表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/37

【番外編1】アカネとグエンのおままごと1

※注意※同シリーズの「オオカミ騎士の捕虜になりました」の結末部分のネタバレをそれなりに含みます。あちらを見てなくても読めますが、あちらを見てからの方が楽しいかもです。

 時系列的には、「オネェ」本編の7話と8話の間くらい。「オオカミ騎士」で言うと、最終話の間です。

 グエンの言動がR15までは行かないと思いますが、若干セクハラまがいです。


「いらっしゃいませ!」

「邪魔するぜ」

 トールが出かけてる間、店番をしていたらお客さんがやってきた。

 物凄く大きくて迫力があって、動物でいえばライオンとか狼に例えられそうな、強そうな感じの人。


 前に一度、わたしはこの人に会ったことがある。

 ヤイチさんの紹介で、前にリサさんという女の人がお店にやってきた。

 彼はそのリサさんの恋人で、わたしの親友であるヴィルトが騎士学校を卒業して後に配属されていた、ラザフォード騎士団の隊長さんだったりする。


「ドレスを一着頼みたいんだが」

「すいません、いまトールは出かけてまして。結構時間が掛かると思うのですが、待ちますか?」

「あぁ」

 隊長さんが頷いたので、商談用のテーブルに案内してお茶を出す。


「……お前、前にヴィルトといたちびっ子だよな。トールのとこの子供だったのか。名前は?」

「アカネです」

 そう言えば隊長さんは、ふーんと言ってわたしをまじまじと見てくる。

 正直にいうと、ちょっとわたしはビビッていた。


 この隊長さん少し怖い。

 前にヴィルトと一緒にいた時。

 この隊長さんはリサさんを呼び捨てにしていたヴィルトに、攻撃的な視線を向けていた。


 ヴィルトは隊長さんのことを、強くて格好よくて凄い人なんだと言っていたけれど。

 あれを見ていたから、なんとなく警戒してしまう。

 けど、お客さんである隊長さんをひとりにするわけにはいかなくて、わたしも席についた。


「一人でお留守番か」

「はい」

 質問に頷く。

 もう私は十八歳なので、お留守番というよりは店番と言ってほしかったけれど、見た目が七歳だからしかたない。

 そのあたりはもう諦めていた。


「そうか、えらいな」

 よしよしというように、大きな手で隊長さんが頭をなでてくる。

 表情が少し優しくなった。


 ――意外と怖い人じゃないのかもしれない?

 そんな事を思う。

 

「飴、食べるか?」

 そう言って隊長さんはポケットから飴を取り出して、わたしの手に置いた。

 可愛い包み紙に包まれた飴。

 完全に子ども扱いされているけれど、好意なので受け取る。

「ありがとうございます」

「あぁ」

 わたしのお礼に隊長さんは短く答えた。


 包み紙を解いて口にいれる。

 苺味の飴は、とても美味しかった。

 思わず顔をほころばせると、隊長さんはふっと笑う。

「気に入ったか。なら、もっとやる」

 そう言って隊長さんは飴を手にいっぱいくれた。


 ……なんでこんなにいっぱい飴持ってるんだろう。

 しかも全部包み紙が違っていて、どれも見た目からして可愛らしい。上品な味といい、結構高級な品のような気がするんだけど。


 まさか、隊長さんが食べるためだったりするんだろうか。

 いやでも、ちょっと悪いけど似合わない。

 隊長さんに似合いそうなのは、こういう飴よりも煙草とかそういうアイテムだ。


「トールは優しいか?」

「えっ、はっはい!」

 ふいに尋ねられて、答える。


「そうか。ところで気になるんだが。あいつはお前のお母さんなのか、それともお父さん代わりなのかどっちだ。そもそもアカネがいるってことは、女が恋愛対象だったのかあいつは?」

 隊長さんは思い悩むような顔をしていた。

 まぁ、トールはオネェなので、それを聞きたくなるのもわからないではなかった。


「いえあの、トールは結婚してないですよ。わたし、トールに拾って育ててもらってるだけです」

「そうなのか?」

 隊長さんはそう言って、熱いお茶を飲んだ。

 でも猫舌なのか、少し顔をしかめてすぐに置いてしまう。


「トールはアカネをどんな風に育てたんだ?」

 隊長さんは妙に食いついてくる。

 なので、トールが私にしてくれたことを話していけば、隊長さんは「なるほど参考になるな」なんて事を呟いていた。


「一緒にどんなことをして遊ぶんだ?」

「えっと……小さい時は、おままごととか?」

 少し悩んでから答える。


「そうか。頼みがあるんだが、それをトールがくるまでオレとやってみないか?」

「はい?」

 真面目な顔で言われて、思わず聞き返す。


「もうすぐ子供が生まれるんだが、どうやって一緒に遊んであげたらいいかがよくわからない。小さい頃を思い出そうにも、弟はいたが妹の方はすぐに亡くなったからな。もし、女の子が生まれたときにもちゃんと一緒に遊んでやりたい」

 隊長さんは真剣だった。

 

「リサさん、子供生まれるんですか!? おめでとうございます!」

「あぁ、あと半年後くらいか。だから早めに結婚式を挙げようと思って、今日はドレスの相談にきたんだ」

 わたしの言葉に、隊長さんが嬉しそうに答える。


「そういう事なら、わたしお手伝いしますよ!」

 ドンと請け負う。

 何かわたしにできることがあるのなら、力になりたいと思った。

「助かる。城の騎士共はあてにならないし、相談するのもからかわれそうで困ってたんだ」

 そういって、隊長さんはまたわたしに追加の飴をくれた。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 さすがに店の方でおままごとは、他のお客さんが来たとき恥ずかしい。

