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月明かりに浮かぶ三つの影があった。大人にしては背丈が足りず、また歩幅も小さかった。

それは三人の少女だった。この道は比較的安全とされる主道だったが、それでも女の子だけの夜歩きは危険だった。

案の定、数人の男が立ちはだかったと思うと円陣を汲むように三人を取り囲む。十人はいる。暗がりで判然としないが、明らかに盗賊の類で、狙いは彼女たちに間違いなかった。

思った通り、男のうちの一人が盗賊らしい口上を告げた。つまり、身ぐるみ置いていって貰おうと言ったのだ。

少女達は無言だった。なにが起きているのか、判らないとでも言うかのように、きょとんとして男たちを見ている。

「おい、こいつは……」

盗賊の中のひとりが、誰に問いかける訳でもなく呟く。すると、また一人が「ああ」と頷く。

今夜の獲物が若い娘たちと気付いて、男達は違う思惑が頭に湧いたようだった。

「大人しくしろ。殺すぞ」

相手は少女である。

脅せば、おとなしく従うに違いなかった。

しかし、男達の当ては外れた。三人の娘のうち、二人は平然として表情を変えず、もう一人に至ってはあきらかに軽蔑の笑みをさえ浮かべている。

その笑顔の娘が指を鳴らした。

「お嬢様、ここはわたしが」

すると、真ん中に立っている娘が口を開く。

「いいえ、フルヴィ。ここはドロテアに任せましょう。ドロテア、お願い」

最後に残った娘は、機械的に首を回して『お嬢様』と呼ばれた娘を見る。

「具体的指示を求めます」

「相変わらず融通利かないわね、あなたは」

フルヴィはため息をつく。

「おい、何をくっちゃべってやがる!」

無視された形となった男の一人が、剣先をお嬢様と呼ばれた娘に近づける。

フルヴィが、その男を睨みつけた。

それと同時に、男の剣が地面に落ちた。よく見れば、その柄には握ったままの拳が付いている。

男は何が起こったか判らずにいたが、自分の手首から血が吹き出すのを感じて叫び声をあげた。

ちくしょうだの、このやろうだのと男たちが口々に叫び剣を抜く中で、三人の娘たちは動じることもなく会話を続ける。

「お嬢様、ご指示を」

「いいえ、ここはわたしに」

フルヴィとドロテアがほぼ同時に願い出る。

お嬢様は軽くため息をついて、「仕方ないわね」とため息交じりに呟いた。

「じゃあ二人で……あの男達を排除して」

「受諾。生体動作の永久停止と解釈します」

無機質にドロテアが答えた。

「承知しました」

そう言うと、フルヴィは舌なめずりした。

「無視してんじゃねえぞ」

「ちょっと黙ってなさい。すぐに決着つけてあげるから」

フルヴィが侮蔑の表情で言い返す。そこに何か人ならざる殺気を感じ、男たちは一様に身構える。

「ふざけやがって! 小娘ども!」

男の一人が叫ぴ、お嬢様に襲いかかる。しかし、剣を振りかぶったところで、その動きが止まる。

一緒、静寂があった。

月光に照らされる中、男達の頭が破裂した。血飛沫が吹き上がり、それが収まると、男達の身体はひざを突き、そして地面に倒れ込んだ。

「処理を完了。待機状態へ移行します」ドロテアはお嬢様に跪いて告げた。

「ええ、ありがとう」

男達の死などまるで意に介さないかのように言うと、お嬢様は歩き出した。その後をフルヴィとドロテアが従った。

「なんで、私の分を残してくれなかったの?」とフルヴィは不満げに呟いた。

「一度に処理した方が効率的」

「それは、そうだけど……」

「では、次はフルヴィに対処してもらうわ。でも、遊ぶのは無しにしてね」

お嬢様は、微かに笑みを浮かべた。

「ええ、ぜひ」

フルヴィは楽しそうに笑った。


三人が次の街に着いたのは、深夜のことだった。

彼女達は宿屋を探す。

街の真ん中にそれを見つけ、三人は扉を開けた。

灯りに照らされて、三人の姿がようやくはっきりとする。

黒い長髪の少女が『お嬢様』。透き通るような白い肌、まだ幼さが残るほっそりとした体つきで、三人の中で一番若い。

その左側のフードで顔をすっぽりと覆っているのが『ドロテア』。フードを取ると現れるのは黒い瞳、黒い肌と三つ編みの白い髪。三人の中で一番背が高い。

反対側にいるのが『フルヴィ』。亜麻色の波打つ髪に、緑の瞳を持つ彼女は最も背が低い。低いと言っても他の二人と比べればの話で、世間一般には女性としては少し高い部類に入る。

宿屋は一階が酒場になっていた。深夜だと言うのに、泥酔した男達がまだ残っている。

酔っ払い達は三人を奇異の目で見守った。

フルヴィがカウンターに立つ男に声をかける。

「ここは宿屋で間違いない?」

「ああ」

男はぶっきらぼうに答える。

「では、二部屋」

「前払いで6マルクだ」

「はいはい」

フルヴィが軽く返事をしたが、貨幣をカウンターに置いたのはドロテアだった。

「……あんたら、クヴァルティスの人間か?」

貨幣を見て、男は驚いたようだった。

「そうだけど……あ、このお金使えなかったりする?」

「そんなことはないが」と答える男は明らかに興奮している。

「じゃあ、なにか他に問題でも?」

「いや……あんたら、もしかして術士(ツァウベラー)か?」

「わたしは違うわ。それから、この子も」とフルヴィはドロテアを指差す。「でもこの御方は、確かに呪猟士(ツァウベルイェーガー)よ。正しくはその上位の呪闘士ツァウベルシュトライター

「やっぱり、そうか!」

男はさらに驚いて大声をあげた。

テーブルに座った客達もすっかり酔いが醒めた様子で三人を見つめる。無理もない、術士を名乗るにはお嬢様は若過ぎた。

「証拠は? 術士ならその証となる物を持っていると聞いた」

「見せるのは良いけど、見て本物だって判るの?」

「それはそうかもしれんが……ともかく、見せてくれ」

「ドロテア」とお嬢様か声をかけると、ドロテアは懐から手のひらに乗るサイズの金属製のメダルを取り出し、お嬢様に手渡した。

そこには、金色の地に黒色の模様が描かれている。それは双頭飛凰と呼ばれるクヴァルティス帝国の紋章だった。

お嬢様がメダルを示すと、男は覗き込んだ。たが、その真偽までは判らなかったようだった。

「それで、術士だとしたら、どうだっていうの?」

フルヴィは、どことなく楽しげだ。

「依頼したいことがある。聞いてくれるか? その代わり、宿代は要らねえ」

「……内容によるかな」とフルヴィ。

「じゃあ、明日の朝に村長から聞いてくれ。今夜は好きな部屋に止まってくれて構わねえ」

「ありがと、おじさん!」

そして三人は二階へと姿を消した。


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