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【8】わたしの頼りになるお友達

「とうとう王の騎士になったんだね! おめでとう、ヴィルト!」

「ありがとなアカネ。これでようやくミサキと結婚できる」

 六年近い月日が流れて、ヴィルトは見事王の騎士になった。

 かなり異例の出世なのだと皆が口々に褒めていて、わたしも友達として誇らしかった。


 はじめて出会った日から、わたしはヴィルトと会っては、お話をしたりして過ごしていた。

 わたしの知り合いといえば、トールの弟子の人たちや、お客さんばかり。

 皆大人で同年代の人なんていなかったから、ヴィルトはわたしにとって唯一の歳の近い友達だったのだ。


 会話の内容は、大抵お互いの好きな人の事。

 ヴィルトから何回も聞かされたせいで、わたしはミサキの事を友達だと勘違いしそうになるくらいには知りつくしていた。

 どれくらいヴィルトがミサキの事を好きなのかも、もちろん知っている。

 だから、ヴィルトの恋が実を結ぶことが、自分のことのように嬉しい。


「ミサキと会うのは六年ぶりなんだよな。やばい凄くドキドキする」

 明日はヴィルトがお世話になっているヤイチさんの家で騎士就任の小さなパーティがあり、明後日にはこの街を出て故郷へ戻るらしい。

 一度ミサキと会えば決意がにぶるし、故郷へ戻っている時間があるなら鍛錬と勉強にまわしたいと、ヴィルトは王都に来てから一度もミサキと会ってなかった。


 ヴィルトが王の騎士に就任するのは、半年以上先の次の秋。

 一度王の騎士になれば、都を離れることが難しいという理由での長期休暇だ。

 ヴィルトはこの期間の間にミサキと結婚式を挙げるらしく、わたしはすでに招待状を貰っていた。


「結婚式の事、ミサキにはまだ言ってないんだよね。大丈夫かな?」

「こっちが約束守ったんだから、次はミサキの番だろ」

 直前までヴィルトは、ミサキに結婚式の事を内緒にするつもりでいるようだった。

 サプライズをして喜ばせたいというよりは、結婚の事を口にして逃げられるのが嫌なのだということを、恋愛同盟を組んでいるわたしはよく知っている。


 すでにミサキを手に入れるため、ヴィルトの計画は最終段階なのだ。

 式場の手配は当然の事、ミサキには内緒だと含め書きされた結婚式の招待状も手配済みだし、親やお世話になった人たちへの挨拶も済ませてある。

 この前は故郷に連絡を入れ、ミサキとヴィルトの部屋を取り壊して、新居にするように指示したらしい。

 

「それであれはどうなってる?」

 尋ねられて、店にきたヴィルトを奥の工房へ案内する。

 そこには、ヴィルトからの依頼でヘレンとトールが作っているウェディングドレスがあった。


「これをミサキが着るんだな」

 ヴィルトの横顔は、ここまでの道のりを噛み締めているようだった。

 ミサキはここまで愛されているんだから、元の世界に帰るなんて言わずに、ヴィルトの事を受け入れてあげてくれないかな。

 そんな事を思った。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 その後久々に食事に行こうという話になり、お昼もまだだったので、近くの食堂に足を運ぶ。

 ヴィルトの食べっぷりは、見ていて心地がよかった。

「ヴィルト、この数年で大分成長したよね。強そうになったというか」

 少年だったヴィルトは、いまでは青年になっていた。

 面立ちだってはっきりとして、背もかなり高くなった。声も大分低くなって、筋肉がついて。もう立派な男の人だ。


「絶対王の騎士になるんだって決めてたからな。ヤイチさんに鍛えてもらったようなもんだ」

 王の騎士になるため、ヴィルトは王都にあるヤイチさんの家にずっとお世話になっていた。

「けど、俺まだ一度もあの人に勝ってないんだ。化け物のように強くてさ。刀が一番得意みたいなんだけど、剣も槍も弓もなんでも使いこなすんだぜ。でも、絶対いつかミサキの前で、ヤイチさんを倒してやるって決めてるんだ」

 悔しそうにヴィルトが呟く。


 ミサキが王の騎士じゃないと結婚しないと言い出したのは、ヤイチさんに憧れているからだとヴィルトは思っているようで、ヤイチさんをライバル視してるところがあった。

 ヤイチさんは線が細いし、見た目では今のヴィルトの方が強そうに見えるのだけれど、人は見かけによらないなと思う。


「それで、アカネの方はどうなんだ。何か進展はあったか」

「ううん全く」

 即答したら、思い切り溜息をつかれた。

「あのな、お前ちゃんと好きだってトールに伝えてるのか?」

「ちゃんと好きだって、言ってるよ。でも、この見た目だからそういう意味にとって貰えなくて」

 呆れたようなヴィルトにそう言ったら、違うだろと否定さる。


「見た目なんて関係ない。俺なんか、七歳の頃にはもうミサキに求婚してたしな。本気を伝えることが大切なんだ」

 ヴィルトの言うことには説得力がある気がした。

 というか、その歳でミサキに求婚しているヴィルトは半端ないと、尊敬すらしてしまう。


「そうだ! 指輪をプレゼントして告白してみたらどうだ? あれやってからミサキは俺が真剣だってわかってくれたみたいだったぞ。まぁ、受け取るの断られると相当へこむけどな……」

