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 ………

 船室内にて。

 ティーフィーとステアはムライソンの地図を広げてこの後の予定を話し合い、メルガは拾ってきた果実をかじっていた。

 一人外を見つめていたカミルは窓に打ち付ける雨粒に気づくと大きめの声でこう言った。

「おい、降ってきたぞ。」

「え!」

「ホントに?うわー、大丈夫かな…。」

 たちまち視界を暗くした雨雲に3人の顔が曇る。

「風も強くなってきたな。」

 揺れが大きくなったことに対してカミルは立ち上がって窓を覗き込んだ。

「ちょっと出てくる。」

「えー…」

「進行方向があっという間に狂うっての!」

「…うん。」

 メルガが反論を口にする前にカミルは怒鳴りを返して船室の外へ出た。

「悪いけど頼むわよ。」「…お願いしまーす…」

 顔を上げたティーフィーに対してステアは地図から目を話すことなく棒読みの台詞を述べた。


 …あいつぜってー気にしてねーな。

 カミルは密かに眉を歪ませた。


 カミルが戸を引いた途端に強い雨が降りかかる。

「すげー…」

 船室の扉を閉めて、びしょびしょになった船の床を歩く。

 カミルは溜まり始めた雨水をすくい出すと、甲板から身を乗り出して海を眺めた。

「すげー振り回されてるけど…どこ向かってんだよ。これ。」

 カミルは船室の窓を拳で叩いて大声を出した。

「おい!!方角判るか!?」

 窓の近くにいたメルガはそれに気づき、大急ぎでタオルを抱えて戻ってきた。

「ちげーよ!!!」

 その声にティーフィーが振り返り、窓のそばに駆け寄ると何かを伝えようと、口を動かした。

「なに!?」

 カミルは必死で硝子に耳を当てて聞き取ろうとするが、硝子の厚さと激しい雨音に全て掻き消されてしまう。

 カミルはもう一度船室に入ろうと考えるが、そうすると中にも雨が入ってしまう。

「ごめんなさい。方位が判るものはありません。方位磁針は出航後に姉様が壊してしまったので…。」

「何だと?」

 はっきりとしたステアの声にカミルが振り向くとぐしょぐしょに濡れたステアが立っていた。

「でなきゃあんな所で迷ったりしませんでしたよ…。」

「え?お前、今中に…。」

「最初の声、かろうじて口の動きを読めたんです。でも、其処からでは伝えられないと思って…。」

「出てきたのか!」

 息を荒くするステアにカミルは驚いて歩み寄った。

「はい。操縦のことは私もお手伝いします!」



「取り舵ぃぃぃぃい!!!」

「左ですね!」

 ますます激しくなった嵐を身に受けながら、二人は動き回った。

「ああ!俺の感覚が合ってれば島はこっちだ!」

「何ですかそれ!」

「うるせぇ、ごちゃごちゃ言ってないでとりあえず行くんだ!」

 ステアは風に煽られて倒れそうになるカミルを見上げて、、力強く頷いた。

「わかりました!」

 ステアが船室の前を通り過ぎるとドンドンと窓を叩く音がした。

「姉様…?」

 ステアが振り返ると、ティーフィーの前の曇った窓に『手伝おうか?』の文字が反対向きに書かれていた。

 ステアはその鏡文字を見ると、姉の心配そうな顔を見つめて大きく首を振って親指をぐっと立てた。

「大丈夫です!!全然!」

 その動作を見てティーフィーは心配そうな表情は残しながらも少し笑顔を見せて頷いた。

「よ・ろ・し・く・ね!」

 ステアと同じようにぐっと親指を突き出したティーフィーが、そう言ったようにステアには読み取れた。


「…っ船に詳しいやつはいねえのか!?」

「いませんよ。私も兄様に少し教わっただけでっ…。船に乗るのも初めてなんですから!」

「はぁ!?…そんなふざけた船乗り、聞いたことねぇぜ。」

 カミルは綱を引きながらチッと舌を鳴らした。

 ステアは、雨に打ち付けられた前髪を掻き上げ、びしょびしょになったリボンを軽く絞った。

「そのリボン取ってくりゃいいのに。」

「嫌です!大事な人が下さったものなので、いつも身につけていたいんです。」

「形見か何かか?」

 少し呆れたようなカミルの問いに、ステアは少し考えた後、曖昧な返事を返した。

「…さあ。」

「……。」

 カミルは何を思ったのか、何も言わずに船の向かう先へ目線を戻した。



 ……

 ……

 …………

 ………

 ……

 …

「着いた。」

「ふぅ、何とか着きましたね。」

 久し振りに地に降り立つと、5人は同時に安堵の息を漏らした。

「…ったく、、何とか、じゃねーよ。何であの島からムライソンまで2日もかかんなくちゃいけねぇんだっつーの。」

 カミルは、意味ありげに纏った布で全身を隠して、かろうじて開けた目元をギラつかせて見えない口で舌打ちを鳴らした。



読んでいただきありがとうございます

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