雨傘
―雨傘―
「傘、忘れた」
降り続ける雨を眺めてため息を吐く。
昨日叢雲に教えてもらったのに…
朝の自分に文句を言いたい。
さて、どうしたものか。
雨に濡れて帰るしかない…かな。
あ、いや、そういえば。
「霖くーん」
「はいはーい!呼んだッスか?」
上空からふわりと降りてきたのは“雨”の主、霖雨くん。
まぁ、私の目的は…
「傘」
「へ?」
「傘貸して」
「えぇーっオイラのッスかー?」
彼がいつも持ち歩いている傘。
雨を表しているくせに何で持ってるんだか。
「ね、霖くん」
「しょうがないッスね」
渋々というように青い傘を渡してくれた。
「ありがとう!ほら、帰ろ」
少しすねている霖くんの手を引いてやれば、彼は一瞬目を丸くして微笑む。
「…雨は好きッスか」
「うん。この傘越しに聞こえる音も、水溜まりに落ちる音も落ち着く」
「そッスか」
二人で静かに雨の道を歩く。
「小夜ちゃんにも聞かれたな…」
「雨って嫌われやすいッスからね」
淋しそうに呟く霖くんにちょっとムッとして、少し高いところにある顔を覗き込む。
「私は好きだよ」
霖くんは目を丸くした。
そして、顔を背け照れ臭そうに笑いながら、雨音の中何かを呟いた。
(ホント、かなわないッス)
その言葉は聞こえなかったけれど。
―霖雨【りんう】―