 言いながら、当時の事を思い出したのかヴィルトの声に元気がなくなる。

 ヴィルトには、ミサキに指輪を渡して告白したものの、断られた苦い記憶があるのだ。


「よし、俺が指輪選ぶの付き合ってやる。近くに雑貨屋あったし、そこでいいだろ」

 ヴィルトが立ち上がり、お会計をし始める。

 このまま本気で指輪を買いにいくつもりのようだった。

「いやいや、ヴィルトちょっと待って、おおぉ落ち着いて」

「俺は落ち着いてるだろ」

 店を出てわたしの手を引くヴィルトは、その言葉通りとっても落ち着いていた。


「指輪渡して告白なんて、わたしには無理だよっ!」

「なんでだよ。本気をわかってもらうにはいい方法だろ?」

 足をつっぱって抵抗するわたしを、ずるずると引きずりながらヴィルトは歩く。

「だってそんなの愛の告白だよ? 言い逃れできないし、断られたらどうすればいいんですか!」

「断られたら、頷くまで告白すればいい。俺はそうしてきた」

 さらりとそう言って、ヴィルトは面倒になったのかわたしの体を肩に担いだ。


「駄目だよできないの!」

「どうして」

 叫んだわたしに、ヴィルトは立ち止まって尋ねてくる。

「だって……わたし、成長しないもの! こんなんじゃ、トールのお嫁さんになんてなれない! それに、トールはわたしを元の世界に帰すつもりでいるし、トールもいつか帰っちゃうみたいだし。それに、この世界で恋人はつくらないって……」

 最後の方は言葉にならなくて、わたしはヴィルトの肩の上で泣くのをぐっとこらえる。


「そんな事だろうと思った。アカネって、前向きに見えて根っこはミサキと同じだよな。うじうじしてる」

 ヴィルトは少しデリカシーがないというか、刺さる言葉をくれた。

「できない理由を探す意味なんてないだろ。どうやってできるようになるかを考えろよ。こんなくだらないことで、トールの側にいることを諦められんのかよ」

 俺だったら無理だねというように、ヴィルトは口にする。

 同じ恋する仲間のはずなのに、わたしとヴィルトではその姿勢が全く違った。


「元の世界に戻らないって宣言して、トールも側にいてほしいって言えばいい。告白したら、トールだってお前の気持ちに気づいて考え直してくれるかもしれないだろ。大人になる方法だって、探してもないのに諦めんなよ」

 わたしはヴィルトほど前向きでもないし、強くもない。

 自分に自信だってなかった。

 そんなのヴィルトが強いから言えることだと思った。

 でも、同時にヴィルトが本気でわたしを応援してくれていることも、ちゃんとわかっていた。


「お前はどうしたいんだ?」

 ヴィルトが確認するように尋ねる。

「……トールと一緒に、ずっと一緒にいたい」

 心からの願いを口にすれば、よくできましたというように、ヴィルトが背中を叩いてくる。


「玉砕しても、何度でも付き合ってやるから安心しろ。友達だからな」

 力強くヴィルトが請け負う。

「そこはきっと成功するよって、いうところなんじゃないの?」

「俺、嘘は言えない性質だからな」

 不満げにそういえば、ヴィルトはわたしを肩から下ろしてにっと笑う。

「ならわたしも、ヴィルトがミサキに振られたら、何度だって付き合うよ。友達だからね」

 やりかえすように、ヴィルトの真似をしてにっと笑えば、少し強くなれたような気がした。


「じゃあ、指輪選びにいきますか!」

「望むところです!」

 ヴィルトの声に応じて、互いの手をパンと合わせる。

 ふたりして気合を入れるときの、恒例の儀式のようなものだった。

 わたしは本当にいい友達を持ったなぁと思った。

★7/27 他シリーズとの兼ね合いや、ヴィルトの誕生日設定による微妙な年齢修正を行ないました。ヴィルトが王の騎士になるまでの期間を「約五年」→「六年近く」に、ヴィルトが王の騎士として働くのを「約半年後」→「半年以上先の次の秋」に書き換えました。

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「育てた騎士に求婚されています」
前作。ヴィルトが主役のシリーズ第1弾。
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