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ーーーある時のステアとアルスの会話ーー
『お兄様、ムライソンの王様には会ったのですか?』
『ステア。ムライソンは王様じゃない。皇帝って言うんだ。』
『あぁ、そうでしたね。』
『皇帝陛下には、もちろんお会いしたよ。恥ずかしながら、相談ばっかりしてたかなぁ。とても優しい人で、お世話になってばっかりだった。あ、でもさ、一回、皇子様の相手を頼まれたんだ。その時は俺が12歳で、皇子様は5歳だったんだけど、乱暴過ぎて正直お手上げだったかな…。あ、これ!絶対誰にも言うなよ!』
『…言いませんよ。』
『でもさ、皇帝陛下はすごく感謝してくれて、あぁ、良いことしたなぁ〜って感じがして嬉しかったんだ。その皇子様、カミル様って言うんだけどー、俺はこっそり"かじる様"って、呼んでた。』
『はぁ…?』
『いやだってさー、何でもかんでも歯型付けちゃって、俺なんか服2着くらい"かじる様"にかじられてダメにしたんだぜ?』
『はぁ、、まあ、元気な子だったことはよくわかりましたけど。』
『だろ?今はどうだろうな…ティーフィーの一つ年下だから、今頃は立派な皇子様になってる、、と良いよな!』
『その話からは全く想像できませんけどね。』
『…できなくて良いんだ。』
『え?何でですか?』
『あいつは大物になるって感じがしたからな、想像を絶する凄い人になって、驚かせてくれるさ!』
『そうですかー』
『なあステア、そのうちムライソンに行ったら皇帝に色々聞いてきてくれよ。俺のことも話しておいてくれ。まぁ、忘れてるかもだけどな。』
『私がですか?』
『行きたくないのか?メルガはかなり行きたがってたけどなー、ムライソン。』
『そうですか…まあ、近いうちに行くことになりそうですね。』
………
カミル、、様?
ステアは今しがた思い出した事実に思わず足を止めた。
「どうしたの?ステア。」
二、三歩先を進んだティーフィーが振り向くとステアはなんでもない、といった風に首を振った。
「すみません、少し考え事を。。」
「急ごうぜ。少しでも早い方が良いんだろ?」
先頭を歩いていたカミルが振り返り、少し見えてきた宮殿を指差してそう言った。
ステアは頷こうとして気がついた。
「あの、なんで宮殿へ向かうのか聞いていませんよね?」
カミルははっとして一度宮殿へ目を移し、もう一度ステアの目を見てニヤッと笑った。
「武器を調達する。」
………
「……大丈夫なんですか?」
ステアが声を押し殺してそう聞くと、カミルは、表情を一切動かさずに頷いた。
辺りはすっかり闇に覆われて、夜空には無数の星が輝いている。
「ぅわあ…綺麗…」
メルガは堪えられずに呟いた。そして、その肩を支えたティーフィーもまた、その光景に目を輝かせていた。
4人は宮殿の裏口前の城壁を背に、しばらく夜空を見つめていた。宮殿の周りには大きな建物もなく、低く広がった平野から、大きな空を臨むことができる。
「帰ろ帰ろ…。」
「見張りなんてやる事ないぜ〜。」
「!」
ティーフィーは不意に背後で響いた声に反応して肩を揺らした。
「カミっ…」「分かってる。」
カミルは素早くティーフィーの口を塞ぐと、自分の口に人差し指を当てて軽く頷く。
ティーフィーが振り返るとステアとメルガも強張った顔で同じように頷いた。
ギギッと音を鳴らして、城壁の一部が開かれ、門番をやっていた兵士達が出てくる。
「裏口だせ?こんな忘れられた場所よっぽどおかしい奴しか来ねぇよー…。」
「ホントそうだよな!ま、でも給料良いよな。」
「ソレな!」
ティーフィー達は城壁ぎりぎりまで背を寄せて、息を殺して、その様子を見つめた。
「「「「……」」」」
やがて、兵士達が城壁の一部を開けたまま、ティーフィー達のいる方と逆の方向に消えて行くと、カミルは行動を開始した。
「…行くぞ。」
「ええ、…本当に誰もいないかしら?」
進みだしたカミルの手を掴み、最後の確認とばかりにティーフィーが尋ねると、カミルは少し早口になってこう答えた。
「いない。ただ、もう少ししたら交代の兵士が来る。…それまでに戻って来ねーと!」
「…わかったわ。」
ティーフィーが頷いてその手を離すと、今度こそカミルは城壁を潜り抜けて裏口から中に入って行った。それに、ティーフィー、ステア、メルガも続く。
宮殿の中、と言っても裏口近くの物置部屋が並ぶ、暗い空間が続いていた。ただ、廊下にはめられたステンドグラスから漏れ出る月の光が淡く室内を照らしていた。
4人はその中を足音を立てないように注意しながら早足で進んだ。
カミルは不意に立ち止まると、懐からマッチを取り出して擦った。
瞬間、その周りが明るく浮かび上がる。
「マッチ…?」
「……しょうがねぇだろ?照らせるもんこれくらいしか持ってねーんだから。」
カミルは隣を覗き込んだメルガに視線を移すと、押し殺した声で文句を言った。
カミルの手元は、歩きだしながら次々に部屋の扉を照らしていく。
「ここだ。」
カミルが立ち止まると、照らし出された扉には、【宝物庫】のプレートが掛かっていた。
「こんなあからさまなものでいいの?」
ティーフィーが疑うようにカミルを見ると、カミルは得意げに微笑んだ。
「宝物庫って書いてあんのが武器庫なんだよ。あからさまな訳ねぇだろ?」
「…よく知ってるのね。」
「あぁ、、まぁな。」
カミルは今度は懐から鍵を取り出して扉の鍵穴に差し込んだ。
そんなカミルを、ステアはなにか疑う様な目でじっと見つめていた。
「その鍵はどこから手に入れたのですか?」
「昔盗んで合鍵を…って、違くて、さっき拾ったんだよ。…さっきな。」
ステアの問いにカミルは言いかけた答えを飲み込んで苦笑いを浮かべた。
ちなみに、この鍵は、カミルが昔あんまり持ち出すもんだから、物置部屋の管理をしていた者があげた合鍵だったりする。
カミルは、鍵を回しながら背後に立つステアを盗み見た。
…あいつ、なんか知ってんじゃねぇだろうな、?
ガチャ、という音と共に、部屋の扉が開かれる。
「…開いたぞ。お前ら、ここで待っとけ。」
「えっ…な、」「ここはカミルさんに任せましょう。その方がきっと早いです。」
ティーフィーは何かを言おうと口を開くが、ステアに遮られやむなく頷いた。
カミルはそんなティーフィーを見て、さらに強くステアを見つめた後、武器庫の中に急ぎ足で入って扉を閉めた。
微かな金属音を聞きながら、ティーフィー達3人は、廊下に立っていた。僅かな月明かりに照らされて、廊下には3人の影が浮かび上がっている。
ティーフィーがその影を見つめていると、突然の強い光に影が濃く重なった。
「この明かりっ、、」
ティーフィーが振り向くと、窓から外を見つめていたメルガが大きな声を上げた。
「お姉ちゃん!人がたくさんいる!」
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