プロローグ
天国は存在すると思うか、と。
問うた正示に対し、一善はおもいっきり怪訝そうに眉を寄せた。
「ンだそりゃ、アナタハ神ヲ信ジマスカ系のウっザい話か?」
「いや、その……以前、沙希さんに尋ねられたことがありまして……」
旧東都タワー占拠から、十日が経過していた。
今週だけで既に三度目の緊急出動要請により、正示たちは癸区は緑槍寺、観光名所として名高い千鳥門の前に立っていた。
隣で警戒態勢を取っていた沙希が、じろりとこちらに半目を向ける。
「二人とも、雑談は時と場所を選びなさい!」
沙希の注意も無理はない。
今現在、三人の前には、十数名から成る〈セフィラスフェザー〉のクリエイターが列を成して詰め掛けているのだ。
未遂に終わった東都タワーの事件以来、一善を奪取せんと矢継ぎ早に送られてくる予告に逐一対応している。こうも引っ切りなしに緊急出動が続くと、いくら引っ込み思案な正示とはいえ多少は慣れてくる。会戦前に雑談の一つでも交わす余裕ぐらいは出てくるというものだ。
「そーさなぁ……」
のんきそのものといった様子で、一善をあごに手を露骨に考えるポーズを取り、
「アタシなんかは、今、ココが天国なんじゃねえかと思うけどな?」
言い置き、パキリポキリと指を鳴らしつつ歩を進め、
「綺麗なモンが見れて、美味いメシが食える。気心の知れたダチがいりゃあ、無謀な敵にもこと欠かねぇ。最高じゃねえか、なァ?」
周囲を囲む敵性クリエイターを、右から左に睨み付ける。
「んじゃま、いっちょ戦り合いますか!」
大胆不敵に歯を見せ笑い、がっしと腕組み仁王立ち、
「特務機関〈クリフォトスフィア〉、独立執行部隊所属――〈無神論〉の神代・一善!」
あらん限りの大声で、
「泣きてェ奴から――かかってきやがれっ!」
長きに亘る戦いの、始まりを告げた。