 すでに閉店の時間も近かったので、早めにクローズの看板を掲げて隊長さんをわたしの部屋に連れて行く。

 隊長さんはわたしの部屋を見て、可愛い部屋だなと褒めてくれた。

 この部屋の内装も、家具も全部トールの見立てだ。

 褒められると自分のことのように嬉しかった。


「わたしがお母さん役をしますから、隊長さんはお父さんです」

 昔トールがくれたおままごとセットを引っ張り出してきて、隊長さんにやり方を説明しながら、ネクタイを首に巻いてあげる。

 トールは凝り性なので、おままごとセットの中には簡単に装着できるネクタイと、わたしがお母さん役をするとき用の可愛いエプロンまであった。


「この部屋を家に見立てて、いつもリサにやってるように夫婦の真似事をすればいいんだな?」

 隊長さんはわたしの話を真剣に聞いて、頷いた。


「まずは隊長さん、お仕事から帰ってくるところからスタートです」

「わかった」

 隊長さんが一旦部屋の外に出る。


 この歳でおままごと。

 かなり抵抗はあったけれど、隊長さんは親友のヴィルトがお世話になった人だ。

 特に隊長さんの奥さんであるリサさんのお陰で、ヴィルトは王の騎士に一歩近づいたのだということを、わたしはちゃんと知っていた。


 わたしにできることはいつも少ない。

 誰かの力になりたくても、この小さい体じゃできることは限られている。

 けど今、これはわたしにしかできない事だ。

 隊長さんが頼ってくれているのだから、それに答えなきゃ。

 親友がお世話になった人が困っているなら、わたしの恥ずかしさなんて後回しだった。


 よしと気合を入れたところで、隊長さんがドアを開けて入ってくる。

「ただいま」

「お帰りなさい隊長さん」

 そう言って出迎えれば、隊長さんがそれじゃ駄目だと言い出した。


「夫婦設定なら、名前で呼び合ったほうがいいはずだ。そういえば、名前を言ってなかったな。オレはグエン。おままごとの中では呼び捨てでいい」

 グエンさんはそんな事を言ってきた。

 確かにその通りだと、最初からやりなおすことにする。


「おかえりなさいグエン。ご飯にしますか? それともお風呂から先ですか?」

 尋ねればグエンさんはしゃがんで、わたしの体をぐっと抱き寄せてきた。


「先にアカネからいただこうか」

「ストップ! ストップですグエンさん! それは子供の教育上よくないです!」

 色っぽい声で囁いたグエンさんに、思わず焦る。

 きっとわたしの顔は真っ赤になってるに違いなかった。


「いつもやってるようにやってみたんだが、駄目なのか」

 グエンさんは少し驚いた顔をしていた。

 それでいいと思っているグエンさんに、わたしが驚きだ。


「駄目です。アウトです! ここはご飯を選択してください」

「……わかった」

 わたしの言葉にグエンさんは素直に従った。


「今日はグラタンと魚のムニエルと、野菜たっぷりのスープですよ」

「ありがとう。珍しく魔物は入ってないんだな」

 玩具の食べ物がはいった器を渡せば、グエンさんが受け取って食べるふりをする。

 魔物?と思って聞いてみれば、グエンさんのいるラザフォード領では、魔物といわれる魔力を持った動物がいて、それを食べているらしかった。


「さてと、食べ終わったからデザートだな」

「ごめんなさい、それは準備してないんです」

 グエンさんの言葉に答えながら、グエンさんの家ではいつも食後にデザートがあるのかなぁなんて思う。

 飴をあんなに持っているくらいだから、もしかしたら甘いものが好きなのもしれない。顔に似合わないけれど。


 そんなことを考えていたら、グエンさんがわたしの腕を掴んできた。

「デザートならそこにあるだろ。一番美味しそうなのが」

 そう言って、グエンさんはわたしを見つめてにっと笑う。

「……グエンさん、もしかしてそれって奥さん役のわたしの事を言ってるのでしょうか」

「それ以外に何があるんだ?」

 あまりの事にちょっと震えながら尋ねれば、当たり前だろうというようにグエンさんは首を傾げる。


「それもアウトですっ!」

 つい大きな声を出して叫べば、グエンさんはこれもかと不思議そうな顔になった。

 これでいいと思っているグエンさんが、わたしには不思議でしかたない。

 

「デザートはなしで。じゃあ次はお風呂に……」

 言いかけてはっとする。

「一緒に入るとかはなしです」

「いや、夫婦なら当然一緒だろ?」

 先回りして言えば、グエンさんは何を言ってるんだという顔になる。

 わたしの方が、何を言ってるんだとグエンさんにいってやりたい。


 この後はおやすみなさいをして、おままごとは朝へと移るのだけど。

 このままグエンさんとやってたら、どうがんばっても子供の教育上よくない方向にしか進みそうになかった。


「グエンさん、チェンジです! わたしがお父さん役の手本を見せます!」

 そう言えば、グエンさんはわかったと頷いた。

 同シリーズの「オオカミ騎士の捕虜になりました」の完結記念となります。

 グエン、リサはそちらのキャラクターとなります。楽しんでいただければ嬉しいです。全3話で明日も更新です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「育てた騎士に求婚されています」
前作。ヴィルトが主役のシリーズ第1弾。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