修羅場の請け負い勘弁してください
修羅場って聞くと何を頭に浮かべる?
そう、恋愛の修羅場だよな。
それ以外あり得ないよな?
他のことなんて全然修羅場なんて言えないよな?
だから今俺が巻き込まれているこの現状は修羅場で間違えないんだよな?
「うふふ、もちろん選ぶのは私ですよね?」
綺麗な金髪を靡かせ、どこか神聖な雰囲気を纏った美少女が女神のような笑顔で俺に迫り
「違うわよ!こいつが選ぶのはアタシに決まってる!」
炎のように紅い瞳と髪を持ち合わせる美少女は烈火の如く自分が選ばれると主張し
「「どっちを選ぶ!?」」
二人の少女から迫られている男、俺は二人のどちらかを選ばないといけない選択に迫られていた。
二人の美少女から迫られているシチュエーション。
これだけ聞くと俺を求めての三角関係の恋愛の修羅場と思えるかもしれない。
けど残念ながら、この二人は俺に告白をしたわけではない。
もっとぶっちゃけるとこの二人は俺に特別な感情なんてこれっぽっちも抱いてないと断言できる。
本当、俺が二人の恋愛対象だったらまだ納得はできたよ。
俺を巡ってこんなにも可愛い子達に迫られていると知ったら男として嬉しくないはずがない。
なら、一体全体何が起きてるかというと…
「ザ…ザング……」
今弱々しく俺の名前をぼそっと言った男。
名前はケイという。
率直に言うとこの男と女二人の修羅場のはずなんだ。
こいつは一見平々凡々を体現したように見えるが脱げばしっかり鍛えられた身体が出来上がっている。
顔も至って平凡な容姿だが眼には強い意思と希望を常に煌めかしている。
そしてピンチや危険なときは率先してその問題を解決し、多くの苦難を乗り越える勇気と行動力を持っている。
言わば、典型的な主人公の属性が詰まった男なのだ。
まあ、今置かれている状況が状況なので役に立たない男に成り下がっているが。
じゃあ何で俺が迫られているかって?
お前は何も関係ないだろって思うだろ?
実はそうもいかないんだわ。
それもケイのせいでそうなったんだがな。
だからこうなった経緯を語っていきたいと思う。
誰にとかそういう質問はなしでお願いするぜ。
~~~~~
俺達が生きているこの世界は魔王によって安寧を奪われつつあった。
多くの国が軍隊を派遣し魔王討伐に挑むが、魔王の軍団の前に次々と返り討ちにあってしまった。
だが、俺達にも幸運な出来事が起きた。
それは魔物の力を凌駕する二人が誕生したことだった。
その二人こそが俺に迫っている少女達。
一人は現世に女神が降臨したかと言われる位の美貌を持つ金色の髪の少女、フロリア。
もう一人は紅い瞳と紅いショートヘアーで、天真爛漫という言葉を具現化したかと思わせる位に燃え輝く少女、アイア。
この二人は常人ではあり得ない程の能力を持ち、魔王の軍勢を圧倒してきた。
それぞれ一人で各戦地に赴いていたわけだが、今回たまたま俺達の住んでる地方で合流することになったのだ。
それで二人は別々にケイと運命的な出会いをし、二人のピンチも退けた。
こうなったからには二人の意識はケイに釘付けってわけですよ。
それから、この地方の魔王幹部を倒した二人は残党狩りという名目で俺達の都市に長く留まる事態になった。
そうなってかれこれ三ヶ月が経った今も二人とも居座っている。
理由はケイと仲良くしたいから、そしてもう片方にケイを盗られないかと心配だから。
はっきり言って誰もが周知する程分かりやすかった。
しかしお決まりなのかな?肝心のケイはそれには気付いてないという奇跡。
本人に直接聞いたんだから間違いないはずだ。
「二人ともとても良い友達だよ!」って曇りのない笑顔ではっきり言っちゃう位だったからな。
二人が聞いたらどう思うのやら。
おっと話が逸れてきたな。
話を戻すとお偉いさん方がいい加減二人には他の戦地に行ってほしく、そのため無理矢理な理由でケイも他の戦地に行けと申し付けたのだ。
魔王幹部を倒しに大きく貢献したからその力をもっと活かしてほしいというのがお偉いさん方の言い分。
ケイはケイでそれを愚直に信じ、快く受け入れた。
そしてそれを聞いた二人はそれぞれ自分と一緒に来てほしいとケイに懇願した。
しかしケイの出した答えは二人の予想を越えたものとなり、とても愚かな選択をしやがったのだ。
「僕は親友のザングと一緒に行動するって決めました!」
…え?何それ?
初耳だよ、俺は。
「いつも僕のフォローしてくれるザングのお陰で今回の幹部討伐もやれたんです!
今の僕があるのはザングがいたからこそです!
だから、僕はザングと一緒に行きます!」
めっちゃ信頼してくれて泣けるねえ。
泣けない事態にしやがったけど。
確かに今までも幼馴染でもあるケイのフォローはやってきた。
今回のケイが幹部の拠点行った際、雑魚の足止めとかもやったりした。
だけど、今回の旅は流石に見送る立場にしようと決めていたんだ!
俺は俺でやっと落ち着いた生活を送ろうとしていたんだ!
本当唐突過ぎだろ!
せめて相談くらいしてくれよ!
門出の祝いに買ったが高いポーションが無駄になっちまったじゃねえか!
おれ自身が使えってか!
もちろんお偉いさん方の命により、強制的に俺も旅に出ることになった。
さよなら俺の平凡ライフ……
んでケイによる次の追い打ち発言が炸裂した。
「僕は正直どっちでも良いから、ザングの行きたい方に従うことにするよ!」
………何でなんですかねえ…
変なところで遠慮しちゃったのかな?
どうせならもっと前段階で遠慮してほしかったんだが…
後、どっちでもいいってちょっと二人が傷ついちゃうような発言やめなさい!
その反動が俺にきそうだから!
~~~~~
そんな流れで少女二人の的はケイから俺に変わり、冒頭の現状に至るってわけだ。
本当に勘弁してほしいよ…
これどっち選択しても残った片方にえらい目にされそうな気がしてならない。
そんな不安で胸いっぱいの俺のことなんか気にせず、より迫力を増して迫ってくる二人。
気のせいか両方から強い力を感じる。
まるで場合によってはその力を放出すると言わんばかりに。
ふとケイの方を見るとこちらを心配している姿が映る。
この状況作ったの君だって理解してるのかな?
今回ばかりはまじで恨むぞ!
後で痛い思いさせてやるから覚悟してろよ!
…まあ先にこの現状をどうにかしての話になるのだが。
とりあえず、想ったことを口にしよう。
「俺は───」
この先待ち受けている多忙な旅を想像しながら。




