遺跡へ
3人に同行を申し出る村人がいた。
その村人はまだ若い男で、子供の頃、内緒で遺跡に遊びに言っていたのだという。
彼が言うには、遺跡にたどり着くためには森を通り抜け、小川を渡り、丘を越えなければならない。
「それなりに距離もあるから、案内は必要だ」と言うのが青年の主張だった。
ドロテアがいれば、彼女の探索機能で迷うことはない。
だが、お嬢様はそれを受け入れることにした。
「本当に良いんですか?」
フルヴィがお嬢様に耳打ちする。フルヴィには青年の魂胆に気づいていた。
人目のない場所に3人の娘を連れ出して、あわよくば……。
フルヴィは、青年の狙いがお嬢様にあることも、彼のいやらしい視線から察していた。
「大丈夫でしょう」
「まあ、そうですけど」
フルヴィとドロテアがいれば、魔力のない人間など物の数ではない。たとえ魔力があったとしても、それは変わらない。
そして、そんな二人でも到底かなわないのがお嬢様である。青年の思惑など、最初から的外れも良いところだった。
3人と村人の青年は、村の重鎮たちに見送られて森の中に足を踏み入れた。
人の手が入っていない森は、至る所でつたが絡み合い、腐りかかった倒木が行く手を遮る。
青年は、自分が先頭に立って、生い茂る草を鉈で刈りながら進むつもりだった。
しかし、その必要は全くなかった。
「お嬢様、ここはお願いしてもよろしいでしょうか?」
「わたしがやるの?」
フルヴィが、その理由を説明する。
「わたしの力は植物をどうにかするのに向いていません。ドロテアに至っては、任せるとこの森全体が火災で焼失しかねません」
「そうね、判った」
「ご理解いただき、ありがとう……」
フルヴィが言い終わるよりも早く、お嬢様の前方の草や木が、突然燃え上がる。まるでコマ落ちした映像をみたように、唐突に炎が現れたのだ。
炎はすべての可燃物を灰に帰した。草はもちろん、お嬢様と同じくらいの太さの樹も、それ以上の樹も、すべて。
そして、またなんの前触れもなく炎は消えた。
お嬢様を起点にした、その前方が見渡す限り焼け野原となった。
「これでいい?」
あっけらかんとお嬢様はフルヴィに確認する。
「お嬢様、やり過ぎです」
フルヴィは嘆息する。
ドロテアにやらせるより少しだけマシなレベルで、結果はそんなに変わらなかった。
「じゃあ、生やす?」
「いいえ。それは帰りにしてください」
「判った」
この魔術事象に青年が度肝を抜かれなかったわけがない。
「な、な……」
青年は言葉を忘れてしまったように唸るだけだった。相手が悪すぎる。青年の企みは、早々に潰えた。
「では、進みましょう」
お嬢様は焼け野原の中を歩き始める。灰が積もった地面は踏む度に煙のような細かい粒子を巻き上げる。
それが気になるお嬢様は、すぐに足を止め、少し考える素振りをした。
「ふむ」
次の瞬間、ざあっと雨が降って、地面は濡らしていく。お嬢様を除く、全ての物を。
つまり、フルヴィもドロテアも、村の男も例外なく。
「お嬢様……」
恨みがましくフルヴィは呟いた。
雨を止めたお嬢様は「ごめんなさい」と素直に謝ったが、すぐに付け加えて言った。
「だって、歩きにくいと思ったんだもの」
「それにしたって、先に一言、言って下さらないと」と言いながら、フルヴィは自身の服と髪を乾かした。水を操る彼女にしてみれば容易いことだ。
それからフルヴィはドロテアと村人も乾かしてやった。
「あと、水のことはわたしにお任せ下さいね。そうでないと、わたしの存在価値が……」
「判った」
お嬢様は軽く答える。
本当に判っているのか、フルヴィは不安に思った。