下心が正解
「男は女が悦んでいるのを見て興奮するんだ。寝転がっているだけの女を抱きたいなんてやつがいたら、そいつはよっぽど特殊な性癖の持ち主だ」
「じゃあロカは?反応があるほうがいいんですか」
「もちろんだ。それに積極的なのもいい。ニアンに押し倒されただけで簡単に勃っただろうが」
「それはそうでしたけど」
ロカは枕を抱いて背を向けたままのニアンの耳元に唇を近づけた。
「俺はニアンにエロいことをしてもらいたい」
瞬間耳を抑えたニアンが赤い顔でロカを睨む。
「耳元はズルいです」
「知ってる。ニアンは耳が弱いんだよな。だからわざとだ」
「ロカだから弱いんです。好きな人の声が間近に聞こえたら誰だって腰砕けになります。心臓に悪いのでやめてください」
「それ、本気で言ってるのか?」
「嘘を言ってどうするんですか!」
ニアンはむぅとした様子で顔半分をまた枕にうずめる。
(俺のことが好きすぎるだろう)
本人はわかっていないようだが……だめだ、顔がにやける。
目だけを枕からのぞかせたニアンが、チラとロカを見た。
「ニヤニヤしないでくださいっ」
「馬鹿にしたんじゃない。むしろ可愛いくてどうしようかと――」
ロカは背中からニアンを抱きしめた。
(あーくそ、抱きたい)
首筋に顔を寄せると甘い香りがした。
ちゅ、と唇を押し当てるとニアンがわずかに震えたのがわかった。かまわずロカは首に甘噛みする。
何度も甘噛みを繰り返すうちニアンがロカの頭に手をまわして押さえた。
「あの、くすぐったいです」
愛撫ととらえないくらいに経験がない。
(ここまでか)
ロカはニアンの肌をかすかに舐め顔を離した。
「ニアン、今日はこうして寝るか」
「こうして?」
「狭いがニアンと同じベッドがいい」
「寒いなら足湯を使ってください」
「足湯もいいがニアンを感じて眠りたい」
「また湯たんぽがわりですか?」
言いながらもそもそとニアンが向きを変えた。
「それとも下心ですか?」
「は?……え?」
下心と聞こえて耳を疑った。ニアンはロカが甘噛みした首筋を押さえて、ベと舌を出した。
「最後の、です」
肌を舐めたことの意味を問うているのだ。わからないと思ったのは間違いだったようだ。
「下心と言ったら?」
「こうやって一緒に寝ます」
ふわ、と柔らかな感触がしてロカに抱き着いたニアンが頬を摺り寄せてきた。彼女の背中に腕を回したロカは触れる頬にキスをする。
「因みに湯たんぽと言っていたらどうしていたんだ?」
試しに尋ねたとたんニアンが顔を上げてロカを押しやった。
「それは外れです。別々のベッドです」
「外れがあったのか」
「もちろんです。だって今のわたしはロカと同じで下心があるんです」
またニアンに抱き着かれ、灰色の髪を混ぜ返された。
「ロカとくっついてこんなふうにイチャイチャしたいんです――あ……髪がボサボサになりましたね」
うふふと楽しそうに笑ってお返しのように頬にキスされた。
「まさか下心を自白する日が来るなんて思ってませんでした」
「ニアンのは下心じゃなく甘えるって言うんだ」
「ロカのは違ったのですか?」
「それを聞くか?」
「?聞いては駄目でしたか?」
質問に質問を返したらさらに質問されてしまった。く、とロカは喉を鳴らす。
わかっているのかと思えば中途半端にしか通じない。
「男の下心なんて決まってる。触りたい、キスしたい、セックスしたい。というか、さっきも似たような話をしたぞ」
「あ、そうでした。ではロカ、ちゃんと待っていてくださいね」
「早くその気になってくれ」
互いに笑って額を寄せあった。
「さっき言えなかったんですが、ロカがラテラさんよりわたしを選んでくれたこと嬉しかったです」
「俺は溜まった欲求が少しは晴れてよかったです」
最近、敬語を使うとニアンが条件反射のごとく顔を顰めるようになった。
からかわれていると感じるからだろう。
実際、その意味合いが強いのだが。
「また敬語――……ん?欲求が晴れた?ロカは欲求不満だったのですか?」
「そりゃな、素股までしたんだ。次はいつと期待しても仕方がないだろうが」
「そういうそぶりを見せないのでロカは淡白なのだと思っていました」
「怖がってるのにガツガツいけるか。なのに自分がエロイのがばれるのが恥ずかしかったって……」
「エロって……わたしが色狂いのような言い方はやめてください」
むきになって言い返してくるニアンに、ロカはこんな表情もするようになったのかと思った。出会った頃は糸が張り詰めているような余裕のない顔をしていたのに。
ロカはニアンの頬をなぞる。視線が交わり見つめあううちどちらからともなく唇を合わせた。幾度もキスを繰り返すうち二人の息が上がっていく。
ロカはニアンの体に覆いかぶさって膝で足で割った。
「……っんふ……」
キスで口を塞いでいるためニアンの喉が鳴る。ロカがスカートを手繰り、腿に手を這わせたそのときだった。
バン!
部屋の扉が大きな音を立てた。
「うぉーい、開けろロカー」