夜と雨
―夜と雨―
「小夜ちゃん」
雨が強く降る夜。今日はそんな日。
特に何の気もなく、暗闇にぽつりと呟いた。
「呼んだかにゃ?」
ひょこり、と小さな少女が窓からこちらを覗く。
漆黒の髪は雨に濡れることもなく、大きな灰色の瞳はキラキラと私を見ている。
「ん、こんばんは」
「こんばんみゃ!」
返事を返すと嬉しそうに窓を開けて入ってきた。
もう鍵とかそんなの無視。
「今夜は雨なんだね」
「んみゅ…雨、イヤ?」
しゅんとする小さな少女。
そう、彼女がこの“夜の雨”を表す者…小夜時雨ちゃんだ。
「別に、私は好きだよ」
「本当ッ!?」
くすっと笑って答えると、先程までの落ちこみが嘘のように顔を輝かせる。
その様子にまた笑みをこぼし、小さくてふわふわの頭を撫でた。
「うん、夜の静かなときの雨音って少し気持ちいいし」
「きゃー!紫お姉ちゃん大好き!!」
「おっと…」
飛び付いてきた小夜ちゃんを辛うじて受けとめる。
「あーあー、毎日お姉ちゃんに会いたいのににゃー」
ぷくぅっと膨れる小夜ちゃんに笑いながら、それはちょっと…と心の奥で呟いた。
月や星も見たいしね。
げど今夜は…
(雨の夜を楽しみますか)
まだ夜は長い
―小夜時雨【さよしぐれ】―