プロローグ
私はかつて、神を見たことがある。
あの日、彼女を抱いて座り込む事しか出来ずにいた私の眼前に、神はほんの少し手を伸ばせば届くほどの距離に、確然と存在していた。
この世界を遍く彩る森羅万象を創造し、公平かつ絶対なるルールを敷き、全知全能にして唯一の存在を前にして、私は膝を折り、深く頭を垂れて、心の底から願ったのだ。
どうか、彼女を救って下さい――と。
しかし。
いくら望んでも、どれだけ祈っても、決して願いが叶うことはなかった。
長き沈黙の果てに、私は気付いた。
永久不滅であるはずの彼――或いは彼女――は、既に手の施しようがないほどに腐り、錆び付き、朽ち果てていたのだ。
神は――
否。
それはもう、どうしようもない程に死んでいた。
所詮はヒトが、奇跡を祈り、救いを願って作り上げた紛い物だったのだ。
これは偽物であり、あれは虚像であった。
それは木偶であり、もはや残骸であった。
私は、確信した。
この世界に、神は不在い。
ならば。
ならば、どうする?
――簡単なことだ。
創り直せばいい。
今度こそ、神が存在するに相応しい世界を。
今度こそ、彼女が心から笑うことができる楽園を。
だから、私は――