雨桜
―雨桜―
両隣で膨れている二人をよしよしと宥める。
時刻は黄昏…逢魔が時。
昼夜二人の雨の主が、私にぴったりくっついて拗ねていた。
「皆あんまりっス…オイラが桜を散らせてるワケじゃないっス…」
「小夜ちゃんも悪くにゃいもん…」
「そうだね。自然現象だし」
そう、桜が咲いたときは雨が嫌われる。
花が散っちゃうとか、せっかく咲いたのにとか。
咲いたものは散るのだし、仕方ないと私は思うけどね。
「小夜ちゃんだって…みんにゃとお花見たいにょにっ」
「オイラだって…」
ぐずぐずと両隣が呟く。
あーー…雨が強くなってきた。コレはまずい。望まずとも花が全滅するよ。
「あ、二人とも私とじゃ不満なんだ?」
ちょっとずるいけど…仕方ないよね。
予想通りぴたっと二人の動きが止まった。
「残念だな…私は二人と桜見したかったのに」
「え…本気っスか…?」
「紫お姉ちゃん…一緒?」
うるうると見つめてくる二人に苦笑をこぼし、高さの全然違う頭に手をおいてゆるゆると撫でる。
霖くんは少し恥ずかしそうに、小夜ちゃんは気持ち良さそうにしている。
「言ったでしょ。私、別に雨嫌いじゃないの。それに…」
水溜まりに落ちていた花びらを水ごと手で掬い、二人に見せた。
「雨の桜見も、風情あると思うけど」
「「…」」
二人はしばらく惚けた後、顔を見合わせて笑った。
「やっぱかなわないっスね…。誰にもいわれたことないっスよ」
「紫お姉ちゃん!桜見するにょ!」
いつのまにか小降りになった雨の中、散らずに残った桜と水溜まりにゆれる花びらが風景に色を付けていた。
青い雨傘に張りついた花びらに笑みをこぼす。
雨音のなか「ほら、綺麗でしょ」と呟けば、雨の主達の嬉しそうな肯定の声が聞こえた。