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……
リサリー・アディンスは両親と街へ買い物に来ていた。ムライソンの観光で、記念すべき第1日目の活動であった。
「お母さん!お父さん!屋台があるわ、あれが庶民の食べ物なのね!」
派手に飾られたリボンで結った髪は、この辺で珍しい淡い桃色。煌びやかな金飾りで首元を飾られた裾の短いドレスは、その髪色とよく合う薄いレモン色だった。
「ええ、賑やかですごいわねリサリー。久し振りに街に出て見るのもいいわねぇ。」
「ああ…昔を思い出すよ。」
そう言ってリサリーに頷き返したのはリサリーの母親と父親だ。リサリーの父親は、その地元ではかなりの有力者で、出は庶民だがその実力を買われて、今では貴族の一員とまでなっている。
そんな家族が市の一角を曲がったとき。
にゅっと伸びて来た黒い手が、母親の両腕を掴んだ。
「きゃっ、、?」
「お母さん!?」
リサリーが驚いて振り向くと、今度は背後で父親のくぐもった叫び声が聞こえる。
「うわっ、、」
「お父さん!…なに、誰なの?何なのよ!」
突然視界から消えた両親を手繰り寄せるようりリサリーは両腕を伸ばしながら後ずさった。
「逃げなさいリサリーっ…--」
母の声が途切れる。と同時に、聞きなれない低い声がリサリーに覆いかかった。
『そうだな…逃げるといい…此奴等さえ居れば問題は無い…有力者ってのは狙われて大変だな…ハハッハハハッ…』
「い、嫌よ…そんなの…」
『残念だったなお嬢ちゃん…君のお父さんとお母さんはサージ島に連れて行かれて明日の今頃にはぽっくりだ…いやぁ…ホントに残念だ…てめぇも連れていけなくてよぉ…』
「い…い…いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
リサリーは力の限り走った。恐ろしい何かが居る。それだけで幼い少女には十分な逃げる理由だったのだ。
……
「わぁ〜…綺麗な街ー!」
メルガが両手を広げて市の方へ走って行くと、ティーフィーもステアも楽しそうにそれに続いた。
「そうね。エメラニアより賑わっているわ。」
「そうでしょうか?うちの国も休みになればこれくらいは…」
ステアはそう言いつつもその街並みに見惚れ、感嘆の声を上げている。
「おい…お前らエメラニアから来たのか?」
「はい、そうですけど。」
「ええ。」
カミルが疑わしそうにそう問うと、ティーフィーとステアはほぼ同時に答えた。
「はぁ!マジか。どんだけ海の上フラフラしてたんだよ…普通2時間もありゃ着くぜ…。」
「う、うるさいわね!良いのよ。着いたんだから。」
ティーフィーは不満げにそう返して先を進んでいたメルガの元に走って行った。
「そういえば…この後はどうするんですか?カミルさん、何となく一緒について来てるみたいですけど。」
ステアはずれ落ちそうになったカミルの顔の布をどかしてそう訊いた。
「あー…どうすっかな。まぁ、やる事ないしとりあえずお前らに付いてくわ。」
「はぁ。。。」
ステアは目をぱちくりさせてカミルを見つめた。
…何故この国に来たかったんでしょうか。
ステアは一つの疑問を抱えたまま歩き出した。
ホント、この国も随分庶民っぽくなったもんだ…。
俺が子供ん時なんか、古くせぇ格好した奴なんか一人も居なかったぜ…。
カミルは辺りを見回して何度目かのため息をついた。
「見て見て!魚がいる!」
「へぇー、本当ね。」
メルガはある骨董品の店の前にしゃがみこんで、水槽に入れられた魚に魅入っていた。
「この周辺でよく見る魚ですね。兄様に、主に食用…だと聞きました。」
「食べるの!?」
ステアも水槽を覗き込むと、兄に散々見せつけられた銀色の鱗の魚が2匹ほど泳いでいた。
メルガの驚きの声に、ティーフィーも笑って頷いた。
「見てる方が楽しめそうだけどねぇ…。」
「お願いします!誰か!」
「「「!」」」
突然響いて来た声に、ティーフィー、ステアとカミルが反応する。
「?どうかした、」
メルガが水槽から顔を上げると、3人の目線は少し離れた十字路で声を上げる1人の少女に注がれていた。
その少女は何かを必死で求めている、という感じだった。
「お願いします!どうか…誰か!父と母を助けてください!」
ただただ道行く人の顔を覗き込んで、承知してもらえそうもない事を繰り返し口にしている。
「あの子は…?」
メルガは立ち上がってティーフィーの袖を掴むとティーフィーは、何かを思案するように目線を動かさぬままこう言った。
「わからない。でも、」
「放っておけませんよね。行きますか?姉様。」
ティーフィーの肩にぽんと手が置かれる。
「そうね、ステア。」
「………おいおい、お前ら、あれと関わるつもりか、?」
カミルは冷たい目つきで叫び続ける少女を顎で指し示した。
「貴方だって気にしていたじゃない。」
「…そりゃ、まぁ。」
ティーフィーの責めるような口調にカミルは俯き加減にそう返した。
「事情を聞くだけよ。」
「おい。そこのお前。…俺にできる事ならやってやるぜ?」
カミルは目をギラギラさせながら低い声で少女にそう問いかけた。
「え?」
少女が涙ながらに振り向くと、丁度カミルに修正が入るところだった。
「ダメー!怖がらせてどうするの!」
「目つき、それからなにその言い方!」
「不用意に睨みつけるのは罪です。やめてください。」
「な、何なんだよ!俺にこの役やらせといてうるせぇよ、大体俺の目つきは生まれつきで…」
「………」
4人が我に返って少女を見つめると、少女は涙の乾いた瞳で不思議そうにそのやりとりを見ていた。
「コ、コホン…えっとね、そのー、何か困ってるんだったら力になるよ?」
ティーフィーがやっとの思いでそう言うと少女はやっと事情を理解して笑顔になった。
「ありがとうございます!!」
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