勇者に恵まれた世界
※コメディーもの
この世界に産まれて物心が着いた時、予言師にお前は勇者だと言われあれよあれと言われるがままに体と精神を鍛えることになり両親とは離されて暮らすことになった
両親の名前を覚える前に離されたのであまり両親への情はなかった、鍛えなくては死ぬと言われ「へー、死ぬんだ?」的な感覚でなんとなく言われたままに鍛えてきた
死ぬと言う言葉の意味を知ったのは実戦訓練に移った時だった
襲い掛かってくるテキを訓練通りに全て斬ると相手は真っ赤な血飛沫を撒き散らしながら倒れた
剣にこびりついた血を素振りで払ってから鞘に納めて斬り倒した相手に視線を投げた
「おい、もう良いぞ、お前等の敗けだ」
声をかけるも相手からの返事はなかった、怪しむように足でつついてみるも反応はなく、あるとすれば地面に吸い付いている血の匂いのみだった
「?……おいおい、お前等は頑丈でしぶといのが取り柄何だろ」
再び声をかけるも、反応はなかった
訓練の師匠が終わった様子を見て不思議そうに問いかけた
「その魔物は死んだのだから動かないのは当たり前だろう?」
その問いかけに視線を向けて再び死んだとされる魔物を見た
「お前等は死んだのか?……俺等と同じで死は存在するのか」
「死は誰にでも平等だ、今回先に手をだしたのは向こうだしな」
訓練の師匠の言葉はやけに耳に残った
死は誰にでも平等……生き物であれば誰にでも寿命はある、長いか短いかの違い、綺麗事で手っ取り早い事をしているのかと疑問を抱くも、捕食者としてみすみす殺されてやる義理もないので力を着けていった
勇者と言われたあの日からずっと成長が止まることは無かったからだ
ちなみに俺に名前はつけられなかった……ただ呼ばれる名前は勇者で充分だと言われていたからだ
その事を聞いた時に既に決まってるんだな~と呑気に思っていた
ある日の事
魔王が誕生し悪さを始めたので、ついにこの日が来たのかと王の都市に足を踏み入れ門番に話すも誰も俺の事を覚えている人は居なかった
正確に言うには訓練の師匠は共に過ごしていた時間が長いので俺の事を覚えていたのだが
訓練の師匠が詳しく話を聞くと、どうやら異世界から勇者が来たらしい
「へー、なるほど、御苦労なことで」
と頷くと訓練の師匠に頭を叩かれた
「ぃでっ……~っ、俺の代わりに殺ってくれるんだったらそれで良いじゃんかよ」
「そう容易く終えられれば良いんだがな」
そう言う訓練の師匠の顔は既に深い思考の海に沈んでいる顔になっていた
とまぁこうして俺の勇者訓練生活に終わりを告げたのだった
いやぁ~……わざわざ異世界から勇者がやって来るなんて、物好きが居てくれて楽で助かるわ~
……まぁ、どっかの世間知らずの命知らずじゃない事を祈っておこう
こうして彼の勇者と言う名前は消え去り名無しと言う役職無しになり、いわば無職の気軽な立場になって良かったと思っていました……
どうやら異世界から勇者が来たようなので裏方にまわることになりそうです
ー了ー