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探索

翌朝三人の少女が一階に降りると、そこには数人の村人がいた。みな、神妙な面もちで話し合っている。会話の内容は、昨晩フルヴィとドロテアがオスティアリウムと闘った際の爆発音についてだった。

別の男が険悪な表情で宿屋に入ってきた。そして郊外の惨状について話し始める。

しかし、三人娘はそれに全く気を止めることはない。それどころか、フルヴィはまだ誰も手を着けていない朝食を見つけ、にっこり笑顔で訊く。

「これは……食べてもいいのかしら?」

宿屋の主人は「もちろんだ」と答えた。

「では、遠慮なく」

サラダをつまみ上げようとするお嬢様を「はしたない」とフルヴィがたしなめる。

「まずはお祈り、ですよね、お嬢様?」

お嬢様は不服そうな表情のまま両手を組み、お祈りの姿勢をとる。

それを見たフルヴィはほっと胸をなで下ろすが、ドロテアを見てすくに表情を堅くした。

「あなたははフードを取って」

「拒否」

「ここはフルヴィの顔を立てて取るのよ、ドロテア」

「受諾」

お嬢様の命令には素直に従うドロテアだった。

「それでは頂きましょう」

フルヴィも手を合わせて目をつむった。


三人の朝食が終わったのを見計らったように、神妙な面持ちの初老の男が姿を現し、村長だと名乗った。

「周りが騒がしいんだけど、何かあったの?」とフルヴィ。もちろん、状況が判った上でとぼけている。

それに対して、村長は真面目な表情を三人に向けた。

「昨晩の大音響のことはご存知と思いますが、村はずれの地面に大きな穴がいくつもの開いておりまして、それについてみな話しているのです」

「ふ~ん」と興味なさげに頷いたフルヴィは自身の亜麻色の髪を弄びながら、

「それで、相談って、なに?」

すると村長は頷いて、それから話し始めた。


ことの初めは一週間前の失踪事件だった。

幼い子供がいなくなった。村人総出で探したが、見つからず仕舞いとなり、現在も行方はわかっていない。

そして四日前。

今度は畑仕事をしていた男が夜になっても戻らなかった。この時も捜索が行われ、畑のあぜ道で人骨だけが見つかった。しかし血の一滴、肉の一片も無ければ服の切れ端も残されては居なかった。

村人たちはこの骨を葬ってやった。もちろん、男が戻ってくることはなかった。

二人が行方不明、恐らくは何か得体の知れないものに殺され、肉と血だけを持ち去られたという事実に、村人達は恐怖を覚えた。そのような魔物の話は誰も聞いたことがなかった。

その晩から人々は夕方早くに畑仕事から家にもどり、夜は家に閉じこもるようになった。

しかし、そんな対策も虚しく、女が行方不明になった。骨は女の家の台所に残されていた。

この女の失踪がつい二日前のことである。


村の中では、もう一つ噂があった。大きな黒い虫が村の中を徘徊しているのを見た、というものだった。『大きな』と言う表現は、普通の虫と比べて、と言う意味ではない。人間と比べての話である。複数の目撃情報があり、ただの噂話では済まない。実際、村には数年に一度、森の中などで巨大な虫を見たという情報が入ってくる。しかし、村の中で見たというのは、今回が初めてだった。

そんな時期に呪猟士が村を訪れたのは、村人達にとってまさしく渡りに船だった。


「どうでしょうか。呪猟士様方、やはり魔物の仕業でしょうか」

「そう考えるべきね」と答えたのはフルヴィだった。

「やはり、そうですか」

村長はごくりと唾を飲み込んだ。

フルヴィはお嬢様に顔を寄せ、声を潜めて話しかける。

「やはり、昨夜のアレでしょうか」

「うん」

「となると、呪猟対象がオスティアリウムと言うことになりますね」

「それは面倒だわ。やりたくない」とお嬢様。

「でも、恩を返す必要があるのでは?」

「それは、どういう意味?」

「ただで一泊した上に朝食いただいちゃいましたし」

「……イヤなこと言うのね、フルヴィ」

お嬢様は眉を寄せて不服そうにフルヴィを見つめた。しかし、フルヴィは無情だった。

「そんな顔してもダメです。いくらあなた様が世界の管理人アドミニストラトリクス・ムンディでも、宿代を踏み倒すような真似をするのはまずいと思いますよ?」

「でも、ただで泊めてくれるって」

「それでもです」

「むー」

お嬢様はふてくされてしまう。

村長は、そんな会話の内容の半分も理解できていなかったが、三人が呪猟を引き受けてくれるかどうか危うい状況であることは悟った。

「その、なんでしたら、お好きなだけ泊まって頂けますし、食事も用意させて頂きます」

「村長さん。問題は、そこではないのよ」

フルヴィが苦笑いで答える。

お嬢様は深くため息をつき、「仕方ないわね」と観念した。


村長を連れた三人が向かったのは村のはずれの林の近くだった。そこは辺り一面大穴だらけになっていた。報告は受けていたものの現場を初めて見た村長は狼狽えた。

「どうしてこんなことに……」

「どうしてかしらね」

フルヴィの言い様は、何も知らないとでも言うかのようだった。

大きな穴を避けながら歩みを進めると、辺り一面、真っ赤な地面が広がっていた。まるで、今し方鮮血をぶちまけたかなような赤色だった。

村長は唖然として声を失った。

ドロテアが赤い土を指差す。

「これが本体。潜伏状態」

「この色は珍しいわね。構築バグかしら」とフルヴィが呟く。

潜伏状態にあるオスティアリウムは、周囲の物に同化する。その際、色も同化するのだが、このオスティアリウムに限っては、存在を誇示するかのように赤い色を残していた。


「対象は現在、飢餓フェーズ」ドロテアがさらに説明する。

本来、オスティアリウムは栄養補給を必要としない。体内にエネルギーを生産する器官を有しているからだ。だが、それが枯渇すると飢餓フェーズに入り、捕食を開始する。

「ああ、なるほど。だから、人を襲って糧を得ているわけね。でも、なぜ人間ばかり?」とフルヴィ。

「魔力補給には、人間が手っ取り早い」とドロテアが答えた。

「昨日はちょうどお食事の日だったのでしょうね」とお嬢様。

一週間前から、だいたい二日置きに人が襲われていることからみても、それは妥当性のある推測といえた。

「それを、あたしたちが邪魔してしまった、と」

「ええ、そう」

「つまり、今夜も活動する可能性が高いと言うことですね?」

「そうなるわ」

「あの、何か判りましたか?」

村長の心配そうな問いかけに対して、フルヴィはにこりと笑顔を見せた。

「ええ。狩るべき対象は判ったわ。でも、夕方以降にならないと呪猟は出来ないと思う」

「それはまた、どういう理由で?」

「今までの事件から見ても、この子が活動するのは夕方から夜にかけてになるはず。で、この子は昨日、食事をしそびれているから、今晩はまた人を襲おうとするはずよ」とフルヴィが説明する。

村長は、判ったような判らないような、中途半端な表情で頷いた。


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