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「…それで、リサリーちゃん。事情は分かったわ。でも、どうしたいの?誘拐の件だったら国にも話した方が良いんじゃ…」
「ダメです!」
ティーフィーの言葉にリサリーは強く反論した。
「怖いんです…貴族だから、貴族だから狙われるんですか?私もう、色々怖くなっちゃって、何も考えて無さそうな一庶民なら、分かって、くれるかなって…」
「「「「庶民…」」」」
4人が罪悪感からそう呟くと、リサリーは慌てて手を振った。
「あ!ごめんなさいっ!全然、全然悪い意味じゃ…なくて!」
「いや、良いのよ。全然。」
ティーフィーはそう言って作り笑いを浮かべた。
…私、庶民じゃないわ。
その様子にステアも引きつった笑みを崩して頬を抑えた。
…庶民とは言えませんね。
ステアがメルガを見つめると、メルガもその考えが分かったように頷いた。
メルガがステアを見上げると、その拍子に、下を向いていたカミルと目が合った。
「…あははー。なんかモヤモヤする。」
メルガが何となくそんな事を呟き、「なんでもないよ」と否定する前に、ステアの背後でカミルが「ああ。」と同意を述べた。
"えっ?"
メルガとステアは思わず顔を見合わせた。
「しかしまぁ、サージ島に監禁、からの殺しか…。よくやるね、何処の連中か知らんけど。」
カミルはため息混じりにそう言って空を見上げた。
ムライソンに着いたのが昼頃だったから、もう大分空が夕焼けに染まってきている。
「そんな呑気なこと言ってる場合じゃないのよ。助けるって言ったって、どうすれば…」
ティーフィーは買ったばかりの"ムライソン特産:カームの搾りたて果汁"を飲みながら眉を歪ませた。
「そうですよね…」
「あ、あのさ、美味しいね!」
ステアも頷くと、メルガは場を和ませようと大袈裟ににこっと笑いかけた。
「…はぁ?んなの決まってんだろ。殴り込む。」
カミルはメルガを押し退けると、当然とばかりにそう言って、握った拳をぐっと顔に近づけてみせた。
「無理よ。サージ島はムライソンの所有地じゃないもの。船も出てない。かと言って、自船で行ったら絶対に帰れなくなるわ。」
だがティーフィーの言葉には、さすがのカミルも黙るしかなかった。
サージ島。島国ムライソンとハクア大陸に挟まれた大きな海洋の中央に位置する孤島。発見されたのは極最近で、ムライソンの船が発見したことからムライソンの国土とされていたがーサージ島と言う名前はその頃つけられたー、長い間無人だった為にその権利を無効とされ、現在は遠すぎるという理由から誰も寄り付かず、たった一つ独立した島となっていた。
ーそこに、悪党が住み着いていたとは…。
考えなかった訳ではないが、全く有り得そうな話である。
ティーフィー、ステア、カミルは、お互いの考えを察して同時にため息をついた。
「まぁまぁ3人とも。ため息ばかりじゃ幸せが逃げていくよ〜」
メルガの無理に明るい声にステアは顔を上げて呟いた。
「まずはその、逃げて行ったリサリーちゃんの幸せを連れ戻さなきゃいけませんね。」
「その通りね!…だけど、島に乗り込むには人手も戦力も足りないわ。」
ティーフィーが額に指をあてて考えるそぶりをすると、カミルがその手を掴んでニヤッと笑った。
「人手も戦力も申し分ねぇよ。武器があればな。」
「「「…?」」」
4人は、すっかり薄暗くなった道を歩いていた。
僅かに残った雲の隙間から微かに月が覗いている。
「確か…リサリーちゃんの言ってたタイムリミットは明日の昼頃よね…?」
ティーフィーが不安を隠しきれずにそう言うと、カミルは自信有り気に頷いた。
「大丈夫だ。間に合うぜ…夜明けまでにサージ島に行ければな。」
「夜明けまでに!?」
「なら、なぜ反対方向に?こっちは皇帝陛下の住む宮殿しかありませんよね?」
ティーフィーが驚きの声を上げると同時にステアは前を指し示して少々大きな声でそう問いかけた。
カミルは少し驚いた顔をしてから何かを必死で呟いていた。
「…で………ってるのさ…」
「え?何?」
「なんで!なんで…皇帝のこと、知ってるんだよ…」
突然に顔を上げたカミルは、高ぶった心を鎮めるように浅い呼吸を繰り返した。
「…知ってるよ。だって、昔からムライソンは皇帝国家じゃない。兄にも聞いたの。今の皇帝はいい人だって。」
ティーフィーは若干優しい声でそう言って、カミルの顔を覗き込んだ。
「そうですよね…。お兄様がお世話になったと言っていました。あ、あと、お姉様より一つ年下の皇子が居ると言っていた気がします。」
「そうだっけ。」
ステアが兄との会話を思い出しながらそう言うと、メルガも思い出そうと頭をひねった。
ーーあれは、確か。
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