 カミルが立ち止まった前のガラスを横に引くと、窓の様にすんなりと人が通れる程の隙間が開いた。

 だが、その向こうは、暗闇に包まれて先を見通すことはできない。

「本当によく知ってますね。」

 カミルに続いて窓枠を潜り抜けながら何の気なしにステアがそう言うと、カミルは、何故だかとても嬉しそうに、「ああ!」と返した。


 ティーフィーとメルガもそれに続き、建物に遮られて月明かりも入ってこない中庭を早足で駆け抜けると、丁度城壁が途切れた植え込みの前に出くわした。

 カミルは、端の植物を無理やり傾けると、ステアに片手を差し出した。

「ほら、出ようぜ?」

「はい…?」

 ステアは反射的にその手を掴むと全く力の入っていない曖昧な答えを返した。

「何してるの?ステア。」

 ステアが面食らって立ち止まっていると、ティーフィーがそっと背中を押してクスッと笑った。

「??」

 ステアは言われるがままに、カミルに手を引かれて城壁の外に足を踏み出した。


「お姉ちゃん!どれくらい時間たった?」

 メルガの声にティーフィーは我に帰ると空を見上げた。

「そんなに経ってないと思うんだけど…。」

 メルガは険しい顔で夜空を見つめる姉の様子をうかがった。

「お姉ちゃん。」

「大丈夫だ。思ったより時間食ったが、十分間に合うだろ。…武器もちゃんと手に入れたしな。」

 カミルは懐から懐中時計を取り出してメルガの目の前にかざすと、自慢気に胸を叩いた。

「ここ、一体どれだけ入ってるんですか…」

「ちょ、手入れんじゃねぇよ!」

 ステアがカミルの懐に手を入れるとカミルは慌てて飛び退いた。

 その瞬間、カラカラと金属音が響いて、カミルとステアの間に3本のナイフが転がった。

「!?」

 メルガが驚いてティーフィーの背中に隠れると、ステアは手を伸ばしてやけに持ち手を飾られたナイフを手に取った。

「あ、おい!」

「武器とはこれのことですか。」

 ステアは、月明かりに強く反射する刃の表面を指でなぞると、カミルにそう問いかけた。

「あぁそうだよ。んで…危ないから渡せ。」

 カミルは右手を差し出すが、ステアは応じようとせずに、今度はよく研がれた刃の先に指を滑らせた。途端に、刃はステアの人差し指に傷を作った。

「やめろって!」

「あ…」

 カミルが限界とばかりにナイフを取り上げるとステアは顔色一つ変えずに反射光を目で追った。

「ったく…」

 カミルは、懐から包帯を取り出すと歯で噛み千切ってステアの指に巻いた。

「ありがとうございます。」

 ステアは軽く俯いてそう言った。そしてその表情は幸せそうにもとれた。

 カミルはナイフをきちんと懐にしまい直すと、3人に手招きして言った。

「行くぞ。このまま行けば予定通りだ。だか、急げ!時間があるかは定かじゃねぇ…」

「はい!」

「そうね、できるだけ急ぎましょう。」

 ティーフィーはメルガの手を取り、カミルとステアの後に続いて走り出した。


読んでいただきありがとうございます

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