桜
―桜―
満開。
それ以外の言葉は私のボキャブラリーに存在しない。
美しい桜吹雪が神社一面に舞っている。
「今年も綺麗じゃん」
「お気に召していただけました?」
桜の影に声をかけると、やわらかい声で返事が返ってきた。
「ずいぶん賑やかですね」
美しい黒髪は風に揺れ、様々な花が型取られた髪飾りはきらめいている。
彼女は“花”の主、花影。本日の花見の主役だ。
「今年は皆来ちゃったからね」
「ふふっ、たまには楽しいじゃないですか」
ころころっと笑って花影は盛り上がっている集団を見る。
「花も喜んでいます」
「へぇ、花影嬉しいんだ?」
にやっと意地悪く笑ってそう言えば、花影はしまったとばかりに赤くなる。
「あ、わ、わたし、あのっ」
すごい勢いで赤面する花影がとても可愛い…のだけど。
「わ!ちょっ、花咲きすぎじゃない!?」
「桜が吹雪通り越して雪崩になってんぞ」
「花影!貴方何してるの!」
花影の影響で花も桜も乱れ咲いた。
よかった、今年は巻き込まれなくて。
去年は埋まったもの。
「お、おだまりくださいっ!というか佐保は人のこと言えないですよ!」
「な!?あれはもう謝ったでしょう!」
…何故だろう。男性人の方が静かだ。
「…叢雲、桜綺麗だね」
「…(コクリ)」
「晴昊〜酒ぇっ」
「陽炎さん飲み過ぎじゃない?」
騒がしさもまぁ良いかと思いながら、咲き誇る桜を眺める。
「最高の風景じゃん」
私の呟きに、皆が笑った気がした。
―花影【かえい】―