嘘つきのたくらみに腹が立つ
「腹が立ちました」
そう言ったニアンがロカの視線を感じたのか顔を背けてしまう。いつものように手を握りしめるなどの言葉を飲み込むときの特有の仕草はしていない。
言いたいことを我慢しているようではなさそうだ。
思ったところでまた声がした。
「ロカは凄腕の傭兵だったのに、どうしてラテラさんに抱き着かれたりキスされたりしたんですか?ポロさんのときはすぐに反応して拳を交えてたじゃないですか。相手がラテラさんみたいな素敵な女性だったから?」
「は?」
「とぼけても無駄です。ロカだって男の人だもの。きっと迫られて悪い気はしなかったんです。色香に惑わされたから隙だらけで抱き着かれ放題、キスされ放題だったんです」
「違う。ラテラが異様にぎらぎらしていたから好きにさせた」
「ぎらぎら?」
「あー……ニアンは酔っていたし途中寝てたしな」
ロカはニアンの手から綿布を取り桶に放ると、彼女の隣に腰を下ろす。
「ラテラがおまえに酒を飲ませたのはたぶんわざとだ。酔わせて前後不覚にすれば俺が介抱するとわかっていたんだろう。どこかで休ませようと提案して、飲みの席を抜け出し、そのあとは俺とおまえを引き離すつもりだったんだ」
「そんな……だってラテラさんはすごく優しくしてくれました。お菓子を食べて、おしゃべりだって――あれが嘘なんですか?じゃあ他の皆さんも?」
「一緒に菓子を食べていた連中か?他の女はおまえと話をしていて楽しそうだった。そこは疑わなくていいと思うぞ」
一瞬ホッとした様子のニアンはそれでもやはりショックを隠せないのか、悲しそうな表情で項垂れた。
「恋心は人を狂わせるのですね」
「いや、ラテラは俺を好きなわけではない」
「え?」
「遊びたかっただけだろ」
「遊び?」
「一夜だけ、と言えばわかるか?」
やっと理解したらしい。口を噤んで表情を硬くしたと思ったら、ニアンに横から抱き着かれた。
「ロカに本気じゃないのに迫ってキスまでしたんですか?渡しません。そんな人にロカは渡せないです」
「だから俺はなびいていない」
ロカはニアンの頭を撫でる。
「俺は許してもらえたか?」
尋ねてもニアンはこちらを向いてくれない。軽く髪を引っ張って促すと小さく声が聞こえた。
「疑ってごめんなさい。許してくれますか?」
「信用がなくて傷ついたな」
本気ではなく言ってやるとニアンの声に焦りが混じった。
「本当にごめんなさい。もうロカのことは疑いません。絶対です。お約束します」
「それは俺がニアンしか見ていないと言いたいのか?ずいぶんな自信だな」
「え?そんなつもりでは――ロカは本当のことを話してくれる人だって思って……あの、けして自惚れ発言ではなくて……」
更にからかうと弱りはてた声になってしまった。
「自惚れていいぞ。俺はニアンにしかときめかないからな」
ちゅ、と髪にキスを落としたロカは、顔を上げたニアンがやたら真剣な顔をしていることに気づいた。
なにか変だな、と思ったところで、ニアンが身を乗り出しロカの唇を奪う。
触れただけのキスはすぐに離れ、そのまま体重をかけてのしかかられたせいで、二人してベッドに倒れた。ニアンが靴を脱いでロカを跨いでくる。
言葉もないまま顔が近づいて何度か口を吸われる。
いつになく積極的だ。
(だからって止めないけどな)
回数が増えるごとに舌を絡ませる時間も長くなった。
そのせいでロカの中心がたぎってくる。たまらずニアンの尻をつかむと彼女はキスをやめてしまった。
「気持ちよかったですか?」
「ああ。煽られた」
言いながらロカは馬乗りになったままのニアンに下半身を押し付ける。
「今ので火が付いたぞ」
◇ ◆ ◇
膨れ上がった熱を我慢することなく放つ。ニアンの掌が白濁を受け止めた。
ふーと長い息を吐いたロカがニアンの上に倒れこむと、彼女は慌てて両手を広げた。
「ロカ、ついちゃいます」
「あー、つく?」
「だから……ってその前にロカ、ちょっと重いです」
重いと言われてロカは体をずらしニアンを抱き寄せた。
「おまえは抱き返してくれないのか?」
「だからロカの服についてしまいますよ」
と濡れた掌を見せられた。
「それは困る」
ロカはけだるい体を引き起こした。桶から綿布を取ってニアンの手を拭う。そして綿布を折り返して今度は彼女のスカートを思い切りまくった。
「!何するんですか!?」
「拭いておかないと乾いたとき困るぞ」
「自分でやります」
「いいから」
無理やり足を開かせ肌を傷つけないよう丁寧に汚れをふき取る。最後に自分をきれいにしたロカがズボンを整え顔を上げると、両腕で顔を隠したニアンが首まで赤くして震えていた。
「どうした?」
「恥ずかしくて死にそうです」
先ほどまで腰を擦り付けあっていたのに今更だ。
「極力見ないようにした」
挿れたくなるから、という本音は黙っておく。
「でも見たんですよね」
前にも見ているが、という言葉もやはり黙っておく。
「この先に進めばもっとすごいことをするんだぞ」
ロカの台詞に沈黙したニアンが横を向いた。背中を丸めて枕で顔を覆う。
「ロカはわたしとしたいですか?」
「したい」
即答した。
「でもニアンがしたいと思えるまで待つ」
「いやらしいことするくせに」
責める口調にロカは苦笑する。
「そこはまぁ……待つつもりでも触れたくなる」
「……………………したくないわけじゃ……ないんです」
「うん?」
「だからあの……ロカと……そういうこと……」
意外な台詞だった。ロカはニアンを覗き込むように身を乗り出したが、彼女の顔は枕に隠されて見えなかった。
布団に散るニアンの髪を彼はなんとなく整える。きれいにまとまったところで尋ねた。
「怖いんだろう?」
「それもあります」
「「それも」ということは、他に理由があるのか?」
ニアンが顔を隠す枕を抱きしめる。少しあって先ほどよりくぐもった声が聞こえた。
「ロカと触れ合ったら気持ちいいんです。それにロカと離れたくなくなって……すごく甘えたくなるし。実際わたし、夢中になったらいろいろ恥ずかしいことをして醜態をさらしてる」
「それは駄目なのか?」
「だって男性は慎み深い女性を好むのでしょう?」
「人それぞれだろ。というかたいていの男はベッドで無反応なほうが嫌がるぞ」
「え?」
枕からニアンが顔を出した。