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【2】見つけた居場所

「トール、わたしに何か手伝えることはありませんか?」

「ありがとね、アカネ。でも大丈夫よ。子供は子供らしく、外で遊んできなさい」

 わたしの申し出をやんわりと断って、トールは頭を撫でてくれる。

 トールと過ごすようになって三ヶ月たった頃。

 こんな日々に大分慣れてきたと同時に、わたしは不安を感じていた。


 トールは忙しいはずなのに、よくわたしに構ってくれた。

 一緒にご飯を食べて、お風呂にいれてくれて。

 お勉強を教えてくれたり、絵本を読んでくれたりした。


 なによりもわたしを可愛いと言って、抱きしめてくれる。

 お母さんが昔そうしてくれていたときのように。

 その温かさがとても好きで。

 同時に、それがいつなくなるのか怖かった。


 どうしてトールがよくしてくれるのか、わたしにはわからなかった。

 お母さんいわく、わたしは『お荷物』で。

 わたしがいい子でないから、お父さんも出ていったのだといつも言っていた。

 駄目なわたしを見捨てないでくれるのはお母さんだけ。

 だから、わたしはお母さんに捨てられないように、常にいい子でいる必要があった。


 どうかトールに嫌われませんように。

 そう願いながらビクビクして過ごすわたしに、トールはいつも困ったような顔をしていた。



 ある日のこと。

「ごちそうさまでした。ありがとうございました」

 夕飯が終わって、わたしはふかぶかと頭を下げてから、食器を片付けるために立ち上がった。

「あたしがやるからいいわ」

「でも、これはわたしの食器です」

 食器は自分で片付けないといけない。

 手間をかけさせてしまったら、嫌われてしまうかもしれない。

 そんな思いから皿を奪い返そうとしたら、床に落ちて割れた。


「ご、ごめんなさい!」

 勢いよく謝って、床に落ちた皿のカケラを拾おうとしたら、トールにその手を阻まれて。

「危ないから触るな!」

 普段とは違う男声に、わたしはすくみあがった。

「ごめんなさい、ごめんなさい。殴らないで!」

 トールは心配してくれたのに、怒られると思ったわたしは、頭を抱えてしゃがみこんだ。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい! いい子にするから。だから、お願い。嫌いにならないで!」

 ずっと謝りつづけるわたしを、トールはそっと包んでくれて。

「馬鹿ね、そんなことくらいで嫌いになるわけないでしょ。驚かせちゃったのね。怪我したら大変だから、つい怒るような声になっちゃったの。許してくれる?」

 優しい声でそう言って、泣き止むまでずっと頭を撫でてくれた。


「それにね、アカネがどんなことをしても、あたしはあんたを嫌いになったりしないわ!」

「……嫌いにならない?」

 それはわたしにとって、衝撃的な言葉だった。

「そうよ。どんなときだってあんたの味方よ。だってあたしは、あんたの親代わりなんですもの」

 オロオロとするわたしと目を合わせて、トールが安心させるように微笑む。


「親はね、子供を無条件で愛するものなのよ。だから、そんなに怯えないで。あんたはあたしが守ってあげるから」

 真っ直ぐわたしを見つめてそう誓ったトールは、きりっとしていて格好よくて。

 まるでトールが寝る前に読んでくれた、絵本に出てくる騎士様みたいだと思った。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 トールはいつだってわたしに優しくて、甘やかしてくれた。

 一緒に過ごすうちに、わたしは自然にトールが好きになった。

 

「これ、貰ってもいいのですか?」

「貰ってくれなきゃ困るわよ。アカネのためだけに作ったんだから」

 この世界に来て一年の記念日。

 トールは私に服を作ってくれた。

 いつも着てるものだってトールのお手製だったけれど、気合が違うのがわかる。

 それは可愛らしいお出かけ用の服だった。


「……わたしのために?」

「そうよ。アカネのためにつくったの。絶対似合うわ。それを着てでかけましょう?」

 ふわっと心が浮き上がるような気持ちになって、ぽろりと目から何かが零れた。

「ど、どうしたの。なんで泣いてるの? 気に入らなかった?」

 いきなり泣き出したわたしに、トールはオロオロとしはじめる。


 ふるふると私は首をふって、トールがくれた服を抱きしめる。

 嬉しくて泣くなんて初めての経験で、自分でもよくわからなかった。

 目の前のトールに対して、感謝の気持ち以上の何かが湧いてきて。

 どうやったらこの嬉しさがトールに伝わるんだろうと思った。


 とてとてと走って、ぎゅっとトールに抱きつく。

「トール、大好き……です」

 いつもトールがやってくれて嬉しい事を、嬉しい言葉を口にする。

 何も反応がなくて見上げれば、トールは驚いたような顔をしていて。

 その顔がほろほろと崩れて笑顔になっていく。

「あたしもあんたが大好きよ!」

 しゃがんだトールはがばっとわたしの体に手を回して。

「いたい、いたいよトール」

 温かいトールの腕の中で、わたしは自分の居場所を見つけた気がした。


1/15 絵本に関する内容を変更しました。

★7/27 微修正を行いました。

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「育てた騎士に求婚されています」
前作。ヴィルトが主役のシリーズ第1弾。
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